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閑話4 とある受付嬢の苦悩2

引き続きアニタ視点です。


 親方は、ノーマルオークの解体を他の職員に任せ、私たちを別室に案内しました。親方が使っている解体部長室です。

 室内には、書類が山積みになった机と、シンプルな応接セットが置いてあります。

 親方に勧められ、私もギルマスと一緒にソファに腰掛けました。親方は、ギルマスの正面に座ります。


「で?お願いってなんだ?残りのオークも買い取れってことか?」

「それもあるわ。ちなみに、どれくらいまでなら買い取ってくれる?あ、解体手数料割引はなしで買い取ってね」

「あ?未解体なら解体手数料取るのが普通だろうが」

「でも、この街周辺にはオークなんて出ないし、練習するいい機会でしょう?練習費用だと思って、手数料なしで買い取ってくれないかしら?」


 ギルマスが笑顔で頼み込みますが、親方の表情は険しいです。ですが、解体部の内情を鑑みると、親方の反応も当然のものと言えるでしょう。

 普通、解体部が未解体の魔物を買い取る際は、解体手数料が発生します。それは、解体職員を雇ったり、解体道具を購入したりするための費用として使われるもので、安易にカットできるものではありません。

 今でさえ、解体部は予算ギリギリで成り立っているのです。今回解体手数料なしで大量の魔物を買い取れば、赤字確定です。

 ギルマスは、一応ギルドマスタ―なのですから、解体部の事情は知っているはずです。それなのに、こんな無茶なお願いをしているのには、何か事情があるのでしょう。

 親方も私と同じ思いのようで、ギルマスに聞きました。


「おい、ハヴィティメルネ。いや、ギルドマスター。ギルドマスターであるお前なら、解体部がギリギリだってこと知ってんだろ。いくらオークが珍しいといっても、ノーマルオークじゃ肉はともかく、魔石は売ってもたいした額にはならねぇから、人件費諸々を考えると、損でしかねぇ。解体部の部長としては、お前の頼みは受け入れられねぇよ」


 親方は、いつになく真剣な表情で話します。私が親方のこんな顔を見るのは久しぶりです。最近は、家で義父とうさんと飲んで酔っ払ってばかりでしたので、新鮮に感じました。

 私が親方に感動している間にも、話は進みます。

 ギルマスは、親方の言葉に笑みを崩さないまま返します。


「つまり、解体手数料なしで解体しても利益が出るような魔物なら、手数料なしで買い取ってくれるということね?」

「ん?ああ、まあ、種類にもよるが、必要経費を賄えるだけの利益が出る魔物なら考えなくもないな」


 親方がそう言った瞬間、ギルマスがにやりと笑いました。あ、これは、勝利を確信したときの顔です。

 親方もそれに気が付いたようです。慌ててギルマスに言います。


「言っておくが、俺はまだお前の頼みを了承したわけじゃねぇぞ。考えると言っただけだ」

「わかってるわ。でも、あなたはきっと了承する。それだけすごい魔物だもの」


 まったく動じないギルマスに、親方は恐る恐る尋ねます。


「……何を買い取ればいいんだ?」

「とりあえず、ノーマルオークが18体。それから……」

「ま、待て!ノーマルオーク18体を解体手数料なしで買い取るなんて、できるわけが……」

「まだ話は終わってないわ。最後まで聞いてちょうだい」


 ノーマルオーク18体と聞いた親方が、顔を真っ青にして待ったをかけます。しかし、ギルマスは親方の反論を一言で切り捨て、言葉を続けようとします。親方は、出かかった言葉を飲み込んで、続きを促しました。


「それから、オークキングが1体あるわ。これならどう?」


 オークキングと聞いた瞬間、親方の目の色が変わりました。


「それは本当か?嘘じゃねぇよな?」

「ええ。すぐにバレる嘘をついてどうするのよ」

「いや、まさかお前にオークキングを討伐できるほどの実力があったとは思わなかったからな」

「ああ、あらかじめ言っておくけれど、オークキングを倒したのは私じゃないわよ」

「えっ?」


 親方は、ギルマスがオークキングを討伐したと思い込んでいたようで、違うと聞いて驚いたのか、間抜けな声を出しました。

 そして、すぐにその意味に気が付くと、ギルマスに詰め寄りました。


「この街に、お前以外にオークキングを討伐できるほどの実力があるやつがいるのか!?それはどこのどいつだ!?」


 親方はかなり興奮しているようです。次第に声が大きくなっていきます。

 そんな親方に、ギルマスはさらっと答えました。


「トモリちゃんよ。最近この街に来た冒険者なの」

「トモリ……。ああ、あの喋んない嬢ちゃんか」


 先日トモリさんと会ったことを覚えていたようです。親方がトモリさんの特徴を答えると、今度はギルマスが驚いて言いました。


「あら?トモリちゃんのこと、知ってたの?」

「ああ。状態の良いアースウルフを何匹か売りに来たからな。あんなに良いやつは久しぶりだったから、記憶に残ってたんだよ」

「そう。なら、話は早いわね」


 ギルマスはそう言うと、一度言葉を切って、今までと違う真剣な表情で言いました。


「ギルドマスターとして、解体部部長ハンスに、2つ頼みがあります。ひとつは、ノーマルオーク18体とオークキングを解体手数料なしで買い取ること。もうひとつは、トモリちゃんのCランク昇級の承認をしてください」


 やはり、ギルマスは親方に承認をもらうことにしたようです。確かに、親方は一応解体部の部長ですし、ギルマスとは知り合いですから、他の者よりも頼みやすいのはわかります。

 ですが、親方はかなり慎重な性格です。証拠もなしに納得してくれるとは思えません。

 案の定、親方は突っかかってきました。


「Cランクだと?ギルマス権限でのランクアップの承認か?だか、確かあの嬢ちゃんは、つい最近冒険者になったばかりじゃねぇのか?」

「そうだけど、オークキングを倒せるだけの実力があるのよ?いつまでも低ランクでいさせるより、さっさとランクアップさせて、ランクの高い依頼を受けてもらいたいじゃない」

「それはそうだが……」


 親方は迷っているようです。ギルマスは、再び笑顔になって答えます。

 どちらかというと、ギルマスが優勢のように見えますが、どうなるのでしょう。

 私は、ハラハラしながら黙って事の行く末を見守ります。

 このまま何の問題もなく決まってくれるといいのですが……。

 心配のしすぎで、だんだん胃が痛くなってきました。早く終わってほしいです……。


次回で閑話は終わる予定です。

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