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140.ぼっち少女と魔王国


 リアとの話が終わった国王は、私に顔を向けてきた。次は私の番なのかな?

 私は少し身構える。


「トモリ殿は、今後どうするつもりか?この国で冒険者を続けたいというのであれば、そなたにかけられている疑いを晴らし、冒険者として復帰できるよう手配するし、アレナリア嬢とともに他国に行くというのであれば、そなたの分の紹介状も用意しよう。そなたはどう考えている?」


 国王の問いかけに、私は迷わずリアを見た。ちょうどこちらを見ていたリアと目があって、お互い微笑む。


「私と来てくださるんですね?」


 リアが答えをはっきりさせるために言い、私はそれに頷いた。


「そうか。では、トモリ殿の分の紹介状も用意しておこう。ああ、そうだ。どの国か伝えておいたほうが準備もしやすいだろう。ウィル、地図を」


 国王が言うと、宰相さんは壁に架かっていた世界地図らしきものを持ってきた。

 宰相さんが机の上に地図を広げると、国王は立ち上がって地図の一点を示した。


「ここだ。ああ、念のため、国名を口にするのは控えてくれ。極秘事項だからな」

「かしこまりました、お父様」


 なるほど。わざわざ地図を出してきたのは、国名を言いたくなかったからか。盗聴対策をしているけど、用心に越したことはない、と。

 国王が指さした場所を見ると、魔王国デリジックと書いてあるのがわかった。

 魔王国って、そんなところに行くの?

 国名を見て、心配になってきた。

 魔王は人間の敵、というのが物語の定番だったから。

 私は皆を見渡したけど、誰も不安そうな顔をしてはいなかった。むしろ、安心した顔をしていた。なんで?

 説明を求めてリアを見ると、念話で『後で説明します』と返ってきたので、今は置いておくことにした。


 国王は、全員が国名を見たのを確認すると、手を戻し、宰相さんに地図を仕舞うよう言った。

 宰相さんが地図を元の場所に戻すと、国王が再び口を開いた。


「他に何か話したいことがある者はいるか?」

「いえ、ございません」


 全員が首を横に振り、代表してジェミナさんが答えた。


「そうか。また何かあったらすぐに伝えてほしい。時間は作る」

「ありがとうございます。では、そろそろ失礼させていただきますね。おやすみなさい、お父様」

「ああ、おやすみ、ジェミナ。シリル、ジェミナのことを頼んだぞ」

「お任せください」

「失礼いたします、陛下」


 全員がそれぞれ挨拶をする。最後に私がお辞儀をすると、ジェミナさんが私に言った。


「トモリさん、このまま転移で帰りたいのだけれど、お願いできるかしら?」


 ここから?まあ、私は構わないけど。外に出て隠れながら帰るよりは、ここからまっすぐ帰ったほうが楽だし。

 私は頷くと、転移魔法を使った。



◇◆◇◆◇◆◇



 スリードレイク家に帰ると、夜中だったため、そのまま解散となった。

 私は部屋に戻って着替えると、すぐに寝てしまった。

 国王と謁見なんて、精神的に疲れることをしたせいか、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。

 しかも、目覚ましを掛け忘れたので、リアに起こされる羽目になった。

 まあ、リアも使用人に起こされたみたいだから、一緒ってことで。




 朝食を食べ終えると、私、リア、シリルさん、ジェミナさんはそのままシリルさんの部屋へ移動し、話をすることになった。

 内容はもちろん、昨日のことだ。


「ふたりは、今回の件が解決したら、魔王国に行くということでいいのか?」

「はい。トモリさんがいればなんとかなると思います」


 シリルさんの質問に、リアが即答する。

 昨日も思ったけど、リアって完全にこの国から出ていこうとしているよね。

 まあ、実家と縁を切るためなんだろうけど、そこまでしなくてもいいんじゃないかな?


"リアは、もう、家に帰らなくてもいいの?"


 シリルさんたちがいるので、魔法で文字を作ってみせる。

 リアは真剣な顔で頷いた。


「はい。私はもう、自由に生きると決めたんです。もう、オネインザ家とは関わらない。それが私の決断です。たとえいつか、トモリさんと離れ離れになっても、私が自分の身を自分で守れるくらい強くなっても、私がオネインザ家に戻ることはありません」


 ……知らなかった。リアがこんなことを思ってるなんて、全然気付かなかった。

 私は、リアはあの環境に戻りたくないから、抵抗できるようになるか、アドリアナたちが改心するまで私といるつもりなんだと思っていた。

 でも、今の言葉を聞くと、アドリアナたちが変わろうと、リアはオネインザ家に帰るつもりはないようだ。

 ……まあ、私はリアと行くって決めたから、リアの意思を尊重しよう。

 リアが戻りたいと言ったら、その時また考えればいい。


"そう。じゃあ、これからもよろしくね"

「はい!……あ、トモリさんはいいんですか?魔王国に行くことになりますけど」

"魔王国ってどんなところなの?"


 良いも悪いも、そもそも私は魔王国がどんなところか知らない。それに、他国=他の大陸ってことは、この大陸には国が1つしかないってことなの?

 それぞれの大陸に、違う種族が住んでるってことは前にアニタさんから聞いて知ってるけど、それ以外のことは全然知らない。

 知らないのに、良し悪しを判断することはできないよね。

 私が聞くと、シリルさんが教えてくれた。


「魔王国は、北大陸にある魔族の国で、東大陸にあるこの国の隣にある国といえる。魔王国には魔王がいて、王国を統治している。一般には魔王は人族を滅ぼそうとしている悪者だと言われているし、実際過去にそういった思想を持つ魔王は存在したが、今代の魔王は、無用な争いを避けるため、人族とは極力接触しないようにしている穏健派だそうだ」


 人間と魔族の争い……。定番の設定ではあるけど、現実に起きたら嫌だ。今の魔王はとりあえず大丈夫みたいだね。


「それに、魔族の方も戦争を忌避する者が多いそうだ。人族を嫌っている者も多くないそうだから、好戦的な種族と会わない限り、君たちが魔族といても問題はないだろう」


 やっぱり、魔族でも戦争は嫌なんだね。あまり偏見のない人なら、魔族でも大丈夫と。


「魔族と言っても、我々と同じ人間であることに変わりはない。過度に恐れる必要はないよ」

「わかりました」


 リアが真剣な顔で頷いた。今のリアなら、新しい場所での人間関係は問題ないだろう。そして、リアと一緒にいれば、私も一応大丈夫だと思う。

 魔族が怖い存在じゃなくて良かった。


「あと、魔王国で注意しないといけないのは、やっぱり、種族と、食事かな。知ってると思うけど、魔族の中には色々な種族がいる。人族とほとんど見た目が変わらない者から、全く異なる者まで、多種多様だ。一応分類がされていて、人族に近い姿をしていて、それ以外の姿を持たない種族を人型種、人族に近い姿と、違う姿の両方を持っている種族を擬人種、人族に近い姿を持たない種族を魔人種という」


 やっぱり、私たちと違う姿の種族もいるんだね。角が生えてたり、羽があったり、尻尾があったり、首が長かったり、手足がたくさんあったりする種族もいるってことだよね。急に現れたらびっくりするんだろうなぁ。


「今言ったのは外見上の分類で、魔族にはもう1つ、食習慣による分類がある。魔族の食習慣はたくさんあって、人族と似ているものから独特なものまである。この分類は細かいところまでは専門家じゃないとわからないけど、有名なのが1つある。食人種だ。その名の通り、人間、特に人族の血肉を食べる種族がいる。万が一お腹を好かせた彼らに遭遇したら、全力で逃げろ」

「は、はい」


 シリルさんが怖い顔で話すので、リアは怯えた顔で頷いた。

 食人種の話は、前にアニタさんから聞いたことがあったから、そこまで驚かなかったけど、出会したら絶対にすぐに逃げようと思った。


「説明は、こんなところかな。それで、改めてどう?魔王国でもやっていけそう?」


 改めて聞かれて私は考える。

 説明を聞く限り、よほどのことがない限りは安全そうだ。元々別世界から来た私は、この国に執着はないし、その気になったら転移魔法でいつでも戻ってこれる。

 それに、行くのは私ひとりだけじゃない。

 私は大きく頷いた。





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