149.ぼっち少女と作戦変更
翌朝。
疲れていたせいか、目覚ましをセットしていなかった私は、コーディに起こされた。
リアじゃなかったことを意外に思いつつ、朝食の用意ができていて、みんな待っていると言うので、急いで準備をした。
コーディに急かされながら食堂に行くと、ちょうどリアが席に着くところだった。
私と目が合うと、リアは苦笑いして言った。
「おはようございます、トモリさん。実は、私も少し寝過ごしてしまって……」
なるほど。リアも寝坊したのか。まあ、昨日戻ってきたときには日付変わってたからなぁ。それに、いろいろあったし。リア、少し顔色悪そうに見えるけど、大丈夫かな?
リアは多少具合が悪くても大丈夫だと言って無理しようとするところがある。今日は、いつもより気にして見ておこう。
私は挨拶の礼をして、席に着いた。
コーディも席に着くと、朝食を食べ始める。
他愛のない話をしながら、ゆっくりと朝食の時間を楽しんだ。食べている間に、いつの間にか眠気は吹き飛んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇
朝食の後、シリルさんの部屋で作戦会議をした。
ちなみに、リアはどう見ても顔色が悪かったので、ジェミナさんに説得され、部屋に戻っていった。
やっぱり、昨晩はよく眠れなかったらしい。
いや〜、ジェミナさんの説得、というかもはやお説教に近いあれは、すごかった。あれは私でも素直に従うわ。うん。
シリルさんもジェミナさんも、リアがオネインザ家の者だってことは最初から気付いてたみたいだし、私とリアの関係を見て、噂と違う何かがオネインザ家であったことはわかってたみたい。
だから、リアに昨日のことについて何も聞かなかった。リアが話したければ話せばいいって。
それを聞いて、リアはほっとした様子で、部屋に戻っていった。
たぶん、リアは話さないだろうな。ジェミナさんたちも気づいたみたい。でも、私に聞いてこないところが大人だなぁって思う。
もちろん、私もリアが話したがらないことを勝手に話したりはしない。リアの気持ちを尊重したいから。
というか、そもそも、念話のこと言ってない人と話すのは面倒くさいからしない。と、現在進行形で思っている。
リアがいなくなったので、私は、筆談で話をしている。
リアがいるときも筆談だったけど、最低限の単語とかだけ書いて、足りない部分は念話でリアに補足をお願いしていた。
まだ文字に慣れてない私が全部書いてると、全然話が進まないから。
でも、今日は全部書かないといけない。
もう、二人に念話のこと言っちゃおうかな、と思うくらい、面倒になってきている。
コーディには言ってあるしなぁ。
でも、コーディは黙っててくれてるみたいだし、ジェミナさんに話すと、国王にまで知られることになる。
単に面倒だからって念話のことを話すと、後々もっと面倒なことになりそうだから、今は我慢、我慢。
……それに、できるだけ人と話したくないってのは本当のことだ。リアとはもう慣れちゃったけど、コーディとはまだぎこちないし。ジェミナさんたちとは、まともに会話にならないかもしれない。それなら、今まで通り筆談でやり取りしたほうがいい。
私は、しばらくはまだ筆談にすることを改めて決意した。
最初は、ハティさんたちに協力してもらって、核水晶の部屋を監視して貰おうと思ってた。けど、シリルさんから待ったがかかった。
部屋に誰かいたら、そもそも現れないんじゃないか、と。
確かに、隠れている人が、人がいるところにやってくるとは思えない。でも、核水晶の部屋の前はボス部屋で、その前は階段。監視するために隠れる場所なんてない。
ということは、この作戦は成立しない……?
私は助けを求めてシリルさんを見る。
国王にやれって言われてるんだから、やるしかないんだよね?どうしよう?
「うーん。今まで何回か遭遇しているわけだから、核水晶の部屋に入るまで、人が来ていることは気付いていない可能性が高い。つまり、定期的にボス部屋を突破して、核水晶の部屋に入ればいいんじゃないかな?」
シリルさんが、とんでもない案を出した。そっちのほうが実現不可能だと思うんだけど!?
普通は、ボス部屋を突破するのは命がけなのだ。それを、日に何回もやれと?死人が出るよ、それ!
私は首を横に振って、全力で否定した。
ジェミナさんもわかったようで、シリルさんに言う。
「残念だけど、その作戦だと犠牲者が出るわ。他の作戦にしましょう」
「え?……あ、そうか。そうだな。うーん。それじゃあ……」
ジェミナさんに言われて、シリルさんも自分の作戦のヤバさに気付いたみたい。良かった……。
私がやるならともかく、今回は他の人に手伝ってもらわなきゃいけない。危険なことを手伝ってもらうわけにはいかないからね。
私が全部ひとりでできればいいんだけどなぁ。私なら、今まで行った迷宮なら、ひとりでボス倒せるし、多少のケガなら治せるし。
ディーネ曰く、「蘇生」があれば、死んでも生き返ることが出来るみたいだけど、そこまで危険な橋を渡るつもりはない。万が一、ということもあるし。
そもそも、一日中ずっと、ボス部屋を回ってボスを倒し続けるなんて不可能だ。
まあ、私だけなら、直接核水晶の部屋に転移してしまうけど……あ!
そうか!直接転移してしまえばいいのか!
でも、直接転移すると、ばったり鉢合わせた時が厄介だな。姿を隠して行ったら……バレないとは限らないよね。
そもそも、何度も行くのは面倒すぎる。一週間ずっと、あっちこっち行かないといけないなんて、無理。やりたくない。
うーん。元の世界の監視カメラみたいに、遠くから部屋の様子を見れればいいんだけど。
『ディーネ。遠くから様子を見られる魔法とか知らない?』
『遠くから?離れたところの様子を見られる魔法ってこと?私が知ってるのだと、水面に映すってやつくらいかな?魔法名までは覚えてないけど』
水面に映す……。水鏡みたいな感じかな?水属性魔法っぽいし、私が使っても問題はなさそう。水は、桶とか用意してもらえばなんとかなりそう。
あとは、ずっと映しておく方法かな。
『ずっと魔法を発動し続ける方法って知らない?』
『えー?そんなの知らないよ!人間の魔法なんてよく知らないし。さっきのは前にちょっと聞いたことがあったから知ってただけだよ?黒魔術なら、血が続く限り発動し続けられるけど』
『今回は黒魔術使うつもりないよ』
『うん。わかってる。そういうのは、人間に聞いたほうがいいんじゃない?』
『やっぱりそうだよね……。ディーネにだったら聞きやすいんだけどなぁ』
『そう言ってもらえると嬉しい。私も何か思い出したら教えるね』
『うん。お願い』
『はーい』
いつでも好きなときに話が出来るのと、ディーネのさっぱりした性格のおかげか、ディーネとは普通に、気兼ねなく話せるようになっている。
そのことをディーネに言うと、とっても嬉しそうな声が返ってきた。喜んでもらえて私も嬉しいな。
この調子で、他の人とも話せるようになれればいいんだけど……。
まあ、それはさておき、ダメもとでシリルさんたちに聞いてみよう。
"魔法をずっと発動し続ける方法、ありますか?"
書いてみせると、シリルさんとジェミナさんは顔を見合わせた。
「魔法をずっと発動し続ける方法?うーん。一度発動した魔法の効果を維持する方法なら知ってるけど、そういうのでいいのかな?」
たぶんそれでいいと思うので頷く。
「それなら、魔石を使えばいいんだよ。魔法を発動するとき、自分の魔力の代わりに魔石を使うんだ。そうすると、魔石の魔力がなくなるまで、魔法の効果が続くんだ」
「でも、まともに使えるほど魔力がある魔石は高くて簡単に手に入らないし、魔石の方が魔力の消費量が多いから、普通は魔力が足りないときの補填にしか使われないのよね」
シリルさんとジェミナさんが説明してくれる。なるほど。魔石か。まだ使ったことないけど、うまく使えばなんとかなるかな?
魔石の燃費を良くする魔法とか、効果時間を延ばす魔法とか。
存在するのかわからないなら、創ってしまえばいいし。
うん。ちょっと試してみよう。
魔石なら、この一ヶ月で狩りまくった魔物を解体したときのが残ってる。売れないから、貯まる一方なんだよね。
"試したいことがあるので、少し時間ください"
「試したいこと?いいよ。やっておいで。お昼くらいまでなら大丈夫だよ。準備時間は必要だし、調査は明日から始めればいいと思うから。でも、あまり遅くなると他の方法の準備が間に合わなくなるから、お昼に一回戻ってきて、進捗を教えてくれる?」
シリルさんの話は尤もなので、頷いた。
「じゃあ、こっちはその間に別の方法を考えておくから」
「午後1時にここに集合ね」
シリルさんとジェミナさんに頷いて、私は部屋を出た。急いで自分の部屋に戻り、邪魔の入らなさそうなところに転移する。とりあえず、パウダーマッシュ迷宮でいいかな。
迷宮の核水晶の部屋に転移する。もしかしたら、あの変人に会うかもしれない、と思って身構えていたけど、誰もいなかったのでほっとした。
いや、会ったら会ったでいいんだけど、それとこれとは違うっていうか。
そもそも捕まえる方法考えてないし、警戒されて寄り付かなくなったら困るから、会わなくて良かったんだよ。うん。
とりあえず、早くやって戻らないと。お昼までしか時間ないんだから、急がないとね!