135.ぼっち少女と転職1
グール迷宮を捜索してから数日かけて、メウフィアの街にある他の迷宮も順番に捜索した。
スケルトン迷宮、ゾンビ迷宮、レイス迷宮を8人で怪しい人物を探しながら攻略したけど、結局、不審者はいなかった。すべての迷宮の核水晶の部屋に、私たちを嘲笑うかのようなふざけた内容の手紙が置いてあるだけで、私たちの鬱憤は募るばかりだった。
メウフィアの街迷宮も同じで、置き手紙だけがあった。
メウフィアの街の迷宮がほとんど攻略されないことと、存在が一般には知られていない街迷宮にまで置き手紙があったことを考えると、置き手紙は私たちに向けられたもので、置き手紙を置いている人物は、私たちが迷宮に来てから逃げていった可能性が高い。
核水晶の部屋からは、すぐに外に出られるようになっている。
それに、手紙に使われている紙はきれいで新しいから、最近置かれたものだとわかるし、あながち間違ってないだろうというのが、全員の見解だった。
それから、カージアの街迷宮で出会った変な男が何らかの形で関わっているかもしれないことも、同意見だった。
実際に攻略してみてわかったけど、光属性魔法じゃないと、ほとんど攻撃が通らない。敵の注意を逸したりするには、他の属性魔法でも問題ないけど、倒すのは無理だった。ゾンビには火属性魔法も効いたけど、レイスは完全に光属性魔法しか効かなかった。
グレイスさんの負担がすごくて、途中で諦めて引き返したこともあったくらいだ。
そんな迷宮を、普通の人が最下層までたどり着けるわけがない。
街で聞き込みをしてみたけど、最近来た冒険者は私たち以外にいないと言われた。
グレイスさん経由で教会にも確認したけど、教会では不審点のある聖職者は把握していないらしい。
つまり、正攻法で攻略できる人物は、私たち以外に来ていないことになる。
そうなると、正攻法以外の方法で最下層までたどり着く必要があるわけだけど、今のところ、そんな方法は思いつかない。
それに、カージアの街迷宮にいたあの変な男も、どうやって最下層までたどり着いたのかわからなかった。
その共通点から、あの男が連想されて、関わっているのかもという考えになったのだ。
安直な考えだとわかってはいるけど、用心するに越したことはない。
私たちは、とりあえず、この置き手紙を残した人物は、あの男だと仮定することにした。
ここで、ひとつ問題が出てきた。
私たちは、シリルさんの頼みで迷宮を調べていた。だから、シリルさんに結果を報告する必要があるんだけど、シリルさんは街迷宮の存在を知らないのだ。
説明していいのかわからないし、そもそもどうやって説明しようかと思っていたら、イーサンさんとハティさんが、ギルマス時代に多少面識があるから、と、説明を引き受けてくれた。
私は、シリルさんに二人のことを話して、面会の約束を取り付けると、二人を連れてスリードレイク家に戻った。
◇◆◇◆◇◆◇
シリルさんと元ギルマスたちとの話し合いの結果、お互い協力することになった。
シリルさんは犯人を捕まえたいし、ハティさんたちはあの変な男が気になっていて、できれば掴まえて話を聞きたいと思っている。双方の追い求める相手が同一人物である可能性がある以上、協力した方が良いということになったのだ。
……ハティさんたちは、多少面識があるって言ってたけど、話している様子を見ると、かなり親しげだった。領主とギルマスという立場的な関係じゃなくて、友人に近いような感じがした。
そのためか、私が口を挟む必要もなく、話はあれよあれよという間にまとまってしまった。
とりあえず、私は新たな手がかりが見つかるまで、日が暮れるまでに帰宅することを条件に、自由行動の許可をもらった。
タルフィアの街にいてもいいし、王都やメウフィアの街に行ってもいいそうだ。
そこで、私は早速メウフィアの街へ行き、グール迷宮とスケルトン迷宮で、魔物を各種類約100体ずつ倒していった。
こないだ覚えた光属性魔法で、ひとりでも倒すことができた。
ただ、グールもスケルトンも上級職まで出てきたので、安全のボス戦はもう少し力をつけてから挑むことにして、ボス部屋の前で迷宮から出た。グレイスさんたちは、グールエンペラーやスケルトンエンペラーでも倒せると言っていたけど、私はどうかわからないから、やめておくことにした。
各種類100体以上倒してステータスを確認すると、職業欄の横に、「転職可能」の文字があった。
転職に必要な条件を満たしたらしい。
これで上位職に転職ができる!
そう思って、ステータスを色々触ってみたけど、転職の方法はわからなかった。ディーネに聞いてみたけど、知らないみたいだった。
これは、誰かに聞かないとわからないかな……。帰ったらリアに聞いてみよう。
◇◆◇◆◇◆◇
スリードレイク家に戻って、リアの部屋を訪ねる。
私だとわかるよう決めておいたノックをすると、返事があって、すぐに扉が開いた。
「どうしたんですか?」
『ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?』
「あ、はい。今ちょうど休憩しようかなって思っていたところですから。どうぞ入ってください」
リアに促されて部屋に入る。机の上には、大量の資料が置いてあり、さっきまで見ていたのか、いくつか広げられていた。
リアは手早く資料を片付けると、私に座るよう言った。私が椅子に座ると、リアも部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて座った。
『もしかして、邪魔しちゃったかな?』
「いえ、本当に大丈夫です。行き詰まっていたところですから」
リアは確か、今回の件とアドリアナとの関係について、探っているんだったっけ。アドリアナが黒幕だ、なんて話を聞いて、リアとしてはなんとかしたいって思ったんだろう。
でも、いくら調べてもアドリアナが関わっている証拠や情報は出てこない。ただ、黒幕だという話だけが出回っているようだ。
それで、アドリアナの思惑を探る予定だったのを、なぜアドリアナが黒幕という話が出ているのかを探ることに変更になったのだ。本当にアドリアナは関わっているのか、関わっていないなら、なぜこんな話が出ているのか。
正直、こういうことは専門家に任せればいいんじゃないかなって思うけど、一度首を突っ込んだ以上、最後までやりたいらしい。私はリアの意思を尊重して、特に何も言わないことにした。
この世界のことについてよく知らない私が変に口を出して掻き乱すよりは、何も言わないほうがいいだろう。
私はさっそく本題に入ることにした。
『そっか。じゃあ、聞いてもいいかな?』
「はい。なんでしょう?」
『大したことじゃないんだけど、その、転職ってどうやるか知ってる?』
「転職って、ステータス職業の転職ですか?」
リアが驚いて言う。そんなことも知らないのか、と思われてたらどうしようと思うけど、知らないものは仕方がない。ここは勇気を出して聞いてみよう。
『うん。転職できるようになったみたいなんだけど、やり方がわからなくて』
そう言うと、リアは少し考える素振りをしたあと、口を開いた。
「それなら、教会に行って、神様にお願いすれば、転職できますよ」
『え?教会なの?』
「?はい」
私が驚いて聞き返したことに不思議そうな顔をするリア。私は慌てて取り繕った。
『あ、ううん。教会に行って、えっと、どうすればいいの?』
リアは私の質問に、真面目な顔に戻って教えてくれた。
「教会の方に言えば、転職の間に案内してもらえます。そのあとのことは、私もわかりませんので、教会で聞くといいと思います」
『リアも知らないの?』
「はい。私はまだ転職をしたことがないので、具体的なことは知らないんです。あまりお力になれなくてごめんなさい」
謝ってくるリアに、『大丈夫』と言うと、私は席を立った。
『教えてくれてありがとう。私はもう出るね。リアも頑張ってね』
「あ、はい。ありがとうございます」
扉に向かって歩き出した私のあとをリアが追いながら答える。
そのまま部屋を出て、簡単に挨拶をすると、リアと別れた。
部屋に向かって歩きながら、私は小さく溜息をついた。
また教会か……。あの神サマが何かしてくれるのかな?
あ、でも、高性能な加護をくれたことのお礼も一応言っておきたいし、話をするのも悪くないかな。うん。
私は、明日にでも教会に行くことに決めて、部屋に戻った。