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146.窮地のアドリアナ

今回はアドリアナ視点でお送りします。

後半から前話の続きになっています。


 牢から出て、連れてこられたのは、王の執務室のようだった。

 なんでこんなところに?と思ったけど、王の前で下手なことをしたら、殺されてしまうかもしれない。うまくやらないと。

 私は指示に従って跪き、毒を盛っていないことを説明した。

 でも、 無実を証明するために説明しているのに、自分の首を締めているような気がしてならないのはなぜだろう?

 嘘をついても状況は悪化するだけだから、事実を話すしかないんだけど、周りの反応を見るに、信じてもらえていないようだ。

 どうしよう。このままだと、本当に私が犯人にされてしまう。

 一通り説明が終わると、王が言った。


「だが、そなたの持ってきたケーキを食べて、毒見役は倒れたのだ。そなたが犯人ではないというなら、このことはどう説明する?」


 王まで、私が犯人だと思っている!なんとかしないと!

 私は焦って答えた。


「それは何かの間違いです!私の持ってきたケーキに毒など入っておりません!」

「……口ではなんとでも言えますわ」


 今まで黙って話を聞いていた王女が、ポツリと呟く。

 焦っていた私は、咄嗟に思いついたことを口にしてしまった。


「それなら、ケーキを食べて見せましょう!そうすれば、毒入りかどうかわかりますよね?」

 

 しまった!私が持ってきたケーキに、本当に誰かが毒を入れていたなら……。もし本当に食べることになったらどうしよう。

 焦っていると、冷静な判断ができなくなるみたいだ。少し落ち着かなくちゃ。

 でも、私の心配は杞憂だった。国王は、私が毒耐性があったら食べても大丈夫だから食べて見せても意味はない、と言った。

 食べなくていいと言われて少しほっとしたけど、このままじゃ疑いは晴れない。


「私には毒耐性はありません!」


 またしても、つい勢いで言ってしまった。信じていないような反応だけど、相手が相手だ。反応を鵜呑みにしちゃいけない。

 これ以上墓穴を掘らないように、自分から発言せず、向こうの出方をうかがう。

 王は、私をまっすぐ見て言った。


「それこそ、口ではなんとでも言えるな。鑑定スキルの使用を受け入れるなら、今回の件を不問にしよう。もちろん、結果次第ではあるがな」


 鑑定……?

 なんでそうなるの?私が毒耐性の話をしたから?でも、耐性の確認のために鑑定までする?

 ステータスは、その人の情報が載っている。スキルや称号を見れば、私の秘密が知られてしまう。

 でも、鑑定には鑑定玉か、鑑定スキルを持っている人が必要だ。

 どちらも貴重なもので、いくら王といえど、簡単には用意できない。現に、この部屋にそれらしいものはない。それに、ステータス鑑定には厳重な手続きが必要だったはずだ。王の独断でできることじゃない。

 ということは、ブラフという可能性もある。

 そうじゃなくても、鑑定するなら場所を変えて、あるいは日を改めて、となる可能性が高い。

 それなら、移動の間に隙きを見て逃げることもできるかもしれない。

 幸い、拘束はされているし、魔法も使えなくされているけど、あのスキルまでは封じられていない。この部屋では使えないけど、廊下に出れば使える!

 うん。今はとりあえず、鑑定を受け入れる振りをしておこう。

 私は鑑定を受け入れると答えた。


 すると、宰相がすぐに動いた。

 棚から箱を取り出し、机に置く。王が引き出しから鍵を取り出し、箱を開けると、中から鑑定玉が現れた。


「鑑定玉……」


 鑑定玉がある!?ということは、初めから鑑定の話をするつもりだったのね!王族の殺害未遂事件の容疑者相手なら、鑑定玉の使用を反対されることは少ないだろう。

 まさか、初めから用意してあったなんて。

 

「私を、嵌めたわね……!」


 抑えきれない怒りに、言葉が口をついて出た。しまった、と思ったけど、もうあとには引けない。

 このまま鑑定されるわけにはいかない。逃げないと!

 私は立ち上がろうとした。でも、後ろ手に縛られているせいでうまくバランスが取れずに転んでしまった。

 顔を強く打ち付けてしまい、痛みに呻く。


「う……痛い……」

「勝手に動こうとするからですわ」


 王女の冷たい声が聞こえる。


「逃げようとした、ということは、何かやましいところがある、ということかしら。鑑定玉を見て動いた、ということは、ステータスを見られたくない、ということでしょう?」


 王女が私に近づきながら言う。

 私は逃げようと藻掻くけど、不自由な体ではどうしようもできなかった。


 その後、私は思いつく限り反論をしたけど、このままじゃ極刑だ、なんて言われてはもうどうしようもなかった。

 毒殺未遂事件のことは王族の権力で有耶無耶にできる。真実を話せばお咎めなし。と言われたら、諦めるしかないじゃない?極刑なんて嫌だもの。

 こうなったら、うまく話を作ろう。嘘にならない範囲で、私は被害者だと思われるように。

 私がすべて話すと言うと、王女は私を立たせ、椅子に座らせてくれた。

 それから、応接セットに座った王女は、私に話すよう促した。

 鑑定からじゃないことにほっとした私は、慎重に話をすることにした。


「まず、私は、王女殿下の殺害など企てておりません!全くの無実です!」


 さっきから言っていることだし、全然信じてもらえてないけど、これだけは言っておかないと。

 私が言うと、宰相が呆れた顔をした。


「全くの無実、ですか。私たちは、あなたが犯罪者と見られる人物と関わりがあることを知っています。これは、あなたが書いたものですね」


 そう言って、宰相はいつの間にか手に持っていた大きな封筒から、一通の手紙を出して、音読し始めた。


「『今までは「あの方」のご命令に従っておまえに協力してきたが、この状況は酷すぎる。なぜ何もしていない私が犯人だという噂が流れているのか、説明願いたい。』などと書いてあります。まだ続きますが、これくらい読めばいいでしょう」


 読み終わると、宰相は手紙の文が書いてある方を私に見せた。確かに、文字数的にはまだ続きがありそうだ。

 遠くて内容までは読めないけど、あれは、間違いなくこの前あの男に出した手紙!なんで宰相が持ってるの?

 さすがに、私が書きました、と答えるわけにはいかない。私はあえて質問で返した。

 

「なぜ、私が書いたものだと思われたのですか?見たところ、差出人の名前はないようですが」

「あなたの筆跡と照合しましたので、間違いはありませんよ」

「……筆跡など、いくらでも真似できるものです。私が書いたという証拠にはならないと思いますが?」


 私が言うと、宰相は大きく頷いた。


「そうですね。確かに、筆跡などいくらでも変えられます。ですが、私たちはこれがあなたが書いたものだと確信しています」


 宰相は封筒から、白い封筒を取り出した。ちょうど、さっきの手紙を折り目通りに折りたたんで入る大きさだ。


「これは、この手紙が入っていた封筒です。こちらには、ほら、あなたの名前が書いてあります」


 宰相は封筒を私がよく見えるところまで持ってきた。確かに、私によく似た字で、私の名前が書いてある。

 でも、これは私の字じゃないし、そもそもこんな封筒は使っていない。あいつへの手紙は、封筒に入れずにお祈りのときに供えれば、あの方が届けてくださるのだ。あの方から届くものだから、名前なんて書かなくてもわかるだろう。わざわざ身バレする危険を冒して、名前を書く必要はない。

 つまり、この封筒はでっち上げだ!


「そんな封筒は知りません。この字だって、私の字ではありません」

「そうですか?ですが、この手紙の字と同じ筆跡ですよ。ほら、よく確認してください」


 宰相は、手紙も私が読める位置に差し出した。


「内容が、違う……?」


 手紙を読んで、私は思わず呟いた。

 差し出された手紙は、確かに前半部分は私の記憶の通りだったけど、後半部分は少し違っていた。

 進行中の工作をやめさせてもらう、と書いたはずなのに、王女殺害計画から抜けさせてもらう、となっていたのだ。

 文字数はだいたい同じだから、遠くから見たら同じ手紙だと思ってしまったのだ。

 良かった。違うものなら、堂々と違うと言える。

 私は安心して、否定の言葉を口にしようと宰相を見て、思わず息を呑んだ。

 宰相はニヤリと笑っていた。その目はまるで、狙った獲物を逃すまいとする凶暴な魔物の目の様に感じて、怖くなった。


「読んでみたところで、もう一度質問します。これは、あなたが書いたものですか?」

「い、いいえ、違います」


 怖くて少し詰まりながらも、はっきり否定する。宰相は大きく頷くと、一度王を見た。

 王が頷くと、宰相は再び私を見た。


「あなた、さきほど内容が違う、とおっしゃいましたね?一体何と比べて違うのでしょう?」


 ……しまった!さっき、口に出てたんだ。どうしよう。

 私がどう答えるか悩んでる間に、宰相は続ける。


「実は、この腕輪、嘘発見器になっているのです」


 宰相は右手の袖を少し捲り、小さな石が付いただけのシンプルな装飾の腕輪を見せた。それから、封筒から手のひらサイズの箱型の魔道具を出した。


「これは、この腕輪で検出した嘘を記録する魔道具です。こうして紙をセットして、スイッチを押すと、紙に印刷されます」


 宰相は実際に操作しながら説明していく。出てきた紙には、私がいつ、どんな質問になんて答えたのかが書いてあった。


「ここまであなたは、明確な嘘は言っていません。つまり、あなたが言ったことはすべて嘘じゃないということです。これを踏まえて、あなたの発言を振り返ってみると、さきほどの『内容が違う』という発言は本当のことを言っていることになります。もし、手紙のことを何も知らないのなら、内容の違いなどわからないはずです」


 私は確かに、嘘は言っていない。でもまさか、嘘じゃないことを逆手に取ってくるなんて。


「さあ、答えてください。あなたが、手紙の相手の素性と、知り合った経緯について素直に話してくれれば、王女殿下の殺害未遂については不問にします。あなたが嫌がっている鑑定もしないでおきましょう。さあ、どうします?」


 鑑定しない、とはいえ、あの魔道具がある限り嘘はバレる。

 黙秘することはできそうにない。

 嘘をつかずに、うまく暈す方法も思いつかない。

 どうしよう、どうしよう。

 本当のことを言ったら、許してもらえる?でも、アレナリアにしてきたことを知られたら、絶対にただじゃ済まない。

 でも、自分のためにあの方を売るような真似はできない。

 ああ、どうしよう!


 バチン!


 そうやって考えていると、急に頬を叩かれた。ビンタされた?誰が?

 驚いて顔をあげると、怒った顔で私を見るアレナリアが立っていた。


……は?なんであんたがここにいるの?


 予想だにしていなかった状況に、私は頭が真っ白になった。



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