134.ぼっち少女のグール迷宮捜索
シーウィード迷宮を攻略してから3日が経った。
私はシリルさんに言われて、連絡役の仕事としてコーディと王都に行き、シリルさんの部下さんを連れ帰った。
シリルさんの部屋に直接部下さんを連れて転移した私は、役目は終わりだと部屋を出ようとしたところで、呼び止められ、一緒に報告を聞くことになった。
部下さんの報告をまとめると、どうやら幽霊都市メウフィアにあるグール迷宮が怪しいらしい。
幽霊都市にあるグール迷宮……
嫌な予感しかしないんだけど、私はここで待機でいいんだよね?ね?
できる限り存在感を消して話を聞いていたけれど、完全に消すことはできなかったようで、私はグール迷宮に行くことになった。
グールには光属性魔法が有効であるため、信頼できる聖職者の知り合いはいないかと聞かれたので、グレイスさんの名前を出した。
光属性魔法は本来宗教関係者にしか使えない。私も使えるとは言えなかった。
グレイスさんたちは、カージアの街で唯一の高ランクパーティーだったからか、シリルさんも噂は知っていたため、すぐに連絡をとることになった。
私は本日二度目の王都への転移をした。
グレイスさんたちは、事情を話すと二つ返事で引き受けてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇
幽霊都市メウフィアは、その名の通り幽霊都市となっている。
といっても、幽霊がいる街という意味じゃない。ゴーストタウンという意味だ。
メウフィアの街にある(と言われている)迷宮は、グール迷宮の他にスケルトン迷宮、ゾンビ迷宮、レイス迷宮の4つ。このうち、レイス迷宮は3階層しかないそうなのでおまけ迷宮だ。
各街にある迷宮は街迷宮を含めて5つだから、街迷宮以外はすべて判明していることになる。
それなのに街迷宮の存在が知られていないのは、アンデッド系の迷宮の特殊性のせいらしい。
グール、スケルトン、ゾンビ、レイスなど、アンデッド系の魔物を倒すには、光属性魔法が必要不可欠。
でも、光属性魔法が使えるのは宗教関係者だけ。実戦で使えるレベルなのは、その中の一部。
さらに、わざわざ危険を冒してアンデッド系の迷宮を攻略しようと思うのは、ほんの一握りの者だけで、今まで幽霊都市の4つの迷宮をすべて攻略した人はいなかったらしい。
敵を倒すにも仲間を治療するのにも光属性魔法を使う。いくら魔力量が多くても、ひとりで両方こなすのは難しい。かといって、単独では、魔法発動前に攻撃されたらアウト。仲間と一緒に行くしかないのだ。
つまり、ひとりではやられる。仲間と一緒では魔力が足りない。
魔力回復薬の飲み過ぎは体に悪いらしいので、多用はできず、魔力不足で攻略を諦めることが多いそうだ。
そういうわけで、アンデッド系の迷宮を好んで攻略しようという人はほとんどいない。
アンデッドは第1階層の魔物でも迷宮外に現れることはないため街は安全だけど、迷宮攻略をする冒険者はいないため、街は閑散としている。
普通の人はアンデッドのいる迷宮の近くにはあまり住みたがらないため、住民も少なく、ゴーストタウン化しているのだ。
報告を聞いた翌日、グレイスさんたちの都合も良かったので、私たちは幽霊都市メウフィアにやってきた。
メンバーは、私と、グレイスさん、ミラさん、ダニーさん、ザックさんたちパーティー、それからなぜかイーサンさんとハティさん、ハンスさんがくっついてきた。
ハティさんたち3人は、今朝グレイスさんたちを王都に迎えに行ったときにいて、一緒に連れてってほしいって言われた。
シリルさんに確認したら許可が出たので、連れてきたのだ。
メウフィアの街までの移動は、私の飛行魔法。いろいろあって、ミラさんに眠ってもらったこと以外は、問題はなかった。
メウフィアの街は、人通りがほとんどないのを除けば普通の街だった。
移動しながら見た限り、昼間はちゃんと明るくて、暗いわけじゃないし、変な空気が漂っていたりもしない。
幽霊都市なんて言われているから、ホラーな街だと勝手に思っていたけど、間違いだったようだ。
話を聞く限り、夜になったら幽霊が出るとかいうこともないらしい。よかった。
メウフィアの街に着いた私たちは、すぐにグール迷宮に向かった。
私の転移魔法ですぐに帰れるため、宿をとる必要がなく、街に滞在する予定ではないからだ。
グール迷宮の入口で私の魔力が回復するのを待ってから、私たちは迷宮に入った。
◇◆◇◆◇◆◇
私たちは、盾役のダニーさんを先頭にして、私の道案内で迷宮を進んだ。
今回の目的は攻略ではなく人探しなので、通常であれば階層の隅々まで見て回らなければならない。
でも、そんなことをしていたら時間がかかり過ぎるし、戦闘が増えればグレイスさんの負担も増えてしまう。
だから、私は、「探索」が使えることと、迷宮の道がわかることを教え、効率化することにした。
ついでに、グールに出会わないルートを選んでいったおかげで、第1層では一回しかグールに遭遇しなかった。
その一回も、ノーマルグールを見つけるなり、グレイスさんが魔法を使って倒したため、鑑定する間もなかった。
一度はステータスを見ておきたかったけれど、初めて見たグールの気持ち悪い見た目に、出会いたくないと思ったため、できるだけ避けて進んだ。
第2層からは、既に定番となった私の飛行魔法で移動した。
流石に階層全範囲を一度に調べることはできなかったため、漏れがないようにジグザグに移動しながら「探索」を使った。
グレイスさんの魔力温存のため、地上のグールはほとんど倒さなかった。
第3層後に一度休憩を挟み、第5層まで飛行魔法で翔け抜けた。
第6層に入る前に、グレイスさんから、ボスのことも考えて、ここからは戦闘が無いように進んでほしいと言われた。
私としても、グールは見たくなかったので、階層全部を「探索」でき、かつ、戦闘無しのルートを考えて進んだ。
途中から敵の数が増えて、しかも第6層は巨大迷路だったこともあり、迷ったり、隠れたり、戻ったりしていたら、第6層だけで2時間もかかってしまった。
第6層と同じく徒歩だった第1層は30分くらいで突破できたから、迷路がどれだけ厄介かよくわかる。
どうしても避けられなくて3回戦闘があったけど、ダニーさんが足止めし、グレイスさんが光属性魔法でトドメをさすという安定した戦いだった。
◇◆◇◆◇◆◇
第7階層と第8階層は、飛行魔法で進むことができたので、戦闘はなかった。
隅々までさがしたけど、怪しい人物は見つからなかった。
そして、第9階層でグールキングを倒して、核水晶の部屋へ向かう。
みんなで部屋へ向かってぞろぞろと歩きながら、そういえば、カージアの街迷宮の時もこんなだったな、と思った。
犯人を探して、迷宮に入って、ボス部屋まで攻略して、核水晶の部屋の扉を開けたら、変な男がいたんだっけ。
今回はどうなんだろう?
あの男がいないことを願う反面、スリードレイク家を困らせている犯人がいることを期待しながら、扉へ向かった。
扉の前までくると、ダニーさんががっしりと盾を構えながら、ゆっくりと扉を叩いた。
扉が完全に開かれても、誰もいなかった。
代わりに、水晶が置かれている台に、矢文が刺さっていた。
手紙を広げると、汚い字が書いてあった。
イーサンさんが代表して読み上げる。
「『残念!ココじゃないヨ!』」
読み終わった瞬間、イーサンさんが紙を丸めて投げ、足踏みした。
「はあ…………。残念だと?ふざけるな!」
気持ちはわかるけど、人間そう簡単に気持ちを割り切れるものじゃない。少しそのまま放っておこう。
他のみんなも似たような気持ちなのか、少し離れたところから見守っていた。
それにしても、ハズレか。
また探し直し。
せっかく進展すると思ったのに。
私は大きく溜息をついた。