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139.ぼっち少女と国王


 リアと一緒にシリルさんの部屋に行くと、ジェミナさんもいた。


「さっきお父様に連絡したら、今夜時間を作ってくださるとお返事をいただいたわ。トモリさん、アレナリアさん、急で申し訳ないけれど、私と王宮まで行ってくれないかしら」


 ジェミナさんの言葉に、私はリアと顔を見合わせた。

 今夜っていうのも驚きだけど、私たちも一緒って……。

 アイコンタクトを交わすと、リアがジェミナさんに聞いた。


「あの、私とトモリさんも陛下に謁見するということでしょうか」

「ええ。お父様の許可は取ってあるから心配いらないわ」 

「てすが、トモリさんは、その……お尋ね者になっているのですが……」


 経緯がどうであれ、私がリアをオネインザ家から連れ出して、オネインザ家から追われているのは事実だ。

 そんな人物を国王に会わせても大丈夫なの?普通はダメだと思うけど。

 リアが聞くと、ジェミナさんは安心させるように笑って言った。


「大丈夫よ。トモリさんはお父様に害を為すような人じゃないことは、しばらく一緒に暮らしてみてわかったもの。お父様は私を信頼して、お二人の同席を許可なさったの。それに、トモリさんとアレナリアさんから、事の顛末を聞きたいとも仰っていたから、ちょうど良い機会だと思われたのね。ああ、でも、一応変装はしてちょうだいね。今回はあくまでもプライベートな訪問だから」

「わかりました」


 ジェミナさんの言葉で少しは安心したのか、リアがほっとした顔で返事をした。

 国王が会いたいと言うのなら、心配しなくても大丈夫かな?

 変装して、転移魔法もいつでも使えるようにしておけば、何かあっても大丈夫だろう。

 私もジェミナさんを信じて、一緒に行くことを承諾した。



◇◆◇◆◇◆◇



 夜10時頃。シリルさんの部屋から、王都に転移した。

 私とリアは、ジェミナさんからコーディのドレスを借りて、ドレスアップしている。さすがに国王に会うのに普段着というわけにもいかなかったから、私は初めてドレスというものを着る羽目になった。

 まあ、ドレスといっても、お姫様が着るような豪華なものじゃなくて、シンプルで動きやすいデザインのものだから、私でもなんとかなった。コルセットが必要なタイプじゃなくて本当に良かったと思った。

 変装は、前に王都に来たときと同じもの。理由は、改めて考えるのが面倒だったし、すれ違うだけの城の人にバレなければそれでいいので、こだわる必要もなかった。


 王都に着くと、「隠形ハイドフォーム」を使って全員の姿を隠し、王宮に向かった。

 私が転移できるのは、行ったことのある場所か、視界に入る場所だけ。王宮に直接転移することはできない。

 王宮には、正面からではなく、王族専用の秘密の入り口から入った。そこは、仕掛けによって隠されていて、警備兵がいなかった。ジェミナさんの魔力認証で入れる場所で、そっと入るにはもってこいの場所だった。


 入り口から王宮に入ると、「隠形ハイドフォーム」を解除した。ジェミナさんが、王宮内には姿を隠す魔法を見破る魔法がかけられていて、魔法が発動すると警備兵がやってきて不審者にされてしまうので、解除してほしいと言われていた。捕まると面倒なことになるのは目に見えているので、私はジェミナさんに従った。

 ちなみに、変装魔法の方はそのままで大丈夫らしい。変装魔法は、小型の魔導具で見破れるから、それを使われない限り大丈夫なんだそうだ。


 ジェミナさんを先頭に、静かな王宮内を歩いていく。

 夜ということもあり、時折巡回の警備兵とすれ違うくらいだった。

 その人たちも、ジェミナさんを見ると礼をして立ち止まり、私たちが通り過ぎるまで顔を上げることはなかったため、私やリアに言及されることはなかった。良かった。




 5分くらい歩くと、扉の前に人が立っている部屋があった。服装からして、警備兵じゃないのがわかる。誰だろう?

 その人は、40代くらいの男性だった。眼鏡をかけていて、知的な顔をしていた。頭が良くて、仕事ができそうな感じの印象の人だと思った。

 彼は私たちに気づくと、こちらを向いて礼をして言った。


 「皆様、お待ちしておりました。こちらの部屋で陛下がお待ちにございます」

「ありがとう、ウィル宰相」


 ジェミナさんが答えると、宰相さんはにこりと微笑んで扉をノックした。


「陛下、ジェミナ様御一行がお見えになられました」

「入れ」


 宰相さんは扉を開け、私たちに入室を促した。

 まず最初にジェミナさんが入り、次にシリルさん、リア、私の順で入ると、最後に宰相さんが入って扉を閉めた。

 部屋の中には、高そうな服を着た白髪のおじいさんが、奥のソファに座っていた。

 王冠も被ってないし、いかにも王様って感じの服じゃなかったけど、威厳があったので、国王だとすぐにわかった。


「お久しぶりでございます、お父様。本日は急な用件でしたのにもかかわらず、お時間をいただきましてありがとうございます」


 ジェミナさんが代表して挨拶し、頭を下げる。私たちもそれに続いて頭を下げた。


「良い。娘が会いたいというのに断る親などいないだろう。なあ、ウィル」


 国王が宰相さんに同意を求めると、宰相さんは大きく頷いた。


「はい、陛下。しかし、親子水入らずの時間に、私がいてもよろしいのですか?」

「ああ。ジェミナもお前に会いたがっているようだから、構わない」

「ええ。ウィル宰相にもお会いしとうございましたわ」

「誠にございますか?そう仰っていただけると大変嬉しく存じます」


 そう言ってジェミナさん、国王、宰相さんが笑った。和やかな雰囲気になった。

 私はチラリとリアを見た。仲のいい家族の光景を見て、リアはどう思うんだろう?

 リアは私の視線に気付くと、念話で言った。


『どうやら、この場はあくまでもプライベートな場であると仰っているようですね。プライベートなので気楽にしていいと言うことでしょう』


 ……思ってたのと全然違う回答が返ってきた。そういうのを聞きたかったわけじゃないけど、気になる内容だったので話を合わせた。


『そうなの?それならそういえばいいのに、何であんな回りくどい言い方をするんだろう?』

『一番は盗聴対策ですね。王宮では、どこで誰が聞いているかわかりませんから』

『……それって、あの話しても大丈夫なの?』


 盗聴って……。確かに、スパイとかいてもおかしくないけど。でも、本当に盗聴されてるなら、本題に入っても大丈夫なのかな?それとも、場所を変えたりするのかな?


『それなら、大丈夫ですよ。もうそろそろ盗聴対策の魔道具を起動するようですから』

『盗聴対策の魔道具?どれ?』


 私が聞くと、リアは宰相さんを見て言った。


『宰相様がお持ちの時計です。ほら、先程出されたでしょう?』


 私がリアと念話で話している間にも、ジェミナさんたちは会話していた。そのとき、宰相さんが懐から懐中時計を出していたのだ。


『あの時計が魔道具?』

『はい。私にはそう視えます』


 私には普通の懐中時計にしか見えないけど、リアにはどんな機能を持つ魔道具か視えているようだ。

 リアの異能「神眼ゴッド・アイ」の力かな。

 そんなことを考えていると、懐中時計から魔法が発動した気配がした。


『起動したようですね』

『うん』


 リアもわかったようだ。私は念話で同意を示した。


「さて、では、本題に入ろうか。ジェミナ、そちらが例の?」


 宰相さんが魔道具を起動して、国王に合図をすると、国王が私とリアを見た。


「ええ、アレナリアさんと、トモリさんですわ、お父様」


 ジェミナさんの紹介を受けて、リアが挨拶をする。


「アレナリア・トゥ・オネインザと申します。お会いできて大変光栄にございます、陛下。こちらは私の友人のトモリでございます。彼女は口がきけないので、私が代弁させていただきます」


 リアの紹介に合わせて、私は頭を下げた。

 国王は、私が話さないことについて追及することはなかった。




 挨拶のあと、全員座って和やかな雰囲気の中、シリルさんを中心に、現況の説明と、アドリアナのことを話した。

 国王は時々質問を挟みながら、シリルさんの話を聞いていた。

 一通り聞き終わると、アドリアナのことを気にかけておくと言い、宰相さんにも警戒するよう言った。

 話が一段落すると、今度はリアに尋ねた。


「アレナリア嬢。そなたはなぜ家を出たのだ?」


 リアはその質問に、正直に答えた。

 自分が家でどういう扱いを受けていたのか、私と会って家から出たいと思ったこと、私に協力してもらったこと。

 自分の異能や私の能力のことは、転移魔法のことくらいしか言わなかったので、私はほっとした。

 念話のことや、ディーネのことを国王に知られると、また面倒なことになりかねないと思ったから。

 リアもそれを知っていて黙っていたんだろうな。

 リアの話が終わると、国王は確認するように尋ねた。


「では、そなたは自分の意志で家を出、トモリ殿はそれを手伝っただけということで良いのだな?」

「はい。そのとおりでございます」

「わかった。アレナリア嬢はオネインザ家に戻るつもりはあるか?」

「いえ、ございません」


 リアはきっぱりと否定した。


「私は、領主家という家柄にも、領主の座にも興味はございません。このまま絶縁しても良いと思っています」


 リアの言葉に、国王は一瞬驚いた顔をしたが、すぐににやっと笑い顔になった。


「そうか。では、落ち着いたら私の名でそなたの除籍を発表しよう。そうすればオネインザ家はこれ以上そなたに手出しできなくなる。まあ、この国にも居づらくなるだろうが、他国に行くのも吝かではないだろう?」


 国王の言葉に、リアだけでなくジェミナさんやシリルさんも驚いた顔をした。


「お父様!他国ということはつまり他の大陸に行くということです。この情勢でそれは……」

「問題ない。水面下で良好な関係を築いている国がある。紹介状を書くから、しばらくはそこで暮らすといい。人族にも好意的な国だ。大きな問題は起こらないだろう」

「ですが」

「ジェミナ」


 ジェミナさんはまだ何か言いたそうだったが、シリルさんに止められて仕方なく引き下がった。

 ジェミナさんが黙ると、国王はリアに尋ねた。


「どうかね?アレナリア嬢」


 リアは迷う様子もなく即答した。 


「それでお願いいたします、陛下」




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