148.ぼっち少女と作戦会議
私は、リアとアドリアナのやり取りを、ただ見ていることしかできなかった。
リアが突然念話で、魔法を解除してほしいと言ってきた時、その真剣さに圧されてすぐに解除してしまった。
その後、リアがいきなりアドリアナのことをひっぱたいたことにはすごく驚いたし、なんだかんだ言ってのらりくらりと本当のことを話すのを避けているアドリアナ相手に、うまく交渉して、話をまとめてしまったのにはもっと驚いた。
あんな風に強気なリアは初めて見た。
いつも遠慮がちなリアだけど、ちゃんと自己主張できるじゃない。
私は嬉しく思った。
……ちなみに、「誓約」については、魔法を解除したまま元の位置に戻ったリアに念話で聞いた。知らないことを驚かれたけど、初めて聞いたんだから仕方ないでしょう?リアは丁寧に教えてくれたから、ちゃんと理解することができた。
◇◆◇◆◇◆◇
リアが戻ったあと、アドリアナは宰相さんから根堀り葉掘り話を聞き出されていた。
話を要約すると、アドリアナはあの変人の素性は知らず、偶然知り合っただけだという。
あの変人と協力していたのは、あの変人がアドリアナの次期当主の座を確実なものにしてくれると約束してくれたからだという。
協力内容は、アドリアナがしていたのは情報収集のみ。各家の情報を集めて、あの変人に教えていたそうだ。他には、王族と縁を作れ、と言われて、今回のパーティーに来た。その後のことは、知ってのとおりだ。
嘘発見器によると、アドリアナの話に嘘はなく、事前に収集していたアドリアナの情報とも大きな矛盾点はない。
とりあえず、アドリアナは嘘を言っておらず、あの変人について詳細は知らない、ということで話は終わった。
なお、アドリアナについては、不審人物に国の情報を流していたとして、3日間の禁錮が言い渡された。当然アドリアナは反発したが、宰相さんが、その3日間で王女暗殺未遂事件の火消しをするから、おとなしくしていてほしい、と言うと、渋々従った。炎上しているところに本人が現れたら、もっと炎上することくらいは、アドリアナも理解しているようだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「では、私はこれで失礼いたしますわ」
「ああ。アドリアナ嬢のことは頼んだぞ」
「はい。お父様。私が責任を持って監視いたします」
話が終わると、王女がアドリアナの縄を持って退出する。
アドリアナは縛られたまま王女に連行されていった。これから3日間は牢にいることになる。非公式ではあるが刑罰なので、牢獄送りになるそうだ。牢にいる間に、リアのことを少しは反省してくれるといいな。
二人が退室し、扉が閉まると、宰相さんが内側から鍵をかけ直した。
それを見た国王が、私たちの方を見て声をかける。
「もう出てきてもよいぞ」
その言葉で、私は魔法を解除した。ジェミナさんに解除したことを目で合図すると、ジェミナさんは部屋の中央に向けて歩き出した。
ジェミナさんの後にシリルさんが続き、リアと私もその後に続いた。
国王に勧められてジェミナさんがソファに座ると、国王がリアの方を見て言った。
「まずは、アレナリア嬢。協力に感謝する。そなたのおかげで、情報を引き出すことができた」
「い、いえ!そんな!むしろ、勝手に出ていってしまって申し訳ありませんでした」
リアが深く頭を下げる。結果オーライとはいえ、隠れてろって言われたのに、思いっきり出て行っちゃったからなぁ。
国王が何ていうだろう。
国王を見ると、案の定渋い顔をしていた。
「……まあ、確かに、そなたが姿をあらわしたのには驚いたが、今回はそれが良い方向に働いた。私たちだけでは、アドリアナ嬢からあれほどのことを聞き出すことはできなかったであろう。今回はそれで正解だったのだ。そうだろう?」
国王が宰相さんに問う。すると宰相はさんは大きく頷いた。
「はい。我々には、アドリアナ嬢を納得させるだけのカードがありませんでした。我々は権力はありますが、アドリアナ嬢との接点が少なすぎる。時間もほとんどなく、心を動かすほどの交渉材料を用意できませんでした。アレナリア嬢が介入してくださらなければ、穏便にアドリアナ嬢に不審者の情報を喋らせることはできなかったでしょう。同じ言葉でも、第三者である我々が言うのと、当事者であるあなたが言うのとでは、だいぶ違いますから」
……にこやかに語る宰相さんから、一瞬だけ怖い気配がした気がするけど、気のせいだよね?
「あ、ありがとう、ございます」
リアがお礼を言って、この話は終了した。
次に、国王が宰相さんを見て言う。
「さて、それで、今後の対応だが、そなたはどう考える?」
「そうですね。とりあえず、事件の方は、毒見役のアレルギー反応を毒による症状と勘違いした、ということにします。駆けつけた医師は、現場では原因を言わなかったそうですから、どうとでも誤魔化せるでしょう。毒見役には、別の仕事を与え、補償もすれば問題ないでしょう」
「ふむ。そなたなら恙無く処理できるだろう。任せたぞ」
「はい」
「それから、アドリアナ嬢の方は、すぐに領地に帰らせます。理由としては、身の安全のため。事件ではなかったということになりますが、一度出回った噂を完全に消すことは容易ではありません。噂が沈静化するまで、王都には近づかない方が良いでしょう」
「そうだな。急ぎオネインザ家に連絡しろ。今回の件については、誤解のないように全て説明するように」
「かしこまりました」
「アレナリア嬢は、何か意見はあるか?」
「いいえ、ございません。寛大な処置に感謝申し上げます」
まるで最初から打ち合わせてあったかのように、話が進む。まあ、最初から決めてあったんだろうなぁ。この話をここでしたのは、私たちに説明するためだろう。
それに、アドリアナのしたことを内密にするのは、アドリアナがオネインザ家を問題なく継げるようにするためだろう。
絶対に戻りたくないというリアの意思を尊重するためだね。
アドリアナがリアにしてきたことに比べると、処罰が甘い気がするけど、リア本人はこれでいいと言っていることだし、私が口を出すことじゃない。
私は話の続きを待った。
「次に、不審人物の対処だが……。残念ながら、アドリアナ嬢からは有益な情報は得られなかった。何か案のある者はいるか?」
国王が私たちを見る。ジェミナさんもシリルさんもリアも、ないと答えた。
私も特に案はないので、首を横に振る。
あの変人、迷宮以外で遭遇したことがないからなぁ。しかも、場所は決まって、人気のない迷宮の核水晶のある部屋。
あの部屋を根城にしているんじゃないかって思うくらい……って、あ!
もしかして、人気のない迷宮の核水晶のある部屋を片っ端から探していけば、見つけられるんじゃない?
でも、それって誰がやるのかって言ったら……私、だよね?まだ攻略してない迷宮もあるし、すぐに成果が出せるとも限らない。
不確実なことを言って困らせるわけにはいかないし、ここは黙っておいて、後でダメもとで探してみようかな?
私がいろいろ考えていると、国王が言った。
「トモリ殿。何か考えがあるのなら教えてもらえないだろうか?」
……顔に出ていたらしい。
リアやシリルさんたちに目で訴えると、リアから念話で、話した方がいい、と返ってきた。
しかも、リアは気をきかせて、宰相さんに紙とペンを用意するようお願いしていた。
助けを求めたら、逃げ道を塞がれていた!なんで?
こうなったら仕方がないので、宰相さんが用意してくれた紙に、拙い字で考えを書いた。
この一ヶ月、時間を見つけてはリアに教えてもらって練習したから、間違いはかなり減った。
とはいえ、まだスラスラと書けるほど慣れてはいないので、時間はかかってしまったけど、なんとか伝えることができた。
「なるほど。今まで遭遇した場所の共通点から、可能性のある場所を総当りする、ですか。古典的ですが、有効な方法ではありますね」
宰相さんが私の案を読んで、そう評価する。
評価してくれるのは嬉しいけど、それをやるのは誰かってことは考えてくれたのかな?私一人じゃ、逃げられる可能性も低くないよ?
まあ、それは宰相さんも考えたらしい。
「ですが、この方法だと取り逃す可能性もありますね。複数人で、核水晶の部屋を監視し続ける必要がある。信用がおけて、腕の立つ者の助けが必要ですね。心当たりのある人物はいますか?」
信用できる、強い人……。ハティさんたちとか……?
一応思い浮かんだので、頷いた。
「いらっしゃるのですね?では、いくつか探してみていただいて、何も進展がなければ一旦報告していただけますか?期間は……そうですね。一週間としましょう。一週間、迷宮の核水晶の部屋を定期的に訪れ、不審人物の痕跡を探す。よろしいでしょうか?」
宰相さんが国王にお伺いを立てる。
「ああ。成果が出るかは未知数だが、何もしないよりはマシだろう。トモリ殿、頼めるか?」
国王に言われたら断れないでしょ。
私は頷くしかなかった。
今後の計画が決まったことで解散することになり、私たちはスリードレイク家に戻った。すでに夜遅くになっていたため、詳しい話は朝にすることにして、部屋に戻って寝ることになった。
いろいろあったし、明日からまた面倒なことが待ってるけど、今はとりあえず眠っておこう……
おやすみ…………