141.ぼっち少女と魔法屋1
話し合いは午前中に終わり、昼食を食べ、午後は自由時間になった。
アドリアナの方は手詰まりというか、向こうの出方待ちの状態で、特にすることもない私は、後回しにしていた転職後の魔術師以外の職業について調べることにした。
転職する時にアニタさんに概要は聞いてみたけど、具体的にどんなことができるのかまでは聞いてなかった。
せっかく転職したんだし、職業専用の魔法とかあったら覚えておきたいよね。
でも、どこで調べればいいんだろう?
どうすればいいかわからなかったので、リアに聞いてみることにした。
……困ったときはリアに聞く、というのが定番になってきた気がする。
リアにもまだ、複数の職業になれることは話していないから、そこには触れずに話をしないとね。
リアの部屋を訪ねると、リアはすぐに出てきてくれた。
「どうしたんですか、トモリさん」
『ちょっと聞きたいことがあって』
「そうですか。では中に」
『あっ!すぐ終わるから、ここでいいよ』
これ以上邪魔をするつもりはない。私はすぐに質問をした。
『転職後の職業について調べるには、どうすればいいのかな?』
「転職後……というと、魔術師のことですか?」
『うん』
本当は他にもあるんだけど、それを言うとややこしくなるから黙っておく。
リアは少し考えたあと、答えた。
「冒険者ギルドで聞くのが一番早いのですが、今は行くのはやめておいた方がいいですから、教会か図書館ですね。あとは魔法屋もいいと思います」
『教会か図書館か魔法屋ね。ありがとう』
私はお礼を言うと、さっさとその場をあとにした。私がいる限り、リアは気を遣ってしまうから。
廊下を歩きながら、私は考える。
教会か図書館か魔法屋……。どこに行くのが手っ取り早いかな?
教会だと、誰かに聞くってことなのかな?それは面倒だから却下。
教会の図書室とかで調べるなら、図書館とかに行っても似たようなことになるわけだし、最初から教会に行く必要性を感じないなぁ。
でも、図書館って普通の本も置いてあるだろうし、まだこの世界の文字に慣れてないところもある。大量の本の中から目的のものを見つけるのは難しいだろうし、司書さんとかに聞くのもちょっと……。うん。図書館も却下かな。
となると魔法屋になるわけだけど、魔法屋ってそもそも何?どこにあるかもわからない。
……もう少しリアに聞いておくべきだったかなぁ。
私が後悔しながら歩いていると、向こうからコーディがやってきた。
ちょうどいいところに!
私は迷わずコーディに声をかけた。
『コーディ!』
私が念話で話しかけると、コーディは立ち止まった。
「あれ?トモリ?どうしたの?」
『あ、ちょっと、聞きたいことがあって』
そういえば、食事のとき以外でコーディに会うのは久しぶりだなぁ。食事のときは私たち以外にも人がいて筆談をしてるから、コーディと念話で会話するのも久しぶりだ。そのせいか、リア相手のときと比べると、少しぎこちない。
最近はだいぶまともに喋れるようになってきたと思ったけど、リア限定だったみたいだ。
「聞きたいこと?うーん。あたしにわかることかな?」
『えっと、転職後の職業について調べたくて。その、リアが魔法屋でも調べられるって教えてくれたんだけど、魔法屋がどこにあるかわからなくて』
「それなら、王都の魔法屋を案内してあげる!ちょっと待ってて!父さんに王都に行く許可取ってくるから!」
そう言ってコーディは私の返事を待たずに走っていった。方向からして、シリルさんの部屋に向かったようだ。
一人で行くつもりだったけど、誰かに案内してもらうのもいいかもしれない。
リアは忙しそうだし、コーディがついてきてくれるというのなら、お願いしようかな。
私はコーディを追って歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇
無事シリルさんの許可が出たコーディは、うきうきしながら私と一緒に王都に来た。
私はもちろんのこと、コーディも念のため変装している。王都には知り合いも多いみたいだし、今のスリードレイク家の現状を考えると、余計なトラブルに巻き込まれないために変装は必要だと考えた。
変装といっても、コーディは自前の変装セットを持っていたから、魔法で姿を変えたりはしなかった。
なんでそんなものを、と思って聞いたら、家の件の調査のために用意したんだとか。そういえば、コーディも大変そうにしていたのを思い出して、それ以上追求することはしなかった。
案内された魔法屋は、大通りから少し離れた、人通りの多くない静かな通りにあった。
「ここ、穴場なんだよ。店長はすっごく優秀な人だし、品揃えもいいのに、大通りから離れてるから全然お客さんがいないんだよ」
そう言ってコーディは魔法屋の扉を開けた。
カラン、と扉につけられたベルの音が鳴ると、来客に気づいた店の人がやってきた。
「いらっしゃい」
50代くらいで、眼鏡をかけた知的な印象の男性だった。
「あ!店長!久しぶりだね!」
コーディが言うと、店長さんはコーディのことを見て、何かに気づいた顔をした。
「ああ、コーディか。一瞬誰だかわからなかったよ」
「あ、ごめんなさい。変装してたの忘れてたよ」
「大丈夫。すぐ君だってわかったから。それより、そちらはお友達かな?」
店長さんは私を見た。目があった私は、軽く会釈する。
「うん。彼女はトモリ。今日はあたしはトモリの付き添いで来たんだ」
「君が誰かの付き添いなんて、珍しいこともあるんだね。っと、自己紹介をしておこうか。私はこの魔法屋の店長をしているリアムだ。よろしく、トモリさん」
リアムさんが挨拶をしてきたので、私も一礼した。
「トモリは声が出ないみたいなんだ」
私が一言も発しないことに不思議そうな顔をしたリアムさんに、コーディが説明すると、リアムさんは納得したように頷いた。
「なるほど。では、念話で話しましょう」
『私の声が聞こえますか?トモリさん』
頭の中にリアムさんの声が響いた。
リアムさんは念話が使えるようだ。
念話は、どちらか一方が使えればいい。リアムさんが使えるなら、私が念話で答えても、私が持っているとはバレない。
でも、初対面の人と長々と会話するのは苦手なので、私は簡潔に答えた。
『はい』
『うん。受け答えはしっかりできるようですね。では、早速ですが、本日のご用件を伺っても?』
『あ、はい。その……転職後の職業について……知りたくて……』
『転職後の職業について、といいますと、各職業の特色習得魔法、転職条件などについてお教えすればよろしいでしょうか?』
『……はい』
コミュ障全開のしどろもどろの言葉足らずの説明だったけど、リアムさんは私の意を汲み取ってくれた。
『少し、待っていてください』
リアムさんはそう言って、店内からいくつかの本を持ってきた。
本のタイトルから、それぞれが転職後の職業について書かれているもののようだ。
リアムさんはその本を抱えたまま、私たちを店の奥へ案内した。
奥には小部屋があり、机と椅子があって、ゆっくり話ができるようになっていた。
私とコーディは、リアムさんに勧められて椅子に座った。リアムさんは本を置くと店内に戻り、一度店を閉めてから、部屋に戻ってきた。
『では、ゆっくり、詳しく、説明をいたしましょうか』