33.ぼっち少女のゴブリン迷宮攻略5
目を閉じて、意識を手放そうとしたとき、それは起こった。
体があたたかいものに包まれ、みるみるうちに痛みが引いていく。
朦朧としていた意識も、どんどん覚醒していった。
何が起こったんだろう……?
それを確かめるため、私は目を開けた。
目の前には、さっきと同じでゴブリンエンペラーがいて、大剣を振りかざしている。
逃げなきゃ!そう思った私は、なぜか回復した体を素早く動かし、ゴロゴロと横に転がった。
次の瞬間、さっきまで私がいたところに、ゴブリンエンペラーの大剣が振り下ろされた。
紙一重のところで攻撃を躱した私は、立ち上がると、体を見た。
そこには、確かに切られたはずの傷も、流れた血の一滴さえなく、服も元通りになっていた。
そして、意識を自分の奥深くに向けてみると、カウントダウンしていく時間が浮かんだ。
残り29分18秒56。
これが何を意味するものかわからないけど、カウントダウンが終わったら何かが起こるんだと思う。
こういうのはたいてい、よくないことが起こるけど、これはそんな感じはしない。
むしろ、カウントダウンしている間のほうが危険な気さえする。
これはいったい何だろう?
私は、自分でもよくわからない感覚に戸惑った。
他にも考えたいことは山ほどあったけど、今は置いておく。
ゴブリンエンペラーをなんとかする方が優先だ。
私は、異能「並列思考」を使いながら、「氷槍」を最大数の11本展開する。
私の周りに2本、ゴブリンエンペラーの左右に3本ずつ展開し、残りの3本は、天井付近に展開した。
そして、ゴブリンエンペラーが一歩踏み出そうと片足を上げた瞬間を狙って、一斉に放った。
11本の氷の槍が、ゴブリンエンペラーに向かっていく。
そのうちの何本かは、大剣で防がれた。残りも、ゴブリンエンペラーが唱えた火の魔法に溶かされ、到達する前に消えた。
あーあ!これならいけると思ったのに!
死角からの攻撃にも対応するなんて、ゴブリンのくせにやるわね!
そんなことを思いながらも、並行して作戦を考える。
異能のおかげで複数のことを同時に考えられるから助かってる。
まだ慣れてないから違和感はあるけど、使えるんだから問題はない。
ゴブリンエンペラーを倒す方法をいろいろ考えてみたけど、確実な方法が思いつかない。
私には肉弾戦は不可能だし、魔法攻撃も防がれてしまう。
固有スキルの効果が切れるまでまだ時間があるし、切れるのを待っていられるほどの余裕はない。
となると、一番可能性がありそうなのは、やっぱり、魔法で攻撃し続けること、だよね?
私は、とにかく魔法を連発して、ゴブリンエンペラーの魔力を削っていく作戦を実行した。
『氷槍』
『凍結』
『風刃』
『風嵐』
『雷槍』
『水刃』
『水嵐』
『水槍』
思いつく限りの魔法を連発する。
その9割近くが防がれているけど、気にしない。……当たったのもダメージが通っている気がしないけど、気にしない気にしない。
今はとにかく、できることをやるだけだ。
私は攻撃を躱すため、ときどき場所を移動しつつ、あらゆる魔法をあらゆる方向から放った。
私が魔法を使って攻撃するたび、ゴブリンエンペラーは剣と魔法で攻撃を防ぐ。
特に槍系の魔法は数が多いから、毎回のように魔法を使って防いでいた。
私は、魔法を使う合間に鑑定をして、ゴブリンエンペラーの体力値と魔力値をチェックする。
私の絶え間ない攻撃のおかげか、どちらも回復する量より減る量の方が多い。
私の「水嵐」を防いだところで、ゴブリンエンペラーの残りの魔力が1桁になった。
そして、続いて放った「水槍」は、魔力不足で魔法が使えないため防ぐことができず、剣で防いだ数本以外はすべてゴブリンエンペラーの体に突き刺さった。
「氷槍」ではないから、刺さったところから血が出ている。
見ていて気持ちのいい光景じゃないけど、気にしていられる状況じゃないから我慢した。
ついに攻撃を受けてしまったゴブリンエンペラーは、怒って無茶苦茶に剣を振り回す。
軌道が読めないせいで、躱しにくい。
でも、「並列思考」のおかげか、さっきより少しだけど余裕がある。
やっぱり異能って便利だな…………あっ!
私は、唐突に気がついた。
今まで使いどころがわからなくて放置していた大量の異能の中に、蘇生系の異能があったことを。
確か、自動で発動するものがあったはずだ。それが、死にかけたことで自動発動し、私を救った。
とすると、頭に浮かんでくるカウントダウンタイマーは、次に「蘇生」の異能が使えるようになるまでの時間かな?
うん。きっとそうだ。
なんの根拠もないけど、今はそう思うことにしておいた。
私はついでに、他にも使えそうな異能があったことにも気がついた。
実戦で使うのは初めてで、うまくできるかわからないけど、この状況を打破するにはやれることはやらないと!
私は、2つの異能を発動させた。
『思考加速EX』
『身体強化』
効果はすぐに現れた。
思考速度が今までと比べ物にならないくらいに速い。知覚したことの処理能力も上がっているのか、速かったゴブリンエンペラーの動きがゆっくりに見える。
そして、『身体強化」で身体能力が上がったおかげか、頭で考えたとおりに体が動く。
異能の助けを借りて、ゴブリンエンペラーの背後に距離をとった私は、まず「氷槍」でゴブリンエンペラーの体力を削っていく。
何本かは剣に弾かれてしまうけど、体力を削れさえすればいい。
私は何度も「氷槍」を使った。
そして、ゴブリンエンペラーの体力が1000を切ったところで、別の魔法を唱え、一気に決着をつけた。
『凍結』
ゴブリンエンペラーに直接作用する「凍結」は、剣で防ぐことはできない。
ゴブリンエンペラーは凍りついた。
そして、わずかに残っていた体力も、凍って生命活動が低下したからか減っていき……ついに、0になった。
体力が0になるのと同時に、鑑定結果が、「ゴブリンエンペラー」から「ゴブリンエンペラーの死体」に変わった。
本当に倒せたようだ。
やった…………!
緊張から開放された私は、安心のあまりその場に座り込んでしまった。
私、勝ったんだ…………!
良かった……。
本当に、良かった……!