18.ぼっち少女のスライム迷宮攻略1
翌日。
朝食を食べると、私はカリーナに挨拶してからほっこり亭をあとにした。
その足で、昨日アニタさんに教えてもらった迷宮のひとつ、スライム迷宮に向かう。
途中で、迷宮でも食べられそうな軽食と、リンゴジュースを、手に持てるだけ買った。
買ったものは、人目につかないように一度路地に入ってから収納し、門を出て森に向かった。
今日も門番はおじさんじゃなかった。残念。
そうそう、ここ数日でわかったことだけど、この世界のお金は全て貨幣だ。
一番少額なのが銭貨。日本円で10円くらい。
で、銭貨10枚=銅貨1枚になるそうで、銅貨1枚は100円くらい。
銅貨100枚は、銀貨1枚と同じで、銀貨1枚は1万円。
次は金貨で、金貨1枚=銀貨100枚で、100万円!
そして、一番大きいのが、白金貨。白金貨1枚=金貨100枚なので、日本円にすると、なんと1億円!
さすがに、白金貨は滅多に見られないそうだ。
確かに、1億円だもんね。そうそう手に入る額じゃない。
この世界の物価は、見たところ日本とほぼ同じようだから、1日銀貨1枚もあれば余裕で暮らしていけそうだ。
銀貨1枚は、アースウルフを2匹売れば手に入る額だ。
今、私の「無限収納」には、アースウルフの死骸が30匹入っているから、全部で銀貨15枚分。
つまり、15日は働かなくても暮らせるけど、テレビもゲームも漫画もラノベもないこの世界で、15日も暇を潰せない。
それに、お金はあった方がいいだろうし、無駄遣いするつもりもないから、今日は迷宮に行って、適当に稼ごうと思う。
門を出て森に入ると、周りに人がいないところまで進んでいく。
ちょうど人の少ない時間だったのか、5分ほど歩くと、1番近くにいる人から直線距離で100メートル以上離れた場所に着くことができた。
森の中で木があるので、これだけ離れていれば私の姿を見られることはないだろう。
念のため、目視で人がいないことを確認すると、私はスキルを2つ創った。
『創造・転移』
『創造・隠形』
創り終わると、ちゃんとできているか確認する。
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
転移
【属性】なし
【タイプ】その他
【発動対象】指定
【効果】指定対象を任意の座標に転移させる。
隠形
【属性】なし
【タイプ】その他
【発動対象】指定
【効果】指定対象の姿を周囲から見えなくする。気配や体温、魔法による感知からも逃れられる。暴けるのは、%&@$#だけである。
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
また文字化けしているけど、もう放っておくことにした。他はイメージ通りになっているのが確認できたので、早速発動させる。
まずは、「転移」から。
私は、近くに落ちていた木の枝を適当に拾って、地面に私が中に立てるくらいの大きさの円を2つ描いた。2つの円は、2メートルくらい離れていて、中心にそれぞれ「1」と「2」を書いた。
私は、「1」と書いた円の中に立ち、「2」の円に転移することを思って唱える。
『転移』
唱えた瞬間、見ていた景色が歪み、次の瞬間にはさっきまでと少し違う景色に変わった。
足元を見ると、「2」と書かれた円の中にいる。
転移は成功したようだ。
瞬間移動ができるなんて、本当にすごいなぁと、感動した。
私は、次に「地図」を開き、昨日までに行った場所の中で、今、人がいなくてそれなりに広いところを探した。
まだあまり行動していないので、「地図」はほとんど黒いままだから、探すのはすぐに終わった。
ちょうど、昨日ポー草とかを大量に採取した場所があったので、「地図」を見ながら唱えた。
『転移』
また、一瞬景色が歪んで、次の瞬間には、昨日来た場所に立っていた。昨日ポー草とかを大量に採ったせいで、他の場所と比べて草が極端に減っているから、すぐにわかった。
「転移」は、「地図」を見ながらでも発動できることがわかった。
これで、転移先を思い浮かべなくても転移できるから、発動までの時間を短縮できると思う。
「転移」の検証が一通り終わると、「隠形」の検証に移る。
発動させると、身体の周りに淡い紫色に光る薄い膜のようなものが現れた。
触れようと手を伸ばしてみると、膜は私の身体から一定の距離を保ったまま一緒に動いてしまった。
これでは触れないので、膜を触るのは諦め、代わりに姿見を創った。
私の全身が映る大きさの姿見を創り、目の前に置いた。
鏡を覗き込んでみると、映るのは森の風景だけで、私の姿はどこにもない。
ちゃんと見えないようになっているようだ。
確認が終わると、鏡を収納し、「飛翔」を使って空に上がる。
そして、門から迷宮の方角に続く馬車が通れそうな道を見つけると、道に沿って上空を飛んでいった。迷宮には、馬車を使っていく人が多く、道ができていると教えてもらった。
姿を消しているから、誰かに見つかることはないので、私は安心して空の旅を楽しんだ。
道に沿って10分も飛ぶと、迷宮らしき建物が見えてきた。
私は、手前の適当な森の中に着陸すると、地図で位置と方角を確認しながら、迷宮まで歩いて向かった。
空からは確認できなかったけど、もしかしたら人がいるかもしれない。もし人がいるところに降りたら面倒そうだから、用心して歩くことにした。
歩きながら、「探索」を使って確かめれば良かったと思ったけど、今更なので諦めた。
5分ほど歩くと、森が開け、迷宮の建物があるちょっとした広場に出た。
周りを見回してみても誰もいないので、まっすぐ建物に向かった。
建物の入り口には、「スライム迷宮」と書かれた看板と、石製の10段ほどの上り階段があった。
階段を上ると、5メートルほどの平らな床があり、そのあとすぐに下り階段があった。
この階段は、暗くて先が見えない。
明かりを灯す必要があると思った私は、「光球」の魔法を創った。
この光球は宙に浮いていて、好きなところに移動させられるので、両手が空いて便利だ。
ただ、「光球」は使っていると魔力を消費するので、魔力残量だけは気にしておくことにした。
いざとなった時に魔法が使えないと困るからね。