32.ぼっち少女のゴブリン迷宮攻略4
私がボス部屋に入ると、自動で扉が閉まった。
扉が完全に閉まると、部屋の中央より向こう側が光始める。
光は徐々に強くなっていく。
私は、このあとのことを考え、光に背を向けて腕で目を覆う。
それでも、隙間から僅かに光が射し込んできたけど、目が眩むことはなかった。
光は、ひときわ強く光ると、すぐに収まっていった。
私は、光が完全に収まったのを確認してから、目を開けて振り返った。
そこには、体長5メートルはありそうな巨大なゴブリンが立っていた。
他のゴブリンは、せいぜい1メートルくらいだったのに対して、このゴブリンは明らかにでかい。
それに、見た目からして強そうだ。
私は、巨大なゴブリンを鑑定した。
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ゴブリンエンペラー
【職業】皇帝
【特徴】ゴブリンの皇帝。かなり強い。物理攻撃だけでなく、魔法攻撃にも注意。
【固有スキル】皇帝の特権Ⅰ、全属性魔法Ⅰ
【レベル】213
【体力】66135/66135
【魔力】27452/27452
【筋力】5671
【防御】5644
【命中】5700
【回避】5669
【知力】5664
【精神力】5664
【速度】5669
【運】5671
皇帝の特権Ⅰ
【発動】任意
【説明】全ステータス値を高める。最大10倍。効果時間は10分。
【使用方法】スキル名を唱える。
全属性魔法Ⅰ
【発動】任意
【説明】全属性の初級魔法が使える。
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……ゴブリンキングではなく、ゴブリンエンペラーだった。この世界では、こっちが主流なのかな?
まあ、キングでもエンペラーでも、倒すことに変わりはない。
でも、私はちょっと焦っていた。
このゴブリンエンペラー、ちょっとステータス高すぎない?すべての項目が私のステータスと桁違いなんだけど。
それに、固有スキルがヤバすぎる。
ただでさえ高いステータスがさらに10倍とか、規格外すぎるでしょう!しかも効果時間10分とか長すぎだし!
ゴブリン迷宮は初心者向けだっていうから、安心してたのに、これはちょっと無理かも。というか絶対無理。
私は、明らかに無謀なことはしない主義だ。
幸い、ゴブリンエンペラーはまだ動き出す気配はない。
私は、「地図」を開き、迷宮の外を指定すると、魔法を唱えた。
『転移』
これで、迷宮の外に出られるはず……。そう思っていたのに、魔法は発動しなかった。
私はまだボス部屋にいる。
どこかで間違えたのかな?
ひとつひとつ手順を見直して、もう一度魔法を使う。
でも、やっぱり何も起こらなかった。
……もしかして、ボス部屋って転移禁止エリア?
もしそうならピンチだ。あのゴブリンエンペラーは、今の私が戦うには強敵過ぎる。
通常時でもなんとかなるかも気がしないのに、固有スキルまで使われたら終わりだ。ただでさえ高いステータスが10倍になったら、無事で済ませられる気がしない。
それに、この部屋には隠れられる場所もないし、体躯の大きなゴブリンエンペラーから完全に逃げられるほどの広さもない。
うう、どうしよう……。
考え込んでいると、いきなりゴブリンエンペラーが手に持っていた大剣を振りかざした。
私は、「防御結界」を展開しながら、ゴブリンエンペラーの側面に向かって走った。
その途中、後ろから大きな衝撃が来たので、思わず足を止めて振り返ると、ゴブリンエンペラーの大剣によってボス部屋の床が大きく抉れていた。
うわー、すごい破壊力……。
あまりにも破壊力がすごすぎるので、気になってもう一度鑑定すると、ゴブリンエンペラーのステータスが10倍になっていた。
もうスキルを使ったの!?
予想以上に速い展開についていくのがやっとだけど、この状況を乗り切るには、ゴブリンエンペラーを倒すしかなさそうだ。
私は、意を決してゴブリンエンペラーに立ち向かった。
ゴブリンエンペラーの体力は66135。もし、ゲームのように、知力が魔法攻撃力を表しているのだとすれば、概算で約150回――防御力のことを考えると200回くらい、魔法を当てればゴブリンエンペラーを倒せることになる。
そう考えれば、できないこともないかもしれないと思い始めてきた。
私は、自分で破壊した床の瓦礫に挟まった大剣を抜いているゴブリンエンペラーの背後にそっと回り込むと、足を狙って「風刃」を放った。
足を封じられれば、だいぶ有利になる。
「風刃」は狙い通りにゴブリンエンペラーの足に命中したけど、表面の皮を切り裂いたくらいで、行動を制限するほどのダメージは与えられなかった。
それに、ゴブリンエンペラーは大剣を抜き終わったようで、高いステータスに見合った速さで大剣を振り下ろしてきた。
私は咄嗟に左に避けた。
ゴブリンエンペラーは右手で剣を持っていて、右手側の後ろから前(=私のいる方)に向かって剣を振り下ろしている。つまり、私から見て右に避けても、剣の軌道から外れることはできない。
なら、まだ高さがあるうちに、左に避けた方がいいと判断したのだ。
目論見通り、大剣は私の頭上を通り過ぎ、さっきまで私がいた場所を粉々に破壊した。
なんとか避けられたようだ。
そう思って、少し安心したのも束の間。
今度は床の残骸に埋もれたりはしなかったようで、ゴブリンエンペラーはすぐさま大剣を私に向かって振った。
剣術の素人の私から見ても、明らかに無理な体勢から放たれる一撃。
さっき避けられたことに安心してしまったせいか、突然のことに体が反応してくれない。
そうこうしている間にも、剣はどんどん迫ってくる。
剣が目の前に来ても、体は言うことを聞いてくれない。
私は、恐怖で目をつぶった。
そして、次の瞬間。
体に衝撃が走り、私は大きく後ろに吹き飛ばされた。
「防御結界」がある程度防いでくれたのか、即死は免れることができた。
でも、切られたようで、お腹が痛い。
手で触ると、ぬるりとした感触がある。出血しているようだ。
体から力が抜けていく。
……この感覚、前にもあったなぁ。
出血が多いのか、意識が朦朧としてきた。
目を開けると、ぼんやりとした視界に、こっちに歩いてくるゴブリンエンペラーの足が見えた。
ここで、私、死ぬのかな?
せっかく命拾いしたのに、また……。
そんなの、嫌だ、な……。
私は、ゆっくりと目を閉じた。
2020/3/20 ゴブリンエンペラーのステータスを大幅に上方修正しました。




