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閑話22 アドリアナと謀略

今回はアドリアナ視点です。


 待ちに待ったパーティーの日。

 私はめいっぱい着飾って、会場に向かった。


 パーティーは5日にわたって行われるが、日ごとに趣が違う。私が出席するのは、若い令嬢を対象とした親睦パーティーで、パートナーは必須じゃない気軽なパーティー。

 一応、領主の跡取りということもあって、婚約者はいるけど、あんまり好きじゃない。家どうしの話だからそれなりに付き合いはあるけど、進んで会いたい相手じゃない。

 だから、彼を連れてくる必要がなくてホッとしている。


 会場に着くと、まず、このパーティーに私が出られるように紹介してくれた令嬢を探して挨拶に行く。

 彼女も一応領主家の娘。跡取りは兄だけど、彼女自身も相当なやり手で、敵に回してはいけないタイプだ。

 誰かに媚びるのは好きじゃないけど、平和に暮らしたいなら付き合いは大事。嫌でもやるしかない。

 唯一の救いは、彼女の性格が好ましいものであるってことくらいかな。基本的に優しくて、親身で、曲がったことが嫌いな人。でも、必要なら手段を選ばず、徹底的にやる冷酷さがある。

 聞き上手で、ついいろいろなことを話してしまいそうになるから、あまり話はしたくないけど、本人を嫌ってはいない。ただ、話したくないだけ。それだけ。


 人々の中から彼女を探すと、彼女はちょうど第三王女と話をしているところだった。

 今挨拶に行けば、王女とも話せるかもしれない。

 王族と繋がりを、というあの男の要求にも応えられる。

 私は相手の機嫌を損ねないように、慎重に近づいていった。



◇◆◇◆◇◆◇



 時間はあっという間に過ぎ、パーティーも終わりに差し掛かってきた。

 目論見通り、令嬢だけでなく王女とも親しくなることができた。

 事前に王女の好みの話題を勉強しておいて良かった。おかげで話が弾んだわ。

 第三王女は今年20歳になる側妃の子で、正妃の子ですでに子どものいる第一、第二王女とはかなり歳が離れている。

 その分、私と歳が近く、話もしやすかった。

 私と歳の近い王族は他にも何人かいるけど、王子だから、女の私が友人として親しくなることは難しいのだ。

 計画どおり第三王女と親しくなり、来週のお茶会に呼んでもらえることになった。お茶会には他の令嬢たちも来るけど、王女とさらに親しくなる絶好のチャンスであることに変わりはない。

 私は大喜びで別邸に戻った。



◇◆◇◆◇◆◇



 招待されてから僅か一週間後に開催されるお茶会。

 普通は一ヶ月前には招待状を送るものだけど、今回は例外、ということで参加することになった。


 会場に行くと、他の令嬢たちから好奇の目で見られた。

 パーティー会場でも同じ目で見られていたし、令嬢たちと話もしたけど、あの場では当たり障りのない話題しかしなかった。

 周りの目があるから、下手なことを口にできなかったのだ。

 未来の婚約者になるかもしれない令息たちの前で、他人の家庭事情に土足で踏み込むような常識のない行動はできない。

 でも、今日はお茶会。仲を深めるために、少し突っ込んだ話もする場。

 今日はきっと、興味津々な令嬢たちから、アレナリアのことを聞かれるんだろう。

 王女も、それが目的で私を呼んだようだった。

 不審がられないように、妹を誘拐されて傷心の姉を演じないとね。



◇◆◇◆◇◆◇



 お茶会は和やかに過ぎていった。

 予想通り、アレナリアの話になったけど、質問も、それに対する受け答えも準備したとおりにできた。

 他は、他愛のない世間話や流行の話で、警戒するようなことは何もなかった。


 そして、何も問題は起こらないまま、お菓子交換の時間になった。交換、といっても、それぞれが持ってきたお菓子をみんなで食べる、というものだけど。

 いつからか、招待された方も何かを持ってくる、という風習になり、それがお菓子を持ってくる、というものになった。

 お菓子ならお茶と一緒に食べられるし、宝石とかと違ってそこまで高価なものじゃないから用意する側も負担が少ないから、今ではお茶会の常識になっている。

 持ってくるお菓子は、買ったものでも作ったものでもいい。別邸には王族に出せるほどのお菓子を作れる料理人がいなかったから、王都の有名菓子を買って持ってきた。


 令嬢たちが持ってきたお菓子は、まず毒見役が食べることになっている。これはどの令嬢が持ってきた場合でも同じで、安全のためだ。

 毒見役は、お菓子を一口サイズに切り分けて、順番に食べていく。

 一つ食べて、少し経ってから次のを食べる。時間を空けないと、毒が入っていた場合、どれに入っていたのかわからなくなるからだ。


 毒見をしている間、私たちはそれぞれのお菓子について話をする。このお菓子はどこで買ってきたのか、家で作ったものであれば誰が作ったのか、こだわりはどこか、そういったことを話して、食べる楽しみを増幅させるのだ。

 私も一応有名店で買ってきたけど、あまりお金がないこともあって、それなりのものしか買えなかったから、他の令嬢たちのと比べると少し見劣りする。

 まあ、そこはうまく言い繕っておいた。

 それに、高いだけがおいしさの基準じゃないわ!大切なのは味よ、味!庶民のお菓子にだって、美味しいものはたくさんある。

 カージアの街は商業都市とも呼ばれていて、いろいろなものがあるから、そういうのはよく知ってるんだよね。

 安くて美味しいものをたくさん食べるのもいいことだ。




 お菓子の話で盛り上がっていると、突然うめき声が聞こえた。


「おい、大丈夫か!?」


 声のした方を見ると、真っ青な顔で倒れている毒見役を、近くの護衛騎士が抱き起こしているところだった。


「すぐに医師を呼んできなさい。あなたは、毒を吐かせないか試して」


 王女がすぐに指示を出し、騎士たちはその通りに行動した。

 毒見役を抱えていた騎士は、毒見役の体勢を変えたり、口に手を入れたりして、毒を吐かせようとしている。

 でも、吐かせることはできずにいると、医師が到着した。

 医師は毒見役を診察すると、鞄から注射器を出し、薬を注射する。

 注射が終わると、数分してから毒見役の脈を確認し、頷いた。


「応急処置はしました。脈も安定してきていますので、病院に運びましょう」

「ええ、お願いするわ」


 医師と何人かの騎士は、毒見役を連れて去っていった。

 彼らを見送ると、王女は毒見役の近くにいた騎士に尋ねた。その騎士は、さっき毒見役を抱えていた騎士で、王女が話を聞くために残らせたのだった。


「あなた、彼が何を食べて倒れたかわかるかしら?」

「はっ!このケーキを食べてすぐに倒れました」


 騎士が答え、皿に乗ったケーキを差し出した。

 それは、私が持ってきたものだった。王都の有名ケーキ屋の数量限定ケーキ。他の令嬢は焼き菓子で、ケーキは私だけだったから、間違えようがない。

 つまり、あのケーキに毒が入っていたことになる。でも、私はケーキ屋で買ってから、一度も箱を開けていない。開けたのは、ここに来てから給餌係に渡したときだ。毒を入れるタイミングも、理由もない。

 となると、最初から入っていたか、給仕係が入れたことになるけど……

 そこまで考えたところで、王女の言葉が響いた。


「これは、オネインザ嬢が持ってきたものだったわね。オネインザ嬢、あなたを殺人未遂容疑で拘束させてもらうわ」


 拘束?私を?待って、私はやってない!


「お、お待ちください!私ではありません!私は毒なんて知りません!違います!」


 このまま捕まったら、私が犯人にされてしまいそうな気がして、必死に抵抗する。


「大人しくしろ!」

「きゃっ!」


 でも、騎士の力には敵わなくて、私は取り押さえられてしまった。

 そのまま後ろ手に縛られ、無理矢理立たされる。


「違うんです。私じゃない。私は犯人じゃありません!信じてください!」


 必死に王女に訴えかけるが、王女は冷たい目で私を見るだけだ。

 助けを求めて他の令嬢を見ても、自分は関係ないと言わんばかりに目を逸らされた。


「連れて行け!」


 隊長らしき騎士の声に従って、縄の端を持った騎士が私を引っ張り連行しようとする。

 私は縛られた体でできる限り抵抗する。


「待ってください!私は毒なんて入れてません!買ってきたものをそのまま持ってきただけなんです!だから」


 そこまで言ったところで、私の意識はぷっつりと途切れた。



◇◆◇◆◇◆◇



 目覚めると、牢の中だった。

 なぜこんなところにいるのか状況を掴めなくて、記憶をたどると、意識を失う前のことを思い出した。

 私が持ってきたケーキに毒が入っていて、毒見役が倒れたんだった。

 記憶が途中で切れているのは、魔法か何かで眠らされたんだろう。うるさいから黙ってろ、みたいな感じで。


 どれくらい眠ってたんだろう。

 牢の中には窓がないから、時間はわからない。

 明かりは鉄格子の外の、牢の中からじゃ手の届かない場所に置かれた灯籠だけで、牢の中は薄暗い。

 牢の中には木製のベッドが置いてあるだけで、他には何もない。

 私はそのベッドに寝かされていたけど、シーツも布団もないから、体が少し痛かった。


 現状を把握したところで、なぜこうなったのかを考えることにした。

 私が持ってきたケーキは、今朝店で買ってきたもので、買ってからお茶会で給仕係に渡すまで、箱を開けていない。つまり、私は一切ケーキに触っていない。

 給仕係に渡してからは、ずっと令嬢たちと一緒にいたし、ケーキも会場の人目につくところにあったから、私が毒を入れれば誰かが気付く。

 となると、私が毒を入れることは不可能だ。

 これを証明できれば、疑いは晴れるだろう。

 でも、証拠を見つけるのは大変だな……。箱はもう開けられてしまっているから、開けていない証拠は示せない。

 それ以外は私の証言だけになるけど、信憑性に欠ける。

 犯人を暴いた方が早そう。

 

 じゃあ、犯人は誰だろう?

 ケーキ屋はあり得ないだろう。他にもケーキを買っている人はいたし、何よりもまず、毒を入れる理由がない。

 他は、給仕係か、毒見役の自作自演になるけど、あの人たちのことはよく知らないから、これ以上はわからない。

 ……手詰まりね。

 はあ…………とりあえず、知っていることを正直に話すしかないか。嘘を見分ける能力を持っている人が尋問官の中にはいるって聞くし、その人に無実を証明してもらうしかないわね。

 私はとりあえず、成り行きに任せることにした。



◇◆◇◆◇◆◇



 起きてから少しすると、兵士と王女がやってきて、話を聞いてきたから、正直に話した。

 話を聞くと、彼らは去っていった。



 それからまたしばらくすると、同じ兵士と王女がやってきて、私に牢から出るように言った。

 私は指示に従って牢から出た。

 私が牢から出ると、兵士は私に手を後ろに回すよう言った。

 また縛られるのか、と思ったけど、ここで抵抗しても意味はないので、大人しく縛られた。

 縛り終えると、兵士と王女は私を連れてどこかへ歩き出した。私は縄を引かれて、時々バランスを崩して転びそうになりながら、なんとかついていった。



 しばらく王城内を歩くと、ある部屋の前で立ち止まった。

 王女が自ら扉をノックし、入室の許可を取る。

 扉の向こうから「入れ」と許可する声が聞こえると、兵士が縄を王女に渡して扉を開けた。王女は縄を引っ張って、私を部屋の中に入れた。

 なんでわざわざ王女がやるんだろう、と思って部屋の中を見ると、そこには国王と宰相がいた。

 それを見て、私は、かなりの大事になっているのを感じた。

 どうしよう!?私、どうなっちゃうの?

 不安に思ったけど、今の私にできることは、大人しくして、聞かれたことに正直に答えることだけ。

 疑いを深めるようなことを言わないよう慎重に、話をすることに決めた。



 その時の私はまだ知らなかった。これが、私を陥れるための罠だったことを。




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