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131.ぼっち少女とスリードレイク家3


 私が目覚めたのは、昼過ぎだった。

 リアが私を起こしてくれたのだ。

 魔法の使い過ぎで疲れ切って、気絶するように眠った私を気遣って、昼過ぎまで寝かせてくれたらしい。

 そろそろ昼食の時間だから起こしに来たのだとリアは言った。


「これを逃すと、次の食事は夕食になってしまうそうです。まだ眠いかもしれませんが、ご飯を食べるために一度起きてください」


 正直、昨日の疲れがまだ残っているし、もう少し寝ていたいけど、お腹も空いている。

 雨を降らせているとき、軽い夜食をごちそうになったけど、昨日は夜ご飯もまともに食べていなかったから、お腹はかなり空いている。

 私は、眠い目を擦りながら、のろのろとベッドから出た。


「あ、私、部屋の外で待ってますから、身支度ができたら出てきてください」


 私を見て何かに気づいたリアが、そそくさと部屋から出て行った。

 私はまだ寝惚けている頭で、リアが出て行った理由を考える。

 まず、部屋を見回して、それから、部屋に備え付けられている姿見で自分を見た。

 あ!

 鏡に映った私は、昨日と同じ服を着ていた。

 そういえば、着替える気力もなくてそのまま寝ちゃったんだっけ。

 しかも、寝ている間についたシワや寝癖があって、とても人に会えるような状態じゃない。

 私は急いで着替えて、髪を整えた。ついでに「清潔クリーン」で自分とベッドを綺麗にした。


 部屋を出ると扉の横にリアがいた。


「おはようございます、トモリさん。食堂までご案内いたしますね」


 歩き出したリアに、私は無言でついていった。



◇◆◇◆◇◆◇



 食堂には、スリードレイク家の人たちが勢揃いしていた。

 私は軽く会釈をして挨拶をすると、リアと並んで案内された席に座った。


「おはよう、いや、もう昼だし、こんにちはかな?トモリさん。昨夜はどうもありがとう。改めて礼を言うよ」


 お礼を言うシリルさんにジェスチャーで答える。

 喋れないことは既に伝えてあるから、ジェスチャーで答えても咎められることはない。

 昼食を食べつつ、時々リアにフォローしてもらいながら、私たちは情報交換をした。

 シリルさんたちによると、雨で帰っていった領民たちが朝になってまた来るということはなかったらしい。

 ただ、今までも集まるのは数日置きだったそうなので、2、3日にしたらまた集まるかもしれないとのことだった。

 今までは、頑張って説得したら帰ってくれてたそうだ。コーディに手紙を書いたのは、3回目に集まってきた時で、1週間くらい前のこと。連絡係が早馬で急いで王都に来て、コーディに手紙を渡したのが昨日だったそうだ。

 確かに、馬車で10日かかる場所からの手紙に書かれている出来事が、リアルタイムで起きているわけがないものね。元の世界じゃ、どんなに離れていても一瞬で連絡が取れたから、気が付かなかった。

 ちなみに、この1週間の間に、もう1回集まってきたそうだ。その時も説得したら帰ってくれたらしい。


「それでは、昨夜は偶然だったのですか?」


 リアがシリルさんに尋ねると、シリルさんは頷いた。


「ああ。しかも、昨日に限ってなかなか帰ってくれなくてね。それに、前列には武器を持っている人までいて、説得に出ていくこともできなくて困っていたんだ。先の4回とは明らかに違っていた。正直、雨でおとなしく帰ってくれたのが不思議なくらいだよ」

「それほど様子が違っていたのですか」

「ああ。昨日は完全に実力行使に出る様子だったよ。対応を誤っていたら、負傷者が出ていたかもしれない。異様な雰囲気だったんだ」


 昨日のことを思い出したのか、シリルさんは険しい顔をした。

 そして私とリアを真剣な眼差しで見て言った。


「昨夜はトモリさんのおかげで穏便に終わったが、まだ安心できる状況ではない。トモリさん、アレナリアさん。お二人の力を貸してもらえないだろうか」


 シリルさんの申し出に、私はリアと顔を見合わせた。

 乗りかかった船だ。協力するのは吝かではない。

 でも、私たちは追われる身。表立って協力することはできないし、大した人脈もない私たちではできることは限られている。

 そのことをリアから伝えてもらうと、シリルさんは「それでも構わない」と言った。


「私が求めているのは、トモリさんの転移魔法だ。一瞬でここと王都を行き来できるその力を貸してほしい」


 転移魔法のことは隠しておきたかったのに、転移魔法大好きのコーディがうっかりバラしてしまったのだ。

 まあ、もう既に何人かにはバレてるし、シリルさんたちは良い人そうだからいいんだけど、転移魔法という切り札は、いざというときに身を守るためにも、できるだけ秘密にしておきたい。これからはもっと気をつけないとね。

 私はリアと念話で相談する。といっても、答えはもう決まってるんだけど、念の為、意思確認をしておきたい。


『リア。どうするの?』

『あの、私、協力したい、です……』

『うん。わかった。じゃあそうしよう』


 おずおずと答えるリアに肯定を返す。昨日、コーディの力になるって二人で決めたばかりだ。対象がコーディからスリードレイク家になっても、大して変わらない。


「私たちでよければ、ぜひ協力させてください」

「そうか!ありがとう、アレナリアさん。トモリさんも。よろしく頼むよ」


 リアが返事をすると、シリルさんは笑顔でお礼を言った。




 その後、昼食を食べ終わった私たちは、今後の話をして解散した。

 私は基本的に、王都で情報収集をしているシリルさんの部下の人たちとの連絡役ということになった。まあ、部下の人は私のことは知らないし、喋れない私だと意思疎通に問題があるので、会うときはコーディも一緒に連れて行くように言われた。


 一方リアは、今回の件の黒幕と言われているアドリアナの言動について、分析することになった。

 アドリアナが何を考え、何をしようとしているのか。

 双子のリアなら何かわかるかもしれないと考えたようだ。

 完全にリアの素性がバレているけど、昨日からわかっていたことなので特に驚きはしなかった。

 リアは複雑な顔をしていたけど、シリルさんの頼みを受けることにしたようだった。


 それから、私たちはしばらくスリードレイク家でお世話になることになった。

 私が近くにいたほうが連絡が取りやすくて都合がいいらしい。

 特に断る理由もなかったので、お言葉に甘えることにした。



◇◆◇◆◇◆◇



 情報や証拠が集まるまでの間、連絡役の仕事がない時は、タルフィアの街のおまけ迷宮を探すことにした。

 探すのは私一人で、リアとコーディはスリードレイク家にいてもらっている。

 コーディがいれば、「伝言メッセージ」でいつでも私を呼び戻すことができるから、私が外に出ていても大丈夫なのだ。

 ちなみに、「伝言メッセージ」には距離制限があるようで、タルフィアの街にいるコーディから王都にいる私には送れなかった。残念。


 タルフィアの街にある(とわかっている)迷宮は3つ。

 いつものように、その3つの迷宮の場所から、未発見のおまけ迷宮の場所に見当をつけて探す。

 見当をつけた場所のうちのひとつは、森の中だった。数日森を探したけど、見つからなかった。

 もうひとつは、海の中だった。

 水着を用意して、水の中を探し回った。泳ぎは得意だったし、水の中でも息ができるギフトがあったので、長時間潜っていられた。

 海の中は森の中と違って、入り口が隠せる場所は限られる。海底の様子や魚の動きをよく見て探すと、おまけ迷宮はすぐに見つかった。

 そこは、崖の下の海の底。たくさんの海藻を掻き分けて進んだ先にある崖の穴の中。

 おまけ迷宮の名前は、シーウィード迷宮だった。

 海の中だからって、安直過ぎる気がしたけど、見つけたからには攻略しよう!

 ……今回のおまけ迷宮は、マトモなところだといいな。

 私はシーウィード迷宮に入っていった。



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