142.ぼっち少女と魔法屋2
『あ、あの……お店、大丈夫……ですか?』
本題に入る前に、気になったことを聞いてみた。お店閉めてたけど、いいのかな?
それにしても……やっぱり、初対面の人と会話するのは苦手だ……。
「ええ、大丈夫ですよ。実は、この店は趣味でやっているものでね。利益なんてどうでもいいんですよ。それに、もともと客は常連ばかりですから、臨時休業にも慣れているでしょうし、問題はありませんよ」
……なんか、すごいことをサラッと言ったような気がする。利益度外視で、普段から臨時休業してる店って、よくやっていけてるなぁ。
まあ、店を閉めても大丈夫と本人が言っているので、心配はしなくていいよね。
あ、私が後で何か買っていけば、少しは足しになるかな。お金はあるし、魔法書を少し買っていこう。
「説明を始めてもよろしいですか?」
リアムさんが改めて聞いてきたので、頷いた。
「まず、あなたの現在の職業は、魔術師でよろしいですか?」
『え!なんで、知って……』
私、職業言ってないのに、どうしてわかったんだろう?
ステータスが見えるのかな?もしかして、私が他の職業にもなってるってバレてる?どうしよう?なんて説明すれば……。
私が不安に思っていると、リアムさんはハッキリと言った。
「勘です」
『……勘、ですか?』
「はい、勘です。まあ、勘、というか、推測という方が正しいかもしれませんね。まず、あなたが武器をお持ちでなく、聖職者といった感じでもないことから、魔法系だと判断しました。魔法屋に来ていることからも明らかでしょう。それから、転職後の職業について知りたがっているところから、転職前、あるいは転職して間もないと推測できます。あとは、魔法使いか、魔術師か、二択のうちひとつを選ぶだけです。今回は、たまたま当たったということです」
推測って……。話を聞く限り、そんなに難しいものじゃなさそう。ヒントはたくさんあったみたいだし、リアムさんの話にヘンなところはないように思う。ここは、とりあえず信じてもいいかな?
私がひとりで納得している間にも、リアムさんは話を続ける。
「すでに転職されている、ということは、魔術師がどのような職業か、ある程度はご存知ということでしょう。あなたの認識を聞いてもよろしいですか?」
『えっと、魔術師は、戦闘魔法が得意だと……』
いきなり水を向けられて驚きつつ、なんとか答える。
私の答えに、リアムさんは頷いた。
「そうですね。魔術師は、魔法系職業の中では、一番戦闘系の魔法に優れています。他の職業に比べて、汎用性が高く、様々な場面で役に立ちます。ただ、他の職業の方が優れているところももちろんありますから、万能、というわけではありませんよ」
リアムさんの言葉に頷く。
確かに、魔物を操ったりするのは召喚師や調教師、占いは占い師の方が優れているだろう。でなければ、わざわざ分岐する必要がないし。
普通は、そういった専門的な部分を捨てて、汎用性の高い魔術師を選ぶんだろうけど、私は違う。他の職業にも転職しているから、それこそ万能なんじゃないかな。まあ、物理系はからっきしだけど。
私の反応を見て、リアムさんは話を続ける。
「魔術師の転職ボーナスは、魔法系ステータスの上昇。特に、魔力と知力の上昇幅が大きくなります。平均は1.5倍くらいですね。人によっては、倍近くになります。これによって、より強力な魔法を使えるようになるのです」
平均1.5倍で、高くても2倍……。3倍はやっぱり異常だ。早めに気付いていて良かったよ。
「魔術師の場合、転職ボーナスは基本的にステータスアップのみですが、稀にスキルを獲得することがあります。トモリさんは、スキルは獲得しましたか?」
私は首を横に振った。特にそういうのはなかったから、ここに来ているんだよね。
「そうですか。では、今日の目的は、魔術師用の魔法を知ることですか?」
『あ、はい』
「他には、何かありますか?」
『……えっと、他の魔法系の職業についても、知りたい、です。その、何か使える魔法とかないかなって、思って……』
変に思われないように気をつけていたら、逆に変になってしまった。大丈夫かな……。
「そうですね。確かに、他の職業の魔法でも、全く使えないというわけではありませんし、その職業の者と戦闘になったとき、相手の魔法を知っていると戦闘を有利に進めやすくなります。知識はあるに越したことはありません。知りたいというのであればお教えしましょう」
『ありがとう、ございます』
好意的に受け取ってくれたみたいで良かった。私はほっとした。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、日が暮れるまで、水属性の魔法を中心に、魔術師が使う魔法を教わった。
私が使う魔法は、オリジナルばかりだったから、これで私も普通の人のフリができそう!
ついでに、召喚師が使う魔物召喚魔法や、調教師が使う魔物調教魔法、占い師が使う占術魔法の知識も教えてもらった。占術魔法は、使いどころがイマイチよくわからなかったので、しばらく使うことはなさそう。どちらかというと、趣味の類だね。
今店の中ということもあり、話だけで終わった。屋内で実際に魔法を使うわけにはいかないから、当然ではあるけど。
リアムさんは、外で実際に使いながら教えると言ってくれたけど、時間も遅いし、まずは魔法書を読んでおきたかったから、自分でやってわからなかったら教えてもらうことにした。
それに、あんまり王都やその周辺にいたくない。いつアドリアナや、あの不審者に遭遇するかわからないし、コーディは微妙な立場だ。変なのに絡まれないように、今は目立たないようにしないとね。
リアムさんは、お土産に魔法書をたくさんくれた。水属性の魔法書はもちろん、他の属性の魔法書もくれた。知っていて損はないし、魔術師になると2属性以上の魔法が使えるようになることもあるから、と。
それを聞いて、私は、もう一つ属性が使えるようになった、ということにしてもいいかも、と思った。正直、水属性だけだと困るときもあったから、火属性とか使えることにしておくと、戦うときにいいかもしれない。
他の職業の魔法書ももらい、私とコーディは、魔法書がたくさん入った袋を両手に持って、魔法屋をあとにした。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日。
私は早速、カージアの街迷宮に行き、水属性魔法の魔法書に載っている魔法を片っ端から使っていった。
もちろん、ディーネのサポート付きだ。
精霊語の呪文をすべて覚えることは不可能だし、毎回ディーネに教えてもらうのは効率が悪すぎるので、何回か呪文を唱えて魔法を使ったら、その発動効果を元に、「想像創造」で魔法を創る、ということを繰り返した。
これか思ったより魔力と集中力を消費して、一日で魔法書一つが限度だった。
それに、水属性の魔法書は、前に習得した光属性の魔法書より倍くらい分厚くて、載っている魔法も多い。他の魔法書も比べてみると、属性によって魔法の種類に差があるようだ。
すべて習得するには時間がかかりそうだけど、せっかくもらったんだから、使えるようになっておきたい。
私は時間の許す限り、魔法を習得することにした。
一週間後、水属性と火属性の魔法書の魔法の習得が一通り終わった頃、ジェミナさん経由で国王から緊急招集がかかった。