30.ぼっち少女のゴブリン迷宮攻略2
第4層は、峡谷だった。
階段を降りたところがすでに峡谷の底で、上に登れそうな道は見当たらない。
その代わり、峡谷の両側にはいくつか段差があり、人が通れそうな道幅があった。
「探索」で調べると、この階層にいるのはゴブリンアーチャーとゴブリンファイターであることがわかった。
アーチャーって、弓兵だよね。ということは、あの段差に隠れてて襲ってくる可能性が高い。
私は、危険そうな峡谷の底を歩いていくのは止めにして、いつも通り空を飛んでいくことにした。
空に上がると、峡谷を見下ろす。
予想通り、峡谷の側面にある段差の陰に、ゴブリンアーチャーが弓を持って並んでいた。
ゴブリンファイターは、峡谷の底で待ち伏せしているようだ。
それぞれ、5~10匹程度で固まっている。
これ、歩いて行ってたら挟み撃ちにあってたパターンだよね……。飛行魔法を創っておいてよかったよ。空なら弓も届かないし、絶対安全だもんね。
私は、「氷槍」でゴブリンアーチャーとゴブリンファイターを倒し、死体を回収しながら第4層を通過した。
この階層も、依頼は発生しなかったけど、ゴブリンアーチャーのボロ弓とボロ矢は拾っておいた。
どうせ「無限収納」には容量制限はないから、拾えるものは拾っておこう。
私は、15分ほどで第5層に到達した。
ちなみに、ゴブリンアーチャーとゴブリンファイターのステータスはこんな感じだった。
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ゴブリンアーチャーC
【職業】弓使い
【特徴】ゴブリンの弓使い。一応雑魚。弓の命中率は高い。
【固有スキル】命中率上昇Ⅰ
【レベル】12
【体力】225/225
【魔力】86/86
【筋力】32
【防御】27
【命中】50
【回避】30
【知力】45
【精神力】45
【速度】50
【運】52
命中率上昇Ⅰ
【発動】任意
【説明】命中率を高める。最大2倍。
【使用方法】スキル名を唱える。
ゴブリンファイターC
【職業】戦士
【特徴】ゴブリンの戦士。一応雑魚?力が強いので注意。
【固有スキル】筋力強化Ⅱ、敏捷上昇Ⅰ
【レベル】28
【体力】1217/1217
【魔力】471/471
【筋力】167
【防御】140
【命中】136
【回避】165
【知力】129
【精神力】138
【速度】165
【運】136
筋力強化Ⅱ
【発動】任意
【説明】筋力を強化する。最大3倍。
【使用方法】スキル名を唱える。
敏捷上昇Ⅰ
【発動】任意
【説明】敏捷性を高める。最大2倍。
【使用方法】スキル名を唱える。
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末尾に数字が付くタイプの固有スキルが出てきた。今度は「Ⅱ」だ。強化倍率は3倍で、10倍にはまだまだ遠い。
とりあえず、3番目くらいで追いつかれることはなさそうで、一安心だ。
それにしても、2つも固有スキルを持っているヤツもいるのか。ゴブリンのくせに。
ステータスが上がって、体力値が高くなったせいか、思っていたより疲れを感じていない。
魔力もまだ余裕があるので、水分補給だけをして、すぐに第5層に向かった。
第5層は、森の中に西洋風の巨大な城が城壁付きで建っていた。
なんで迷宮の中に建造物があるんだろう?
疑問に思ったけど、「探索」を使って城の内部を含めた階層全体を調べると、なんとなく予想がついた。
この階層には、森の中にゴブリンボウキャバルリーが、城壁と城内までの間にゴブリンスナイパー、ゴブリンガンナー、ゴブリンソーサラー、ゴブリンクレリックが、城内にゴブリンナイトとゴブリンランサーがいた。
次の階層への階段は、城内の一番広い部屋に設置されている。
「地図」で見た城の構造から推測するに、階段がある場所は玉座の間とかそんなところだと思う。
つまり、この城はゴブリンの王城のようなもので、ここにいるゴブリンは、王城を守る兵士というわけだ。
迷宮のくせに、意外と手の込んだ設定を作っているんだなぁ。
妙に感心してしまった。
私は、とりあえず城内までは飛んでいくことに決め、「飛翔」を使って飛び上がった。
森は、「凍結」を使って、凍らせたゴブリンボウキャバルリーを回収しながら進んだ。
その途中、暇を見て進めていた解体が第2層の分まで終わり、第3層で凍らせたゴブリンスピアマンやゴブリンウィザード、ゴブリンヒーラーの分に入った。
でも、そこで問題が起きた。
凍ったゴブリンは、解体できなかったのだ。
仕方ないから、解凍魔法を創って、凍ったゴブリンを解凍してから解体する。
『創造・凍結解除』
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凍結解除
【属性】水
【タイプ】補助
【発動対象】指定
【効果】指定対象の凍結状態を解除する。
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「無限収納」に仕舞った第3層のゴブリンと、さっき回収したゴブリンボウキャバルリーを、一度その場に全部出し、解凍魔法をかける。
『凍結解除』
解凍すると、また「無限収納」に一括収納して、解体しながら、まだ凍った森の中にいるゴブリンボウキャバルリーを回収に向かう。
森の方も解凍しようと思ったけど、そうすると、倒した範囲がわからなくなるから止めた。
新たに回収したゴブリンボウキャバルリーは、森を抜ける前に出して、解凍しておいた。
そして、城壁まで残り100メートルのところまで来たとき、目の前から私に向かって何かが飛んでくるのがわかった。
私は、大きく横に移動して躱す。
すれ違いざま、飛んできた物体を見ると、魔力弾のように見えた。
そういえば、城壁の上にはゴブリンガンナーがいたっけ。
銃士というからには、この世界には銃があるのだと思ってはいた。でも、この世界の銃は、元の世界のものとは少し違うようだ。
撃ち出すのは、弾丸ではなく魔力弾。速さは魔力弾のほうが遅いから、距離があれば十分避けられる。
でも、万が一ということもあるし、一斉攻撃されたら避けられない可能性も出てくる。
私は、念のため結界魔法を創っておくことにした。
『創造・防御結界』
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防御結界
【属性】光
【タイプ】防御
【発動対象】指定
【効果】指定対象にあらゆる物理・魔法攻撃を防御する結界を張る。一定ダメージを受けると消滅する。
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
『防御結界』
結界を発動すると、私は、まっすぐ城壁に向かって飛んでいった。
途中、何度か銃撃されたけど、結界がすべて弾いてくれた。
30メートルを切ったあたりから、ゴブリンスナイパーやゴブリンウィザードも攻撃に加わってきたけど、結界の前には痛くもかゆくもなかった。
そして、城壁上にいるゴブリンが見えてきたところで、10個まで同時展開できるようになった「氷槍」で殲滅していく。
ただ、さすがに10個も同時に正確にコントロールするのは難しくて、外してしまうことがある。
それでも、今までは繰り返し魔法を使って倒していたけど、この階層にきてから魔力の減りがちょっと早い。
まあ、常に「飛翔」「快適空間」「防御結界」を使っていて、さらに攻撃魔法を連発しているのだから、減りが早いのも当然ではあるんだけど。
でも、まだ城の中にも敵はいるし、無駄遣いは避けたい。何が起こるかわからないし。
そこで、今まで「必中」以外は使う機会のなかった異能を使うことにした。
今回使うのは、「並列思考」。これで、だいぶコントロールできるようになるはず。
『並列思考』
異能を唱えると、身体が淡い紫色の光に包まれた。
なんかいつも紫色の光だけど、これってもしかして、私の魔力の色なのかな?他の人が魔法を使っているところを見たことがないからわからないけど。
でも、まあ、綺麗な色だし、紫は好きな色でもあるから、別にいいんだけどね。
今度リリスに会ったら聞いてみよう。リリスなら私が異世界から来たこと知ってるから、この世界では常識的なことを聞いても不審がられないし。
昨日会ったばかりだけど、もう次に会ったときの話がひとつ決まった。
それはさておき。
私は、城壁の前まで飛んでいくと、再び「氷槍」を展開した。
まとまっていたのはさっき倒してしまったせいで、1匹1匹の間隔がさっきより広くなっていて、照準が合わせづらい。
でも、「並列思考」のおかげか、以前よりもずっと合わせやすくなっていた。
私は、城壁上にいるゴブリンを次々に倒していく。
今度は、ひとつも外すことはなかった。
異能って、実はすごく有能な能力なんだなぁと実感した。