3.ぼっち少女の飛行魔法
※燈里の詠唱は、すべて心(頭)の中で行っています。
ステータスの確認も終わったので、そろそろ町にでも向かおうと思う。
でも、ここは森の中。町の姿は欠片も見えない。
さて、どうしよう。
とりあえず、適当な方角に歩いてみる……のは、さすがに現実的じゃないので却下。
誰かに道を聞く……というか、誰か人を見かけていれば、とっくに移動を始めてるよ。
何か目印のようなものがあればいいんだけど、ぱっと見、見当たらないし。
こうなったら、もう、アレしかないよね?
そう、アレ。
空から探す!
この世界には、魔法があるみたいだし、空を飛ぶことくらいできるはず。
そう思って、早速、スキルを使ってみることにする。
使うのは、「想像創造」。空を飛ぶことを想像して、唱える。
『創造・飛翔』
結果から言うと、目に見える変化は何も起こらなかった。
唱えたらすぐ空を飛べると思っていたので、かなりガッカリした。
でも、よく考えると「想像創造」は、「創る」スキルで、魔法を「発動」させたわけではないから、何も起こらなくて当然といえば当然だった。
もう一度ステータスを確認したけれど、表示に変化はない。
もしかして、失敗した?
不安になって、ステータスの項目を上から順にタップしていく。
そして、「想像創造」の項目をタップすると、【使用方法】の下の行に、〔コマンド〕と「飛翔」の項目が追加されていた。
期待を込めて、「飛翔」の項目をタップする。
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
〔コマンド〕
飛翔
【属性】風
【タイプ】その他
【発動対象】指定
【効果】対象を飛翔させる。
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
……相変わらず雑な説明だった。
効果の説明、そのままじゃない!もうちょっと他に言いようがあると思うんだけど。ほら、「空が自由に飛べる」とかさ。もっとマシな言い方があると思うのよ。
まあ、ここでひとりでツッコミを入れていても虚しいだけなので、早速使ってみることにする。
最初なので安全面を考えて、浮く高さは地面から30センチくらいでイメージして唱える。
『飛翔』
すると、私の体はふわりと宙に浮かび、ちょうど地面から30センチくらいのところで止まった。
そのまま、腕を振り回してみたり、足を曲げたり伸ばしたりしてみたけれど、大きくブレることなく、安定して浮いていられた。落ちる気配もない。
安全性が問題ないことを確認できたので、高度を上げてみる。
今度は、一気に木の上を目指した。木の上の高さまで、ゆっくりと上昇するイメージをすると、呼応するように、私の体も徐々に上昇していく。そして、木の最上部から体全体が出たあたりで、ゆっくりと停止させた。
停止すると、私は周りに目を向けた。私がいたのは森のほぼ中心だったようで、どの方角を見ても、下には木の緑が広がっていた。
でも、かなり遠くではあったけれど、町の外壁らしきものが見えて、ほっと胸を撫で下ろした。
目視で確認できる距離なら、このまま飛んでいけばすぐに着ける。
私はそのまま、町?の方へ向けて飛び始めた。
それから数分後。私は、地面の上にいた。
あのまま空を飛んでいくことには、大きな問題があることに気づいたからだ。
大きな問題。それは、風である。
ゆっくり飛んでいた初めのうちは、あまり気にならなかったのだけど、スピードを上げていくうちに無視できないほどになっていき、とうとう飛ぶのを止めて地上に降りてしまった。
まだ町?まではだいぶ距離があるので、このまま歩いていくわけにはいかない。
何しろ、私は水も食料も持っていない。「無限収納」を確認したら、いつの間にかこの世界のお金らしい銀貨が2枚入っていたが、他には何もなかった。
銀貨2枚って、なんて中途半端なんだろう。銀貨1枚の価値がわからないので金額的に多いのか少ないのかわからない。それに、これからのことを考えると、銀貨2枚で生活できるとは思えない。
町に入って、食事をするためにも、ある程度稼いで行かないと。
どうやって稼ぐのかって?
それはもちろん、異世界の定番である魔物討伐でしょう!
そのための時間も考えると、尚更、森の入り口付近までは飛んで行った方が良い。
そこで私は、もう一度「飛翔」の魔法を創り直すことにした。
今度は、飛ぶときは体の周りを薄い空気の膜のようなもので覆い、風の影響を受けないようにイメージする。ここらへんのイメージは、マンガやアニメの知識を総動員した。
『創造・飛翔』
うまくいったか確認するために、ステータスを開く。
さっきと同じようにして「飛翔」の項目を開くと、【効果】の説明が、「対象を飛翔させる」から、「対象を飛翔させる。その際、空気の膜を張り、風の影響をなくす」に変わっていた。
私がイメージした言葉とほぼ同じ説明だけど、もうツッコむのはやめよう……。
飛行魔法の問題は片付いたので、もう一つの問題を解決する。
それは、服装だ。
今の私は、元の世界の高校の制服(夏服)を着ている。召喚される時に着ていた服だ。
学校なら、これで問題はないのだけど、今は違う。
こっちの世界は、元の世界と季節が少し違うようで、元の世界より涼しい。寒いというほどではないので、春か秋のようだ。
初めは半袖で耐えられないというほどの気温ではなかったんだけど、空を飛んだときに上空の冷たい空気で体が冷やされて、すっかり寒くなってしまった。
それに、スカートで動き回るのはちょっと……ね。
というわけで、また「想像創造」を使って服を創った。
創ったのは、薄手の長袖のトップスに、元の世界で気に入っていたストレッチジーンズと運動靴。ついでに、この世界の人っぽさを出すために、ベージュ色のローブを創った。
ローブの下は、元の世界の普段着そのままだけど、ローブを脱がなければバレないからいいよね?
着替えを終えた私は、脱いだ服を収納し、修正した飛行魔法を使って、再び空へと舞い上がった。
目指すは、町?の外壁近くの、この森の入り口付近だ。