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38.ぼっち少女の多忙な一日2



 「それで、何があったのか説明してくれるかしら?」


 ギルマスの部屋で、私はハティさんと向かい合って座っている。

 依頼に関することだからか、ハティさんの表情はいつもより固い。

 ハティさんにつられて、私も真面目な顔で説明を書き始めた。

 ゴブリンの集落の殲滅依頼を受けたこと、集落を探しながらゴブリンを討伐したこと、集落らしき場所に行ったら、オークとウルフがいて、ゴブリンは全滅していたことを簡潔にまとめて紙に書いて渡した。

 読み終わると、ハティさんは隣のアニタさんに紙を渡し、自分は正面を向いて言った。


「ゴブリンの集落が壊滅していて、オークとウルフがいたというのは、本当なのね?」


 私は、読み終わったアニタさんから紙を受け取りながら頷いた。


「そう。もう一つ確認だけど、集落にいたのは、ノーマルオークとアースウルフで間違いない?他の魔物はいなかった?」


 それを聞いて、私は、集落の外にオークキングがいたことを思い出した。

 それを書いてみせると、ハティさんは驚きの声を上げた。


「森にオークキングがいた?それは本当なの、トモリちゃん!?」


 机に手をつき、身を乗り出して聞いてくるハティさんの迫力に、私は思わず身を引いてしまった。

 私の反応に自分が興奮していたことに気付いたハティさんは、ソファに座り直すと、コホンと咳払いをしてから話を続けた。


「えっと、本当に森の中にオークキングがいたの?」


 真面目な顔に戻って話すハティさんに、私も真面目な顔で頷いた。

 それを見たハティさんは、しばらく考え込む仕草をした後、顔を上げて私に言った。


「トモリちゃん。私を、現場まで連れて行ってくれないかしら?」


 えっ!?ハティさんが一緒に来る?

 予想外の展開に驚く私。ふとアニタさんを見ると、アニタさんも驚いた顔でハティさんを見て固まっている。

 私たちの視線を受けて、ハティさんは説明を始めた。


「普通、オークキングが迷宮の外に出現することはないの。それに、この街の周りの森にオークが出現したという情報は、ここ数年なかったわ。それに、ウルフはともかく、オークがゴブリンを襲うなんて話、私は聞いたことがないわ。つまり、トモリちゃんの話が本当なら、これは相当な異常事態ってことになり、私は冒険者ギルドのギルドマスタ―として、事態の解決に動かなければならなくなる」

「でも、だからって、ギルマスが偵察に行く必要は……」

「だからこそ、よ。この街は始まりの街。冒険者も経験の浅い初心者がほとんど。そんな者に、重要な任務を任せることなんてできないわ。それに、アニタ、あなたなら知ってるでしょう?私も元冒険者なのよ。腕には自信があるわ」


 アニタさんの質問に、ハティさんは自信たっぷりに答えた。

 ハティさんは、元冒険者だったのか。

 それが何で冒険者ギルドのギルマスなんてやってるんだろう?

 ハティさんって意外と謎が多い人だなぁと思った。

 私がそんなことをぼんやりと思っている間に、話し合いは終わったようで、ハティさんが一緒に行くことに決まった。

 ハティさんは、部屋の隅に置いてあるクローゼットから武器や防具など、装備一式を取り出して装備していく。

 どれも新品のようにピカピカと輝いていたし、ハティさんの手つきから、とても大切にしているのがわかった。

 最後にローブを羽織って防具や腰の剣を隠したハティさんは、地図を出して私に場所を聞いてきた。

 私は記憶を頼りに、集落のあった位置を指差すと、ハティさんは遠いと言って悩み始めた。

 ここって、そんなに遠い場所かな?ほとんど転移か飛行で移動する私は、普通の人の移動手段が何かをすっかり忘れていた。


「こんなに遠いと、今から駆けつけても間に合わないかもしれないわね。トモリちゃんがここまで戻ってきた時間を考えると、もしかしたら、もう……。ねぇ、トモリちゃん。オークキングを見つけてから、今どのくらい時間が経ってる?」


 ハティさんに聞かれて、考える。

 えーっと、見つけて、街に戻ってきて、ギルドに来るまでが約5分。それから、アニタさんに話して、この部屋に来るまでにまた5分。そして、話を始めてから今までがだいたい10分くらいだから、20分ってところかな?

 でも、この世界には「分」という概念がないので、ちょっとおまけして半刻と書いた。

 それを見たハティさんは、首を傾げた。


「半刻?1刻半ではなくて?」


 間違っていないので、頷くと、ハティさんは私の肩を掴んで前後に大きく揺さぶった。


「今は真面目な話をしているのよ!ふざけないで本当のことを言ってちょうだい!」


 私が半刻と書いたことが、なぜかハティさんの逆鱗に触れたらしい。

 激怒したハティさんに体をゆすられて、頭がクラクラしてきた。

 見かねたアニタさんが止めてくれなかったら、倒れていたかもしれない。

 ヒートアップしていたハティさんは、アニタさんになだめられて少し落ち着いたようで、一度ソファに座り直すと、口を開いた。


「ごめんなさい。突然のことで気が動転していたみたい。あなたを苦しめるつもりはなかったの」


 本当に申し訳なさそうな顔をして謝るハティさんに、気にしないでと示すと、続きを促した。


「でも、あの場所からここまで半刻以内で来れるなんて、信じられないわ。どんなに頑張っても、走って1刻弱が限界なのに。一体どうやったの?」


 ……走って1刻?そういえば、この世界の移動手段って、基本歩きだったっけ。

 それで、ここから集落の場所が遠いって言ってたのか。

 これは、またやってしまったのかもしれない。でも、緊急事態だし、変に隠したりせず、本当のことを言った方がいいよね?

 私はしばし考えると、紙に「転移した」と書いた。

 私が転移ができると知ると、ふたりともさっき以上に驚いた顔をしたけど、信じてくれた。

 そして、私はハティさんを連れて、集落の場所まで転移した。

 他の人を連れていくのは初めてだったけど、成功してよかった。




 

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