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133.ぼっち少女の魔法練習


 私がスリードレイク家に来てから1週間が経った。

 あれから領民が押しかけて来たのは一度だけで、シリルさんの説得であっさり帰っていったそうだ。

 私は、王都との連絡係をする傍ら、迷宮攻略をした。

 連絡時以外では、できるだけタルフィアの街周辺にいてほしいと言われていたので、タルフィアの街の迷宮を攻略することにした。


 まずは、誰もいなくて探すのに時間が掛かりそうだったおまけ迷宮のシーウィード迷宮を攻略した。本当はギフトかスキルが欲しかったけど、一回の攻略に時間がかかり過ぎるので、最初に攻略したきり行っていない。


 次に、サハギン迷宮を攻略した。

 先にサハギン迷宮を攻略することにしたのは、転職のためだ。いつまでタルフィアの街にいられるかわからないし、転職に必要な魔物の迷宮は、早めに攻略しておくことにしたのだ。


 サハギン迷宮の通路には、床から30センチくらい水があって、歩きだと進むのに苦労しそうだった。

 造りはゴブリン迷宮やコボルト迷宮とほぼ同じで、違うのは地面や床に水があることだけ。どういう仕組みかわからないけど、坂道や城の階段でも、水嵩は変わらないようだった。坂道だからって水が流れてるわけじゃなく、ただそこにあるだけ。見えない力で固定されているようだった。

 濡れたくなかったから水に入らなかったけど、感触は普通の水と一緒なのかな?あとで誰かに聞いてみよう。


 サハギン迷宮には、オーク迷宮のように上級職の魔物は出てこなかったので、そのままボス部屋まで行った。ボスはサハギンキングだったので、あっさり倒して迷宮を出た。

 称号の効果は、回避と速度が+50ずつ。報酬は、光属性の中級魔法書だった。

 魔法書を見るのは初めてだ。私の魔法は、いつも「想像創造クリエイト・イマジネーション」で創るものだったから、自分が想像できない魔法は創れなかった。でも、魔法書で魔法を覚えれば、創れなかった魔法も使えるようになるかもしれない。

 私はウキウキ気分で部屋に戻った。



◇◆◇◆◇◆◇



 サハギン迷宮を攻略した翌日から、私は魔法の練習を始めた。

 が、1時間も経たずに断念した。

 どうやらこの世界の魔法は基本的に、声に出しての詠唱なしには発動しないらしい。

 一部の人は、詠唱を短縮したり、省略したり、心の中で唱えたりしても発動できるみたいだけど、普通はできないらしい。

 最初にハティさんたちに魔法を見せたとき、私が声に出さずに魔法を使ったことにすごく驚いていた理由がやっとわかったよ。


 いつも魔法を使うみたいにできないかと思っていろいろ試してみたけど、どうにもならなかった。

 創った魔法で事足りていたから見ていなかったけど、リアが持っていた水属性の初級魔法書を見せてもらって、魔法書に書いてある手順通りにウォーターボールを使ってみたら、発動しなかった。

 その後、いつもの要領でやってみたら発動したので、問題があるのは発動手順の方だと思う。


 うーん……

 魔法書に載ってる魔法を誰かに使ってもらって、それをもとに「想像創造クリエイト・イマジネーション」で魔法を創るって方法なら、何とかなるかもしれないけど、使える人を探すのは難しそう。

 難しい魔法になれば、それだけ使える人は少なそうだし……

 今後のことを考えるなら、今のうちに魔法書の魔法を使えるようにした方がいいよね。

 私はリアから初級魔法書を借りて、まだ創ったことのない魔法の練習を始めた。

 創ったことのない魔法なら、発動手順を間違えることがないから、成功したかがわかりやすいからね。



◇◆◇◆◇◆◇


 私は水属性の魔法使い(ウィザード)ということになっているので、水属性の初級魔法で練習することにした。

 水属性の初級魔法は全部で5つ。ウォーターボール、ウォーターカッター、ウォーターランス、ウォーターバレット、ウォーターウォールだ。

 私はこのうち、ウォーターウォールを練習することにした。理由は、防御魔法のため、屋内でも練習できるし安全だから。

 まあ、お世話になっている身で部屋を水浸しにするわけにはいかないので、庭で練習しているけど。


『水よ、我がもとに集いて、防壁と成れ!ウォーターウォール!………………ウォーターウォール!』


 いくら心の中で唱えてみても、何も起こらない。

 原理は「防御結界プロテクトシールド」の水バージョンだから、イメージは問題ないはずだ。

 リアにやってもらうことも考えたけど、リアはまだウォーターウォールを習得していないからそもそも無理。

 スリードレイク家の人たちは、私がすごい魔法使いだと思っているから、初級魔法で躓いているなんて知られたら面倒なことになりそうで、とてもじゃないけど頼むなんてできない。


 うーん……どうしよう……


 うんうん悩んでいると、ディーネが声をかけてきた。


『どうしたの?トモリ』

『ちょっと、魔法が発動できなくて困ってるんだよね』


 悪魔であるディーネに、この世界の魔法の発動方法を聞いても解決しないだろうとは思ったけど、人に説明している間に何か思いつくこともある。とりあえず話してみることにした。


『新しい魔法を習得したいんだけど、声に出さないと発動できないみたいなんだ。でも、私は声に出して言えないから……』

『発動できなくて困ってる?』

『うん』

『呪文は?ちゃんと合ってる?』

『合ってるよ。ちょっとやって見るから、見ててね。水よ、我がもとに集いて、防壁と成れ!ウォーターウォール!』


 説明するよりやってみせた方が早い。私は魔法書に書いてある通りにやってみせた。

 すると、ディーネが言った。


『それ、言語間違ってるよ?』

『え?言語?』

『うん。トモリのやった方法で魔法を使うには、精霊に言葉を伝えないといけないんだ。呪文は、伝える内容を簡潔でわかりやすくしたものなんだよ』


 ……なんか、魔法の解説が始まった。

 まさかディーネから答えを得られるとは思ってなかった。嬉しい誤算ってやつだね。

 ディーネがいろいろと魔法について説明してくれた。


 要約すると、魔法書に書いてある魔法の発動方法は、魔法のイメージが乏しい者や、特別な力――スキルや異能、ギフトなど――を持っていない者でも、呪文を唱えれば発動できる代わりに、呪文を正しく、確実に精霊に伝えないと発動できないらしい。

 精霊は、呪文と、一緒に放出される魔力をもとに、魔法を具現化してくれるらしい。

 魔法の制御は、放出された魔力を介して行われる。少量の魔力を一瞬出しただけだと、ショボい魔法に、大量の魔力を一瞬で出せば、爆発的な魔法に、少量でも長く出し続ければ、追跡もできる魔法になるらしい。

 これは、魔力操作能力――ステータスでいうと、精神力の数値に関わってくるものらしい。精神力の値が低いと、魔法の制御能力も低いというわけだ。


 話を少し戻して、呪文を受け取る精霊は、基本的に私たちの言葉を理解していないそうだ。言葉を音やリズムとして捉えていて、意味を理解していない。

 声に出して唱えられた呪文は、精霊にとって慣れ親しんだものだから、この音やリズムのときはこうする、とすぐにわかって、魔法を発動してくれる。

 でも、声に出されなかったり、短縮されたりしている呪文は、精霊が理解できないので魔法は発動しない。

 それでも発動できる人は、何らかのスキルなどの力で発動できているのだそうだ。ちなみに、私が今まで使っていた魔法も、このタイプなのだとか。


 それで、ディーネによると、声に出さずに、スキルとかに頼らず魔法を発動させたいなら、精霊の言葉で呪文を唱えればいいそうだ。

 魔力に呪文を込めるようにイメージして、精霊の言葉で呪文を唱える。ちなみに、精霊の言葉は、悪魔たちが使う言葉とほぼ同じで、ディーネが教えてくれた。


 ディーネの言う通りに詠唱すると、私の周りに半球状の水のドームが現れた。

 ウォーターウォールが成功したようだ。

 続いて、ウォーターバレットも試してみる。

 人の家の庭なので、威力は最小で。目標は足元の地面。少し削れるくらいの威力になるようにして詠唱すると、想像どおりに発動した。


『やった!できたよ、ディーネ!ありがとう!』

『うん。どういたしまして』


 お礼を言うと、ディーネが少し照れたような気がした。



◇◆◇◆◇◆◇



 次の日、私は、人目につかないシーウィード迷宮で光属性の中級魔法書に載っていた魔法をすべて習得した。

 ディーネが手伝ってくれたおかげで、午前中だけで終わった。

 ディーネがいてくれて本当に良かった。

 



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