表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/172

137.ぼっち少女と転職3


 転職の間を出て、シスターにお礼とお布施を渡すと、私はアニタさんと教会を後にした。

 アニタさんたちの泊まっている宿まで戻り、待っていたハティさんに無事転職できたことを伝えた。


「すぐに転職できてよかったわ。神によっては、試練をクリアしないと転職させてもらえないこともあるから。あなたたちが行った後に気がついて、心配してたのよ」


 そういうのは、最初から気がついてて欲しいよ、ハティさん。

 まあ、今回は、すぐに転職できたから良いけどね。


「そういえば、トモリさん、紋章を持っていましたけど、入信されたのですか?」


 アニタさんの質問に、頷いて答える。すると、ハティさんが食いついてきた。


「えっ、そうなの?いつの間に?」


”先月の礼拝のときです。入っていた方がいろいろと便利だと言われて、私もそう思っていたので入りました”


「まあ、確かに、入っていないのは珍しいし、あれこれ詮索されたりもするから、入っていたほうがいいけど、規律とかは大丈夫?」


”大丈夫です。基本は自由でいいそうです。礼拝も来なくてもいいし、辞めたくなったらいつでも辞めて良いと言われたので、それなら良いかな、と思って入りました。”


 私がそう文字を作ると、それを読んだ二人は微妙な顔をした。

 二人は顔を見合わせて、アイコンタクトを取ると、アニタさんが真面目な顔で口を開いた。


「それは、どなたに言われたんですか?教会の方ではありませんよね?最近一緒にいらっしゃる方々ですか?」


 あ、これ、怒られるかも。アニタさんの声と表情から、今まで怒られたときのことが思い出された。

 なんて答えようと考えていると、アニタさんがさらに言う。


「いいですか、トモリさん。礼拝は神に仕える者にとってとても重要なことです。それに、辞めたくなったからといって辞めたりしたら、神罰が下りますよ。そんな罰当たりなことをトモリさんに教えたのは誰ですか?私がきっちり言い聞かせておきますので教えてください」


 う……。やっぱり、アニタさん怒ってる……。

 これ、適当に誰かの名前出したら、その人が被害に遭いそうだよね。私のせいでそんなことになったら嫌だし、ここは正直に言おう……。正直に言ったら、また別の問題が起きそうだけど、この二人ならちゃんと秘密を守ってくれるだろうし、大丈夫だろう。

 私は魔法で文字を作って答えた。


”神サマ”


「は?」


 文字を見たアニタさんは、意味がわからないという顔をしている。私は少し説明を追加することにした。


”礼拝のとき、神サマが言ったんです。自分の信者にならないかって。規律も自由で、いつ辞めても良いって、神サマが言ったんです”


 それを見たアニタさんは、頭を抱えて大きな溜息をついた。


「トモリさんはこういうところでウソをつかない人だと思いますので、これは本当のことなのでしょうけど。はあ……………………。トモリさん、神と話をしたってことですか?」


 私が頷くと、アニタさんはもう一度大きな溜息をついた。

 半ば放心状態になってしまったアニタさんの代わりに、ハティさんが聞いてきた。


「トモリちゃんは、どの神様にしたの?」


”フェムテ神です”


「ああ、なるほどね。それならまあ、ありえなくもないかもね。フェムテ様は変わり、じゃない、ユニークな方みたいだから」


 ハティさんはきっと、「変わり者」って言おうとしたんだろうなぁ。私も、それは同意見だ。こんな私を信者にしたり、加護をくれたり、転職だっておかしなことになってる。絶対普通の神サマじゃないと思う。

 アニタさんは、神の名前を聞いて少し納得したようで、再起動した。


「そうですか。フェムテ神であればあり得る話ではありますね。わかりました。この話はここまでにしましょう。あ、トモリさん。今の話は、他の人にしてはいけませんよ。いいですね?」


 二人の反応を見て、言ったらまずそうなのは十分わかったので、私は大きく頷いた。


 その後、他愛のない話をしてから、私は宿をあとにした。



◇◆◇◆◇◆◇



 二人と話をして、私と神サマの関係が異常だと改めて実感した私は、カージアの街迷宮にやってきた。第1層への階段で立ち止まり、ステータスを確認する。

 改めて見ても、職業欄の内容は変わらず、5つの職業名が並んでいた。


 どうして私は、複数の職業になれるんだろう?「万能者」の称号は、取得条件がわからない。最初からあったし、転移してきたときに取得したんだろうから、リリスあたりが何かしたんだとは思うけど、それ以外は何もわからない。

 そういえば、最初にリリスと話をしたとき、協力してほしいから強くなってと言われたっけ。複数の職業があれば、その分できることの幅も広がる。そういうことなのかな?


 とりあえず納得できそうな答えを見つけられたので、この件についてはこれ以上考えないことにした。

 詳しいことは、いつか本人から聞けばいい。


 今はそれよりも、転職した実力を試したい。

 カージアの街迷宮は、実力を試すにはちょうどいい場所だ。

 上級職のオークは、まだまともに倒したことはない。もし倒せなくても、上級職のオークが出てくる階層は飛行できるところだから、今までのように飛んで逃げればいい。

 オークのボスはキングしか出ないみたいだし、危険は少ないだろう。 


 あ、街迷宮の職業系ボスはキングしか出ないことはディーネが教えてくれた。前に私が、街迷宮のボスがいつもキングだけだったのが気になって、どうしてなのかとぼやいたら、それを聞いていたディーネが、リリスに聞いてきてくれたみたい。

 いつの間に聞きに行ったのかなぁ……。

 ちなみに、嘘だった場合に備えて対策は考えてあるし、異能「蘇生リヴァイヴ」があれば簡単には死ぬことはないそうなので大丈夫だ。

 私は意気揚々と迷宮攻略を開始した。



◇◆◇◆◇◆◇



 休憩を挟みながら順調に攻略していき、上級職のオークが出る第6層に辿り着いた。

 今までは全部強行突破してたけど、今回は実力試しがメインだし、何体か倒していくことにした。


 結果は、すべて楽勝だった。

 実は、転職によりステータスが軒並み倍以上、魔法系のステータスに至っては3倍になっていた。

 職業に目が行っていて気が付いてなかったけど、すごく強くなっていた。

 私はてっきり、魔法の威力が上がるとか、新しい魔法が使えるようになるとか、そういうステータスとは関係ないところが変わったのだと思っていた。でも、ステータスはガッツリ変わっていた。

 しかも、平均よりかなり上。私は急いでステータスの偽装を再設定した。

 忘れないうちにやっておかないと、大変なことになる。

 まだ誰にも気付かれていないのが不幸中の幸いだった。



◇◆◇◆◇◆◇



 ボスのオークキングを一撃で倒し、コア水晶のある部屋の扉を開けた。


「誰だ!?」


 誰もいるはずのないその部屋の中から、男性の声が聞こえた。

 私は驚いて声の主を見る。

 私の記憶が確かなら、彼は前にここで会った、あの変人だ。


「おまえは、あのときの……。ちっ!」


 前とは全く違う話し方。仕草も表情も違う。気持ち悪い芝居がかったものじゃない。

 だから、本当に同一人物なのか不安になった。顔も声も同じだけど、別人なんじゃないか、と。

 でも、「あのときの」と言ったし、間違ってないと思いたい。


 変人は急いで広げていた書類をまとめて鞄に入れると、上着のポケットから何かを取り出し、魔力を注いだ。

 その何かが光り出したかと思ったら、変人と一緒に消えてしまった。


 聞きたいことがたくさんあったのに。

 私は溜息をつきながら、何か残っていないか部屋を探す。

 一周して、何も見つからなかったことにまた溜息をついて、とりあえず報酬を受け取ろうとコア水晶が置かれている台に向かう。

 気持ちと一緒に目線も下がっていた私は、台の下から紙らしきものが覗いているのに気がついた。


 拾い上げると、手紙であることがわかった。

 封筒には送り主の名前はない。

 後ろめたく思いつつも中の手紙を取り出して読む。

 最後まで読んだ私は、大急ぎで報酬を受け取り、スリードレイク家へ戻った。

 これは、早くリアに教えないと!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ