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15.ぼっち少女の初依頼報告1


 冒険者ギルドに着いたのは、お昼時の12時25分だった。

 そのせいか、ギルド内の飲食スペースでは多くの冒険者たちが食事をしていて騒がしかった。

 でも、カウンターの方はそれなりに空いていたし、ちょうどアニタさんがいたので向かう。

 私がカウンターに近づくと、アニタさんも私に気が付いて声を掛けてくれた。


「あら、トモリさん。お早いお帰りですね」


 そう言いつつ、紙とペン出してくれる。毎回優しいなあ。

 私は、アニタさんの言葉に頷くと、紙に「依頼報告」と書いて渡す。まだこっちの文字を書き慣れてなくて自信がなかったから、合っているか不安だったけど、アニタさんの反応を見ると大丈夫だったようだ。

 アニタさんは、私の書いた文字を直すことなく紙を戻した。


「では、達成処理を致しますので、カードをご提示いただけますか?」


 青色のギルドカードを渡すと、アニタさんは、受注処理をしたときに使っていた読み取り機にカードをセットし、コピー機のボタンを押した。

 すると、トレーからA6くらいの大きさの紙が出てきた。紙には文字が書かれている。

 アニタさんは何気なくその文字を読んで、次の瞬間驚いた声を上げた。


「えっ!?」


 そして、アニタさんはもう一度ボタンを押して、出てきた紙を読み直す。ときどき私と紙を見比べて、困惑した顔をする。

 私は、アニタさんの反応の理由がわからず、首を傾げる。

 あの紙には、たぶん、私が受注した依頼の達成状況が書いてあるんだと思う。

 確かに、ポー草採取の一時依頼のほかに常時依頼を二つも受けて達成してきたし、ポー草とポー草モドキもたくさん採取してきたけど、そんなに驚くことかな?

 たくさん生えている場所に行けば、あれくらいの量はすぐに採れるよね?

 あとは……あ、途中でアースウルフの群れに襲われるというトラブルもあったけど……。もしかして、アースウルフの討伐数がおかしいのかな?

 でも、固有スキルからして、アースウルフが群れで襲ってくるのはそう珍しくないだろうし……。


 私は普通に依頼を達成してきただけで、特別なことは何もしていないけど、アニタさんの反応が気になるし、一応聞いてみようかな。

 そう思って紙に字を書こうとしたところで、アニタさんの後ろから声がかかった。


「どうかしましたか?アニタ」


 声の主は女性だった。セミロングのウェーブがかかった金髪に、青い瞳をした背の高い美人女性。歳は20代半ばくらいに見える。

 彼女は、受付嬢たちとは違う服を着ているので、受付嬢ではないと思う。でも、アニタさんへの話し方から見て、ギルドの職員、それもアニタさんより地位の高い人のようだ。

 ……というか、地位の高いギルドの人って、私、ひとりくらいしか思い浮かばないんだけど。まさか、そんなことはない、よね?


 私は彼女を見てそんなことを考えた。

 一方、声を掛けられたアニタさんは、体ごと後ろを振り返った。


「あ、ギルドマスター!」


 ……やっぱりギルドマスターだった。まさかこんなに早くギルドマスターに遭遇するとは思わなかった。

 それに、ギルドマスターとして物語に出てくるのはガタイのいい中年オヤジばかりだったので、彼女のように若い女性がギルマスだと知ってびっくりだ。

 ギルマスは、アニタさんの隣まで来ると、自己紹介をした。


「はじめまして。私は、このギルドのギルドマスターをしているハヴィティメルネよ。よかったらハティって呼んでね」


 私は、軽く会釈して返す。さすがにそれだけでは失礼なので、目でアニタさんに説明を頼む。

 アニタさんは、ちゃんと意図をわかってくれて、ハティさんに説明してくれた。


「ギルマス、こちらは昨日冒険者になったトモリさんです。トモリさんは、声が出せないそうなので、私が代わりに」

「そうなの?それは大変ね」


 ハティさんはそう言って私を見る。じっと見られるのが気恥ずかしくて、私が苦笑いすると、ハティさんは笑って言った。


「ああ、ごめんなさい。初対面の人だと、ついじっと見てしまうの。悪気はないのよ。……えっと、トモリちゃんね。よろしく」


 ハティさんが握手を求めてきたので、ペンを置いて応じた。

 手を離すと、ハティさんはアニタさんに向かって言った。


「それで、アニタ。何か問題でもあったの?」

「いえ、問題というほどのことではありませんが……」


 アニタさんは困った顔で、ハティさんと私を交互に見る。とても言いづらそうだ。

 仕方ないので、さっき書きかけたことを書いて二人に見せる。

 紙には、「依頼達成」と書いて、疑問系にするため、首を傾げて見せた。

 ハテナに該当する記号がわからなかったので、こうするしかないのだ。「?」は通じないことがわかっているから、あとで教えてもらおう。


「依頼?トモリちゃんは、何の依頼を受けたの?」

「ポー草の採取依頼です」


 ハティさんがアニタさんに尋ね、アニタさんが答える。

 喋れないから仕方ないとはいえ、当事者の私をおいて話をされると疎外感を感じるなぁ。


「それを達成してきたのよね?」

「はい。でも、それ以外にも常時依頼を達成してきたようで……えっと、記録が正しければ、今回達成したのは、ポー草採取の一時依頼と、ポー草モドキ採取の常時依頼2回、それから、アースウルフ討伐の常時依頼7回です」

「……」


 アニタさんの報告を聞いて、ハティさんは首を傾げる。

 今の報告、おかしなところでもあったかな?私にはおかしいところなんてないように思えるけど。


「えっと、悪いけど、もう一度言ってくれる?アースウルフの方だけでいいから」


 ハティさんが聞き直す。アニタさんは特に嫌がりもせずにもう一度答えた。


「アースウルフの討伐7回です」


 ついでに、手に持っていた達成記録が書かれている(らしい)紙をハティさんに渡す。

 ハティさんは、受け取った紙を穴が開くほど見つめた。

 ときどき裏返したり、照明に透かしてみたりしている。

 その行為に一体何の意味があるのかすごく問い詰めたいけど、そういう雰囲気じゃないし、何より字を書くのが面倒なので諦める。

 そうして、1分程紙を見ていたハティさんは、今度は私を見て言った。


「ねぇ、トモリちゃん。アースウルフを何匹狩ったか教えてくれる?」


 そう言ったハティさんの笑顔が少し引きつって見えたのは、決して目の錯覚ではないと思う。

 私は、紙に数字を書こうとして、こっちで使われている数字を知らないことに気がついた。

 私は助けを求めるため、紙に「数字 書き方」と書いて見せた。

 それを見たアニタさんは、すぐに私から紙を受け取って書いてくれた。

 それを横で見ていたハティさんは、不思議な顔をしてアニタさんのすることを見ている。


「何をしているの?」

「数字を書いているんですよ。トモリさんにはまだお教えしていなかったので」


 アニタさんの答えに、ハティさんが首を傾げる。


「教えていない?どういうこと?」

「トモリさんの故郷の文字は、私たちが使っている文字と違うみたいで」

「あら、そうなの?」


 アニタさんの説明を聞いたハティさんが私を見るので、頷いた。

 ちょうどそこで、書き終わったアニタさんが紙を返してくれた。


「一番上がゼロ、次が1で一番下が9です。10以上は、10の位の数字を左に、1の位の数字を右に書きます」


 書かれている数字は、見たこともないものだった。これも覚えないといけないのか……。2桁以上の書き方が同じなだけマシだけど。

 とりあえず、覚えるのは後回しにして、3と5に該当する数字を見つけて書くと、二人に見せた。

 それを見た二人は、信じられないものを見たような顔をしていた。


「……トモリちゃん。ちょっと確認をしたいから、ついてきてくれるかしら?それから、アニタ、あなたも一緒に来てちょうだい」


 ハティさんが聞いてくる。

 やっぱりこの数はおかしいのかな?でも、群れに遭ったらこれくらい普通だよね?

 疑問に思いつつ、答える意思があるという意味を込めて頷くと、ハティさんはカウンターから出て、ギルドの奥に向かって歩き出した。

 アニタさんも、カウンターの上を簡単に整理し、読み取り機から私のギルドカードを取り出してから、ハティさんに続いて歩いていく。

 私は、カウンターに置いていた紙とペンを持って、アニタさんのあとについていった。



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