126.ぼっち少女の王都のおまけ迷宮攻略
コーディが居候を始めて4日。
とりあえず、コーディには転移魔法獲得のため、リアと一緒に簡単な迷宮を攻略しに行ってもらっている。
迷宮を攻略すると、攻略特典としてアイテムやスキル、ギフトがもらえる。それで転移魔法をゲットできれば手っ取り早い。
攻略人数が少ないほど良い特典がもらえるため、攻略はリアと二人で行ってもらった。
リアもそこそこレベルやステータスが上がって、簡単な魔物相手なら倒せるようになってきたし、リアの話ではコーディもそれなりに戦えるらしいので、まあ大丈夫だろう。
二人には、階層の少ないおまけ迷宮を周回してもらっている。
最初はフィルリアの街のおまけ迷宮、ホーンラビット迷宮に行ってもらった。
でも、3周目でコーディが、攻撃力が常に2倍になる「攻撃力倍加」のギフトを獲得してしまった。
一度スキルやギフトを獲得した迷宮では、二度とスキルやギフトは手に入らないそうだ。
これ以上ホーンラビット迷宮を攻略する意味はないため、別の迷宮に行くことになった。
次に行ってもらったのは、カージアの街のおまけ迷宮、ミニマムアント迷宮。
でも、一回攻略しただけで、二人揃って周回を猛反対したため、ミニマムアント迷宮でのスキル獲得は諦めることになった。
……まあ、普通はそうなるよね。
そして今は、スウィルシアの街のおまけ迷宮に行ってもらっている。
カージアの街のもう一つのおまけ迷宮、マンドラゴラ迷宮は有名で混んでいるため除外した。リアが見つかるのもまずいし。
だから、スウィルシアの街の、まだ一般には知られていないおまけ迷宮に行ってもらうことにした。
二人が今いるのは、パウダーマッシュ迷宮。
パウダーマッシュは、文字通りの魔物ではなく、粉を使って攻撃してくるきのこの魔物。本体は寄生している木から動くことはないので、倒すのは簡単だ。
ただ、パウダーマッシュが飛ばしてくる粉、マッシュパウダーは有毒物質である。と言っても、直接吸い込むと、半日くらい喉がヒリヒリ痛くなる程度のもので、健康被害をもたらす程じゃない。
それでも、喉が痛くなるのは嫌なので、攻略するときはガスマスクをつける必要があるけど。
ちなみに、鉄を精錬するときにマッシュパウダーを加えると、ものすごく純度が高く鉄が出来上がるため、工業都市であるスウィルシアの街では高値で取引されているらしい。通常は、野生に稀に生えているパウダーマッシュからしか取れないものなので、貴重なものなんだとか。
それを知ったとき、パウダーマッシュ迷宮が見つかったら、とんでもないことになりそうだな、と思ったし、リアもコーディも同じ反応だった。
この迷宮は、知られてはいけない迷宮なのだと3人で認識を共有したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
二人が周回している間、私は、次のおまけ迷宮を探して王都の森を散策している。
それにしても、何で街の周りはどこも森なんだろう。
ふと気になって、前にリアに聞いてみたら、必要以上に森を破壊すると、スタンピードが起こって多くの犠牲が出るんだそうだ。
だからどの領主も、森を伐採して街を拡大することはせず、現在の大きさで街を発展させることに力を注いでいるそうだ。
そのおかげか、街が焼け野原になるような戦争は一度も起こったことがないらしい。それはいいことなのだとリアは言っていた。
確かに、悲惨な戦争が起きないのはいいことなのだろうけど、今の私にとってはこの森は嫌なものだ。
だって、いくら探しても、おまけ迷宮が見つからない。
今までもそうだったけど、おまけ迷宮は巧妙に隠され過ぎてて、見つけるのが大変なのだ。
ホーンラビット迷宮は岩の隙間。
ミニマムアント迷宮は落とし穴。
パウダーマッシュ迷宮は木の虚の中にあった。
マンドラゴラ迷宮も、昔は草木の生い茂る中にあったそうだ。
そう考えると、今回も変な場所にあるに違いない。
私は入り口を見落とすまいと、隅から隅まで隈なく見て回った。
お昼が過ぎてしばらくした頃、森を歩き回っていると、風に乗って微かに美味しそうな匂いがした。
匂いがした方を見ると、こんもりとした繁みがあった。
まさか……と思って、繁みを探ると、ちょうど中心のあたりの地面に、直径2メートルくらいの穴がポッカリ空いていた。
魔法で明かりを出して中を覗くと、「フライングチキン迷宮」と書いてあった。
何でこんなところに……と思うけど、見つけたのだから行くだけだ。
私は、飛行魔法を使って慎重に穴に入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇
中に入って、私は唖然とした。
フライングチキンは、飛ぶ鶏のことだと思っていた。
この世界では鶏も飛ぶんだなぁと暢気に思っていた。
でも、フライングチキンは、飛ぶ鶏の魔物ではなかった。
いや、鶏は鶏だし、飛んでいるのは確かなんだけど、なんというか、状態が違った。
フライングチキンの「チキン」は、「生きた鶏」ではなく、「鶏肉」という意味だったのだ。
フライングチキン迷宮の中では、いわゆるクリスマスチキンが、美味しそうな匂いを発しながらビュンビュン飛び回っていた。
何これ…………。
想定外の光景にしばらく思考がフリーズする。
ボーッと立っていると、フライングチキンが猛スピードでぶつかってきた。ぶつかった衝撃でフライングチキンは砕けたけど、私の服にはべったりとソースがついた。ベトベトのソース。乾いたら落とすのが大変そうだ。
衝撃で再起動した私は、急いで「清潔」を使い、服の汚れを落とす。さらに、「防御結界」でこれ以上服が汚れないようにした。
足元に転がっているフライングチキンの残骸を見て、それから今も飛び回っているフライングチキンを見た。
これ、食べれるのかな?
匂いは美味しそうなんだけど、毒入りで食べたらダメなパターンとかありそう。
そもそも、何でクリスマスチキンが飛んでいるんだろう?
私は適当なフライングチキンを鑑定してみた。
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
フライングチキンA
【属性】地
【特徴】美味しそうな空飛ぶローストチキン。もちろん食べられます!超雑魚だけど、ソースには注意。
【固有スキル】飛翔
【レベル】12
【体力】125/125
【魔力】125/125
【筋力】12
【防御】25
【命中】12
【回避】25
【知力】12
【精神力】25
【速度】12
【運】25
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見た目だけでなく、ステータスもおかしかった。
これはもう、何かのネタでしかないでしょ。
まあ、ステータスからして超雑魚であることは確かだし、サクッと倒して肉をゲットしよう!
説明にも食べられるってあるし、とりあえず1個食べてみるか。
私は目に入ったフライングチキンを一つ、掴んでみた。
結界があるから、掴んでも手は汚れない。
体力が125しかないフライングチキンは、筋力800以上の私の一掴みで倒された。
倒したフライングチキンを、口元だけ結界を一時的に解除して食べる。
見た目通りの味が、口の中に広がった。
美味しい!これは本物のクリスマスチキンだ!
気がつけば、倒したフライングチキンは食べ終わっていた。
骨を魔法で焼いて処分した私は、目の前で飛んでいるフライングチキンを見た。
……いっぱい持って帰ろう。
ガシガシ摑んで倒しては、「無限収納」に入れていった。
◇◆◇◆◇◆◇
迷宮を出た頃には夕方になっていたので、リアとコーディを迎えに行って、家に帰る。
夕食にフライングチキンを出すと、二人とも驚いていた。
「こ、これは、もしかして、あの幻のフライングチキンですか?一つ金貨10枚はくだらないと言われている、あの?」
「うわぁ!あたしこれ、一度でいいから食べてみたかったんだよね!ありがとう、トモリ!」
そう言って、バクバク食べていく二人。
それぞれ1個ずつ食べ終わると、名残惜しそうに骨を見る。
私が追加で1個ずつあげると、嬉しそうに食べた。
食べ終わってから、リアが、恐る恐る尋ねてきた。
「あの、これ、どうしたんですか?こんな珍しいもの、一体どこで手に入れたのでしょうか?」
『迷宮だよ。フライングチキン迷宮っていうのがあってね。そこにいっぱい飛んでたよ』
「え?」
固まる二人。
後日、フライングチキン迷宮に連れて行くと、目の色を変えてチキンを取りまくっていた。
食欲って怖いなぁ。
……それにしても、このチキン、1個金貨10枚って高すぎない?いや、迷宮以外で見かけるのは珍しいからなんだろうけど、それにしても高すぎる気がする。
フライングチキン迷宮もパウダーマッシュ迷宮と同じで、公表しちゃいけない類の迷宮だと思った。