39.ぼっち少女の多忙な一日3
私たちは、ゴブリンの集落がある場所から100メートルほど離れた場所に転移し、そこから歩いて集落に向かった。
「探索」を使って確認すると、オークやウルフの位置は、ここを離れる前とほとんど変わっていないことがわかった。オークキングの位置も同じだ。
集落に近づくと、私を先頭にして、木の陰に隠れながら進んだ。集落が見える位置までくると、私はハティさんに合図した。
ハティさんは、近くの木の陰から集落の状況を見ると、黙って私を手招きした。
私は、魔物に気付かれないようにそっとハティさんに近寄った。
「あなたの言ったとおりの状況ね。ゴブリンの集落に、本来いるはずのないアースウルフとノーマルオーク。ここからは見えないけど、オークキングはどこにいるのかしら?」
私の耳元で囁くハティさん。
私は、オークキングの居場所の方角――集落の奥の方を指差した。
「オークキングは奥にいるのね。……もしかして、索敵系のスキルか何かを持ってるのかしら?」
いきなりスキルのことを言われて驚く。何で急にそんなことを、と思って考えてみると、すぐにわかった。
集落の外周には、漏れなくノーマルオークかアースウルフがいる。この状況で、奥にオークキングがいると知るには、そのためのスキルなどが必要になるのだ。
これは隠しておけそうにないと思った私は、素直に頷いた。
「やっぱり……。まあ、冒険者個人の能力については必要以上に詮索しないのが暗黙の了解だから、これ以上は聞かないわ。それより、魔物の数と場所は詳しくわかる?作戦を立てるのに知りたいの」
私は「地図」を見ながら、拾った枝で地面に簡単な地図を描き、ノーマルオークを○、アースウルフを×、オークキングを☆で示した。
この集落にいるのは、ノーマルオークが24匹、アースウルフが47匹、オークキングが1匹の計72匹。ノーマルオークは私たちから見て左側、アースウルフは右側に集中している。
このくらいなら簡単に倒せるな、と思っていると、ハティさんが険しい顔をした。どうしたんだろう?
疑問に思って見つめていると、視線に気付いたハティさんが、小声で教えてくれた。
「思っていたよりも魔物の数が多いわ。私たちだけでは難しいかも……」
え?たったの72匹だよ?迷宮に比べれば全然少ない。それなのに、ハティさんは一体何を言ってるのだろう?
そう思っていると、顔に出ていたのか、ハティさんが聞いてきた。
「その顔、もしかして、このくらいなら問題ないとか思ってる?」
少し棘のある口調で言われたけど、構わず頷く。
すると、ハティさんは、たっぷり1分は私を見つめたあと、作戦を言った。
「……わかったわ。今はあなたの言うことを信じましょう。どうせ今、フィルリアの街には私たち以上の実力者はいないのだから、応援は期待できないもの。それで作戦だけど、トモリちゃん、あなたにはアースウルフの方をお願いするわ。仲間を呼ばれる前に片付けてちょうだい。その間に、私はノーマルオークを倒すわ。終わったら中心部で落ち合いましょう」
私が頷くと、ハティさんは立ち上がって地面の地図を足で消すと、ローブを脱いで白いギルドカードに仕舞った。
そして、私が立ち上がるのを待ってから、剣を抜いて集落に向かって走っていったので、私もハティさんに続いて集落に向かった。
アースウルフとの戦闘はすぐに終わった。
アースウルフは、敵に気が付くと固有スキル「遠吠え」で仲間を呼ぶので、その前に仕留める必要がある。
そのため、私は「隠形」で姿を隠してアースウルフに近寄り、「氷槍」で一気に仕留めていった。
5分もかからずにアースウルフを倒し終わると、「探索」でハティさんの様子を伺うと、まだノーマルオークは20匹近く残っている。
これは、加勢した方がいいかな?
私は、倒したアースウルフを「無限収納」に回収すると、ハティさんのもとに向かった。
ハティさんは、剣と魔法を併用して戦っていた。土の魔法で目つぶしをして隙を作り、剣でとどめを刺す。
危なげなく安定して戦ってはいたけど、1匹倒すのに数分はかかっている。
魔法が使えるなら、魔法で倒してしまえばいいのにと思ったけど、今は戦闘中だし、それを伝える手段がないので黙って加勢することにした。
「隠形」を解除して、「氷槍」でハティさんの背後から襲い掛かろうとしていたノーマルオークを倒す。
それと同時に自分が相手をしていたノーマルオークを倒したハティさんが振り返って私を見つけた。
「あれ?どうしてトモリちゃんがここに?アースウルフは?」
ここで字を書くわけにはいかないので、私はポケットに手を入れて、そこに「無限収納」からギルドカードを出し、ハティさんに見せた。
アースウルフは全部倒して収納しましたという意味なんだけど、ハティさんはわからなかったようだ。アニタさんならこれでわかってくれるんだけどなぁ。
仕方ないので、今倒したオークにギルドカードをかざして、カードに収納するように見せかけた。実際は、時間経過のない「無限収納」に収納したけど、こうすればカードに収納したように見えるはず。
ここまでして、やっとハティさんもわかったようだ。
「え?もう全部倒しちゃったの?えっと、じゃあ、こっち手伝ってもらえる?」
あまりの早さに驚いて混乱したハティさんだけど、ここは戦場。周りにはノーマルオークがいる。
ハティさんはすぐに戦闘モードに切り替えると、私に協力を要請し、自分は目の前のオークに斬りかかった。
私は、ハティさんが相手をしていないオークを、片っ端から「氷槍」で倒していった。
そして、ハティさんが1匹倒す間に、残りの18匹すべてを倒した。
余裕があったので、ノーマルオークを鑑定すると、思っていたよりも弱かった。
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ノーマルオークB
【職業】なし
【特徴】普通のオーク。雑魚。
【固有スキル】防御力強化Ⅰ
【レベル】6
【体力】80/80
【魔力】23/23
【筋力】24
【防御】30
【命中】13
【回避】13
【知力】11
【精神力】11
【速度】11
【運】13
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あっという間にノーマルオークを全滅させた私を、ハティさんは呆気にとられた顔で見た。
「強いのはわかってたけど、まさかここまでとは思わなかったわ。これなら、オークキングもなんとかなるかもしれないわね」
そう言って、ハティさんは倒したオークを回収し始めた。
私は、ハティさんの目があるので、面倒だけど1匹ずつカードをかざして、カードに収納するフリをしながら「無限収納」に収納した。
そして、回収が終わると、ふたりでオークキングのいる場所に向けて歩き出した。
途中、オークかウルフに殺されたらしいゴブリンの死骸も手分けして回収した。
あとで解体して魔石を売るそうだ。
先に「無限収納」内で解体しておこうかとも思ったけど、そうすると解体スキルがあることも言わないといけなくなりそうなので、回収した魔物はそのままにしておくことにした。
そんなことをしながら集落の奥へ進むと、少し開けた広場のような場所があり、そこにオークキングがポツンと立っていた。
私たちは見つからないよう、できるだけ建物の陰に隠れながら進んだけど、ゴブリン用の建物なので完全に隠れるには低すぎた。
オークキングは広場に近づいた私たちを発見するなり、すぐに攻撃をしてきた。私たちは咄嗟に反対方向に逃げたけど、広場は直径10メートルほどしかなく、すぐに追いつかれてしまう。
結局、私たちは何の作戦もないまま、行き当たりばったりでオークキングと戦うことになった。
……作戦なしで、連携とか大丈夫なのかな?
一抹の不安を覚える私だった。
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遠吠え
【発動】任意
【説明】使用者の周囲半径10メートル以内にいる同族を呼ぶ。
【使用方法】遠吠えする。
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