132.ぼっち少女のシーウィード迷宮攻略
迷宮の中は、その名の通り海藻だらけだった。
ただ、顔があったり、手足があったりする魔物っぽい海藻は見当たらない。どこかに明かりがあるのか、他の迷宮と違って明るい通路いっぱいに、赤や緑といった色とりどりの海藻が、波に揺れているだけだ。
迷宮の中も海の中なのか海水で満たされていて、水中で呼吸する手段がないと、この迷宮は攻略できない。場所も泳いでくるには岸から離れすぎている。崖から飛び降りればすぐだけど、崖は数十メートルはありそうだったし、崖下には岩もあるから、気軽には飛び降りれないだろう。
今までこの迷宮が知られていなかったのは、まず攻略しようとすること自体が難しいからなんだろう。
私は念のため防御結界を展開し、海藻の上を泳いで階段を目指した。
進み始めてすぐ、私はこの迷宮が他の迷宮とは違うことに気がついた。
迷宮の大きさは、今までで一番小さいと思う。1階層が普通のスーパーと同じくらいかな?今までの迷宮が1階層でテーマパークくらいの広さだったから、それと比べればかなり小さい。「地図」で見比べているから一目瞭然だ。
通路は生い茂る海藻と水の中ということでかなり進みづらいけど、1階層あたりの攻略時間はかなり短いと思う。
それに、敵も出てこないから、戦闘に時間を取られることもない。
ここは、ただ海藻があるだけの迷宮なのかな?
魔物の反応を探して「探索」を使ってみても、魔物らしき大きな反応はない。時々、やっと感じ取れるくらいの小さな魔力反応があって、目を向けるけど、海藻があるたけで魔物の姿は見えない。魔力が溜まっている場所が反応しただけのようだ。
不思議に思いつつ、階段を目指して進んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
階段の前には、横に長い長方形の黒い板が嵌った透明の扉があった。
何が起こるかわからないので、防御結界がしっかり機能していることを確認してからドアノブに手を掛ける。
すると、ドアノブからバチッと音がして、静電気らしきものが走った。
防御結界のおかげでなんともなかったけど、驚いて扉を見る。そこで、私は気がついた。
扉についている黒い板に、白い字で、「討伐数不足です。あと10体魔物を討伐してください」と書かれていた。
討伐数不足?もしかして、一定数魔物を倒さないと先に進めないってこと?
でも、ここに来るまでに魔物は見かけなかった。どこにいるんだろう?
私はもう一度「探索」を使って魔物を探した。でも、相変わらず小さな魔力反応しかない。
……もしかして、この反応が魔物?
急いで戻って、反応のあった場所をよく見てみると、周囲の海藻と同化するように魔物がいた。他の海藻と同じように見えるけど、ステータスを確認したので間違いない。これがこの迷宮の魔物だ。
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モンスターシーウィードA
【属性】地
【特徴】魔物化した海藻。超雑魚。ただし、見つけるのは難しい。
【固有スキル】同化
【レベル】5
【体力】10/10
【魔力】100/100
【筋力】6
【防御】10
【命中】8
【回避】2
【知力】58
【精神力】51
【速度】5
【運】21
同化
【発動】任意
【説明】対象の姿を周囲と同化する。
【使用方法】スキル名を唱える。
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固有スキルのせいで発見できなかったのか。というか、名前そのままじゃない。もうちょっと何とかならなかったのかな。
まあ、いつものことなので、これ以上はツッコまないことにして、私は魔物を倒す。
ステータスが低いので、弱い凍結魔法でイチコロだった。
その後、モンスターシーウィードAを9体倒し、合計で10体倒したところで、再び階段の前に戻った。
恐る恐るドアノブに手を掛ける。今度は、何事もなく扉を開けることができた。よかった。
◇◆◇◆◇◆◇
第2層も、明るい通路に海藻がいっぱいあった。しかも、なんだか第1層よりも高さと密度が増した気がする。……気のせいじゃないよね?だって、さっきより海藻のない上の部分の通路の高さが低くなった気がするもの。
私はひたすら海藻を掻き分けて、階段を目指す。海藻のない面積が減ったので、海藻を完全に避けて進むことができなくなったのだ。
あー、面倒くさい!
何体倒せばいいかわからなかったので、通り道にいるモンスターシーウィードBは片っ端から倒しておいた。進みづらい通路を戻りたくなかったからね。
全部で16体倒したところで、階段の前にたどり着いた。さっきより多く倒したけど、足りたかな?
ドキドキしながらドアノブに手を掛ける。結界のおかげでなんともないとはいえ、バチっていったらびっくりする。何も起こらないことを願いつつ、ドアノブに触れた。
何も起こらず、普通に扉を開けることができた。
はあ……。これ、心臓に悪いな……。
◇◆◇◆◇◆◇
第3層は、通路がすべて海藻で埋まっていた。前は見えないし、入り込むスペースもないように見える。明かりも海藻の密集地帯の中までは届いていないのか、暗いところがあって不気味だ。
でも、ここまで来たからには攻略してから帰りたい。
私は意を決して海藻の中に飛び込んだ。
幸い、結界のおかげで体に海藻が絡みつくことはない。私は必死で海藻を掻き分けて、前に進んだ。
やっとの思いで階段の前にたどり着き、ドアノブに手を掛けると、バチッと音がして弾かれてしまった。
道中倒した数が少なかったから、予想通りなのであまり驚かなかった。モンスターシーウィードC、全然いなかったんだよね。
扉に嵌っている黒い板を確認すると、第1層と同じように白い字で、「討伐数不足です。あと37体魔物を討伐してください」と書かれていた。
えっ!?あと37体!?ここまでで確か8体倒したから、全部で45体倒さないといけないってこと!?
第1層が10体、第2層が15体で、第3層が45体……。増え幅おかしくない?
扉に文句を言っても始まらないので、私は仕方なく魔物を倒しに通路を戻った。
迷宮関係でおかしいのはいつものことだ。諦めよう。……諦めよう。
相変わらず、密集した海藻が行く手を遮っていてうざったい。
……この迷宮、ミニマムアント迷宮とは違う意味で二度と来たくない!
二度と来なくても済むように、今回で良い報酬が出ることを願って、通路を進んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
それから、階層の端から端まで行って、モンスターシーウィードCを倒した。
モンスターシーウィードCは、階層に同時に5体しか出現しないようになっているらしく、まとめて倒すということができなくてつらかった。
しかも、出現する場所が、倒したモンスターシーウィードから最低25メートルは離れた場所。普通なら25メートルなんて数秒だけど、海藻のせいで進みづらいここでは、数分かかる。
結局37体のモンスターシーウィードCを倒して、再び階段にたどり着くのに2時間以上かかってしまった。
途中で何度もやめようと思ったけど、気を利かせたディーネが愚痴を聞いてくれたので、何とか頑張れた。本当にありがとう、ディーネ。
階段を降りて第4層へ行き、核水晶に触れて報酬を受け取る。
称号の効果は、知力と精神力が+50、運が+10。攻略報酬は、銀貨10枚だった。
銀貨10枚はそれなりに良い報酬ではあるんだけど、スキルやギフトじゃなかったってことは、またいつか来ないといけないってこと?
はあ…………。一回で済ませたかったのになぁ……。
はあ…………。
スキルとかゲットするために、あと何回来ればいいのかなぁ……。今から気が重い……。
来なくても済むなら、来ないでおきたいな。でも、安全に攻略できる迷宮って少ないしなぁ。はあ…………。
私は肉体的にも精神的にも疲れた体を引きずって、スリードレイク邸へ戻った。