143.ぼっち少女と真相1
国王からの緊急招集に従い、私は、リア、シリルさん、ジェミナさんを連れて王宮に向かった。
直接前回国王と会った部屋に転移していいと許可をもらったので、指定された時間に皆を連れて転移した。
転移すると、そこには国王と宰相さんがいた。
代表してジェミナさんが挨拶する。
「招集に従い参りましたわ、お父様」
「ああ。急に呼び出してすまなかった。だが、緊急の要件があって、お前たちの意見が聞きたかったのだ。対策はしてあるから、気楽に話していい」
国王は、前回と同じようにソファに座っていた。姿勢だけを見れば落ち着いているように見えるけど、表情は険しかった。
何があったんだろう。国王が醸し出すただならない雰囲気に、私だけでなくジェミナさんやシリルさんも硬い表情をしていた。
「お父様、一体何があったのですか?このように急に呼び出すなど……。まさか、スリードレイク家を取り潰すことが決まったとか……?」
「ち、違う!私はスリードレイク家を取り潰そうなど考えてはいない!愛する娘の嫁いだ家だ。何とかしたいと思っている」
ジェミナさんの予想を全力で否定する国王。
愛する娘って、ジェミナさんのこと、大切に想ってるんだなぁ。
国王の言葉を聞いて、ジェミナさんはほっとした様子を見せた。
国王は、ジェミナさんが落ち着いたのを見て、一呼吸置いてから話を続けた。
「今日、来てもらったのは、オネインザ家に関することで進展……というか、問題が起きたからだ。その件で、アレナリア嬢の意思を改めて確認する必要が出てきたのだ」
国王は、リアを見た。リアは気まずそうにしながら、言葉を返す。
「……私の意思とは?」
「ああ。そなたは、オネインザ家を継ぐつもりはないか?」
「ございません」
リアは即答した。
国王もその答えは予想していたようで、特に驚いた様子はなかった。
「そうか。では、両親と姉がいなくなり、そなたしか継ぐ者がいなくなったら、どうする?それでも継ぐつもりはないか?」
「いなくなる?それはどういう……?」
国王の言葉に戸惑うリア。
国王が宰相さんに目配せをすると、宰相さんは説明を始めた。
「本日、アドリアナ嬢を第三王女殺害未遂で逮捕しました」
「「えっ!?」」
宰相の説明にリアとジェミナさんが声を上げる。シリルさんも、驚いた表情をしていた。
「アナが、捕まった……?」
「はい。ただ、現時点では状況証拠しかなく、彼女が何者かに嵌められたという可能性もあります。以前お話いただいた内容を加味すれば、例の男に利用された可能性が高いでしょう。計画の邪魔になりそうな者は、味方でも消す。悪人がやりそうなことです」
なるほど。アドリアナがあの変人に、工作をやめるという手紙を出したから、あの変人がアナを消そうとした、ということか。
あ、でも、前からアドリアナがスリードレイク家の件の犯人だ、という話が出ていたから、アドリアナは最初から捨てられる予定だったのかもしれない。
手紙を読む限り、あの変人とアドリアナは、仲良くなさそうだし。
「事情聴取でも、彼女は何も知らない、と言っています。発言に矛盾は見られませんでした。裏取りは進めていますが、証拠はおそらく何も出ては来ないでしょう」
それを聞いて、リアの顔が青くなった。
「それじゃあ、アナはどうなるんですか?さっき、いなくなるって……まさか……」
宰相さんは、国王を見た。国王は頷いて、口を開いた。
「まだ証拠が揃っていない。今の段階ではなんとも言えんな。そこで、そなたたちに頼みがある」
リアを見ていた国王の視線が、私に移る。
え?私?なんで?
「そなたたちが来る前に、王女にアドリアナ嬢を呼びに行かせた。そろそろ到着する頃だろう。ここで改めて話を聞くから、そなたたちはアドリアナ嬢の話の真偽を見極めてほしい。ただ、そなたたちがここにいることを知られるわけにはいかぬから、隠れて聞いてもらうことになるが、良いか?」
私を見たのは、姿を隠す魔法を使って欲しかったからか。
それくらいなら協力してもいいけど、リアはどうだろう?アドリアナを見て、飛びかかって行ったりしないよね?
私はリアを見るが、リアは私の視線に気付いてないようだ。
ジェミナさんとシリルさんは、黙ってリアの返答を待っている。
国王と宰相さんも、催促することなく待っていた。
2、3分して、やっとリアが口を開いた。
「わかりました。聞きましょう」
「そうか。では頼んだ」
その言葉に、国王は頷いて答えた。
リアを見ると、まだ迷いがあるような顔をしていた。
大丈夫かな……?
でも、リアはやると言ったらやる子だと思う。念の為防音結界も張っておけば、リアが騒ぎ出しても大丈夫だろう。
私たちは、宰相さんの指示に従って、邪魔にならない部屋の隅に移動した。
◇◆◇◆◇◆◇
私が「隠形」で4人の姿を隠し、防音結界でこちらの声が漏れないようにしてから、1分も経たないうちに、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします!王女殿下と容疑者を連れて参りました!」
緊張の滲む男性の声がすると、宰相さんが扉を開けた。
そこには、城の兵士の制服を着た中年男性と、ドレスを着た女性、それから、縄で縛られたアドリアナがいた。
「殿下とオネインザ嬢は中へどうぞ。あなたはここで見張りをお願いします」
「は!」
宰相さんは、兵士を外に残し、女性とアドリアナを中に招いた。
あの女性が第三王女のようだ。
金髪碧眼で、まさにお姫様って感じの風貌。高そうなドレスも、ネックレスなどの装飾品もよく似合っている。
それに、どことなくジェミナさんに似ているような気がする。まあ、姉妹なんだから当然か。
アドリアナは、王女に縄を引かれて、よろめきながら入ってきた。
縛られているからバランスが取りにくいのかな?
二人が部屋に入ると、宰相さんは扉を締め、鍵を掛けた。
王女は縄を引いてアドリアナを部屋の中央付近まで歩かせると、立ち止まった。
「そこに跪きなさい」
アドリアナは黙って王女の指示に従い、両膝をついて跪いた。
アドリアナが跪くのを確認すると、王女は縄を持ったまま、国王に挨拶した。
「召喚に従い、オネインザ嬢を連れて参りました、陛下」
「ああ、ご苦労。さて、オネインザ嬢。王女から話は聞いているが、そなたの口から直接話を聞きたい。すべて話してもらおうか」
「はい。私に話せることならば何でもお話いたします」
アドリアナは、しおらしくしている。
大人しくしていれば、解放してもらえると思ってるんだろう。まあ、反抗的な態度を取るよりは可能性は高いけど、今までのことを考えると、ただで済むとは思えないなぁ。
まあ、素直に話してくれるというなら聞くけどさ。
何より、リアが知りたがっている。
アドリアナの件については、リアに付き合うと決めている。リアが聞くというなら、私もそれに付き合おう。
「そうか。では、まず、今日の事件について話してくれ。そうだな。王女からお茶会の誘いを受けたところから話してくれ」
「かしこまりました」
国王に言われ、アドリアナは話し始めた。