122.ぼっち少女と新居
7月5日、水曜日。
今日は、ハティさんたちにも手伝ってもらい、新居を作ることになった。
新居を「探す」のではない。「作る」のだ。
なぜこんなことになったのか。それは、ハティさんの天然爆弾発言のせいだ。
◇◆◇◆◇◆◇
昨日の夜、観光も粗方終え、夕食をとっていた時のこと。
王都で宿を取るというハティさんたちに、一緒に泊まらないかと誘われた。でも、私たちは断った。
私はともかく、リアは王都に知り合いがいるから、変装せずに出歩けない。かと言って、四六時中変装しているわけにもいかないので、王都に泊まるのは無理だと言って断った。
そうしたら、アニタさんがこう言った。
「ですが、あの洞窟は大勢の人が知っていますし、見つかるのも時間の問題だと思いますよ?」
確かに、初めて洞窟を見つけた時、ミラさんたち以外にも人がいた。その後、カージアの街から迎えに行った人たちも、あの洞窟のことを知っているのだ。
カージアの街の領主も洞窟の存在は知っている。
今はまだ忙しくて手が回っていないだけ。いつかは領主の手の者がやってくるだろう。
ハティさんに結界を突破されてしまったし、あの洞窟に居続けるのももう限界かな。
「そうですね。トモリさん、そろそろ引っ越しませんか?」
リアも同じ結論に至ったようだ。
私は頷いた。
「だが、引っ越すと言っても、どこに引っ越すのだ?我々と同じところは嫌なのだろう?」
イーサンさんがもっともなことを言う。
引っ越すと言っても、引っ越し先を見つけなければ引っ越せない。
どうしよう?
"オススメは?"
いいところを紹介してくれたらそれで済むんだけどな、と思って聞いてみたけど、誰もいい引っ越し先を答えられなかった。
そんな時、ハティさん言った。
「ないなら作っちゃえばいいんじゃない?」
みんなでいろいろ検討した結果、街の外の人が来ない場所に家を作ろうということでまとまってしまった。
確かに、街の中にいるよりは見つかる危険性は少ないし、魔物とかも私の結界で防げるから問題ないけど、さすがに私、家なんて作れないよ?
ひとりじゃ無理だって言ったら、ハティさんたちも手伝ってくれることになった。
◇◆◇◆◇◆◇
夕方。そろそろ日も暮れようかという頃。
私、リア、ハティさん、アニタさん、イーサンさん、ハンスさんの6人は、空から王都が辛うじて見えるくらい王都から離れた深い森の中の新しく出来上がった家の前に立っていた。
皆の協力のおかげで、1日で家が出来上がった。
材料の都合でログハウスになったけど、リアとふたりで暮らすには充分な広さの家が出来た。
家具は洞窟で暮らしていたときのをそのまま使うことにしたから、今日からでも暮らせる。
「すごいわね!1日で家ができちゃったわ!」
出来上がった家を見て、ハティさんが歓声を上げる。
ハティさんは、いい感じの木を見つけて、魔法で切る係だった。
途中、魔力回復薬を飲んだり、休憩を挟んだりしながら、必要な分の木をひとりで切り倒してくれた。
「ああ。まさか1日で出来上がるとはな。びっくりだぜ」
ハンスさんがハティさんに同意する。
ハンスさんは、ハティさんが切り倒した木を、木材に加工する係だった。
きっちり大きさを揃えて加工してくれたおかげで、ラクに綺麗な形の家を建てることができた。
「トモリさんの魔法あってのことだがな。我々だけでは不可能だ」
そう言ってイーサンさんが苦笑する。
イーサンさんは、ハンスさんが加工した木材を私のところまで持ってくる係だった。
薄くなっているけどドワーフの血が混ざっているらしいイーサンさんは力持ちで、どんどん木材を運んでくれた。
「本当に、トモリさんの魔法ってすごいですよね!こんなに簡単にお家が建てられるなんて思ってもみませんでした」
出来上がった家を前に、すっかりはしゃいでいるリアが言う。
リアは監督役として、家が歪んでいないか、木材を積む場所は間違っていないか、私ひとりじゃ見切れないところを見てもらった。
「まあ、トモリさんですからね。何でもアリでしょう」
アニタさんが悟ったような顔で言う。
アニタさんは連絡係として、各分担の進捗調整をしてもらった。
おかげで滞ることなく作業が進んだ。
そして私は、イーサンさんが運んでくれた木材を使って、魔法で家を建てる係だった。
新しく「念動力」という魔法を創り、木材を自在に動かせるようにしたら、簡単に家が建てられた。
私自身、まさか1日で家が出来るとは思ってなかったから、かなり驚いたけど、早く出来るのは良いことだし、手抜き工事はしていないから、住むのに問題はないと思う。
「今日はどうするの?このまま住む?」
「はい!家具さえあれば生活できますし、内装は追々やっていけばいいですから。いいですよね?トモリさん」
ハティさんに喜々として答えるリアに聞かれ、私は頷いた。
未完成だけど、洞窟よりは家の方がいい。
「じゃあ、もう一踏ん張り頑張りましょうか。家具の設置までやってしまいましょう」
ハティさんの提案にみんなが賛成し、机やベッドといった生活に最低限必要な家具を設置することになった。
みんなでやったおかげで、家具の設置は30分もかからずに終わった。
片付けまで終わると、打ち上げとして王都で食事をした。
みんなで食事をしながら今日のことを話した。大変だったこと、面白かったこと。
私が自分から会話に加わることはほとんどなかったけど、みんな自然に接してくれた。私が話さなくても、必要以上に気を遣わず、かといって無視するわけじゃない、適度な距離感で接してくれたから、すごく気楽だった。
たまにはこういうのもいいなぁ……。
食事が終わると、ハティさんたちは王都の宿に、私たちは新居に帰った。
家に帰ってリアも一緒に魔法で汚れを落とし、着替えたら、とっとと寝ることにした。
今日は疲れたし、おやすみなさーい。
◇◆◇◆◇◆◇
次の日。
新居は一応住めるようになっているとはいえ、まだまだ足りないものも多い。
今後も住み続けることを考えると、この機会に必要なものは買い揃えておきたい。
そういうわけで、今日は王都で買い物することになった。
ちなみに、新居は「無限収納」に入れればどこでも持っていけるので、他の街に行っても住み続けることができる。
このことをハティさんたちに話したら、全員同じ顔で驚いていた。
家を持ち運べることが衝撃的だったみたい。
気持ちはよくわかるよ。私も収納できたとき目を疑ったから。
でも、できるものはできるんだよ。
まあ、引っ越しがラクなのは良いことだし、気にしないことにした。
リアと二人で家具屋さんやインテリアショップを見て回っていると、突然リアが小さく「あ」と声を上げた。
『どうしたの?』
『いえ、あの、学園での同級生がいまして……』
リアは商品を見るように移動して、棚の向こう側に行った。
私も不自然にならないように気をつけながら、リアの後を追って移動する。
『気になるなら、出る?』
『い、いえ!変装してますし、このまま他人のフリをしていればバレないと思いますので大丈夫です!』
確かに、変装して別人みたいになってるし、前も気づかれなかったからなぁ。
リアがいいというならこのままでいいか。
私たちはそのまま買い物を続けた。
◇◆◇◆◇◆◇
買い物を終えて店を出ると、入り口の横に立っている人がいた。
リアと同じくらいの歳の女の子。
ローズピンク色のセミロングの髪に、海のような青い瞳。涼しそうな半袖ショートパンツの服装で、サンダルを履いている。
その子は私たちが出て来るのを見ると、近寄ってきた。
すると、リアが私の後ろに隠れる。
『この人、さっきの……』
なるほど。リアの元同級生か。どうりで同い年くらいに見えるわけだ。
その子は、まっすぐリアを見て歩いてきた。そして、会話ができる距離まで近づくと立ち止まった。
「アレナリアさん、ですよね?私のこと、覚えていらっしゃいませんか?」
視線で私ではなくリアに向けて話し掛けたことがわかる。
どうやら、リアのことがバレたみたいだ。どうしよう…………。