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121.ぼっち少女の王都観光


 見た目を変えた私たちは、「隠形ハイドフォーム」を使って門番の目を盗み、正門から王都に入った。

 最初は空から入る予定だったんだけど、王都に近づいたところでディーネが結界があると警告してきたため諦めた。

 王都だから、警備も厳しいのだろう。結界のせいで空からの出入りは諦めざるを得なかった。

 ただ、転移での出入りはできそうだったので、今後は転移で移動することにした。


 王都は、人がたくさんいた。

 カージアの街も栄えていたけど、王都は段違いだ。

 露店も多く、見たことのない食べ物や装飾品が売っていた。


「やっぱり王都は人が多いですね。特に今日は1日(ついたち)ですから、人出は普段の比ではないでしょう」


 適当な路地に入って「隠形ハイドフォーム」を解き、大通りに出たところで、リアが言った。

 そういえば、リアは王都の学校に通ってたんだっけ。


『懐かしい?』

『それなり、ですね。学生時代はあまり良い思い出はありませんから』


 悲しそうな顔をして、リアが答える。

 あ、そっか。アドリアナのせいでいろいろあったんだっけ。うーん。あんまり昔のことを思い出させるような話はやめたほうがいいかな。

 私は話題を変えることにした。


『それで、これからどうする?』

『まずは、教会ですね!礼拝に行かなければなりませんから!』


 そう言って、リアは教会の方へ歩き始めた。

 王都は明らかに人が多そうなのに、本当に行くのかな?並ぶの嫌だなー。

 それでもリアをひとりにするわけにはいかず、私は渋々ついていった。



◇◆◇◆◇◆◇



 案の定、教会の前にはものすごい行列ができていた。

 カージアの街でも行列だったけど、これはその何倍もある。


『……これ、今日中に終わるの?』

『終わりますよ。王都は一度に何人もできるようになっていますから、見た目より進みが早いんです。この様子だと、お昼過ぎくらいには終わりますね。さあ、並びましょう、トモリさん』


 リアは私の返事を待たずにどんどん進んでいく。

 千人くらいは並んでいそうな気がするけど、本当にあと2、3時間で終わるのかな?

 不安に思ったけど、リアが私の手を掴んで離してくれないので、私も列に並ぶことになった。


『私、礼拝なんてどうでもいいんだけどなぁ……』

『何言ってるんですか!トモリさんはフェムテ神から加護をいただいているでしょう!礼拝しないなんてあり得ません!』

『えー……』


 どうやら、私に拒否権はないようだった。



◇◆◇◆◇◆◇



 午後2時過ぎ。

 やっと礼拝が終わり、私たちは遅めのお昼を食べた。

 本当にお昼過ぎには終わったよ。あんなにいたのになぁ。

 ちなみに、今回は呼び掛けても神サマから返事はなかった。もしかして、いつも聞いてるわけじゃないのかな?

 まあ、また何か求められても困るし、何もないならそれが一番だよね。


 お昼を食べ終わると、今度は市場を見て回る。

 王都だからか、珍しいものが多い。

 カージアの街で、ギルマスがたくさんお金をくれたおかげで、当分お金に困ることはないというのもあって、欲しいものは深く考えずに買っていく。

 時々リアにねだられて、服やアクセサリーを買ってあげることもあった。

 買ったものは、人目につかないところで「無限収納インベントリ」に入れればかさばることもないからラクだ。

 そうして日が暮れるまで市場でショッピングを楽しむと、夕食を食べてから転移で洞窟に戻った。



◇◆◇◆◇◆◇



 次の日も、私たちは王都観光を楽しんだ。

 初日は礼拝で半日終わってしまったので、予定より観光できなかったのだ。

 市場だけではなく、本屋や装備屋に行ったり、劇場で演劇を見たり、時計台に登って王都の街並みを一望したりした。


 途中、リアの学園時代のクラスメイトとすれ違ったけど、向こうは全くリアに気付かなかった。

 リアのことを覚えていないのか、それとも変装がうまくいっていたからかわからないけど、バレなくて良かった。



◇◆◇◆◇◆◇



 さらに次の日も、観光をした。

 この日は、栞を作ったり、キャンドルを作ったりと、体験型のものを楽しんだ。

 リアが作った栞をプレゼントしてくれたのが嬉しかった。

 もらったアレナリアの栞を見て、思わず笑ってしまった。でも、嬉しかったのは本当なのでお礼を言うと、リアはちょっと照れくさそうに笑った。

 せっかくくれたものだし、大切に使おう。



◇◆◇◆◇◆◇



 4日目。


『ねぇ、リア。そろそろ迷宮に行ってもいい?』


 さすがに観光にも飽きてきた。主な観光名所はほとんど行ったし、買い物もたくさんした。そろそろ迷宮を攻略して、次の街に行きたい。


「じゃあ、私はお留守番ですかね?」

『うん。何かあったら連絡して』

「はーい」


 あっさりリアがオーケーしてくれたので、リアの気が変わらないうちに私は洞窟を出た。

 リアはまだ弱いので、初見の迷宮に行くときは私ひとりで行くことにしている。

 私には「蘇生リヴァイヴ」があるから大怪我を負っても命に別条はないけど、リアはそうはいかない。

 でも、私もまだ無敵と言えるほど強くない。何が起こるかわからない迷宮で、リアを守り切ることはできない。

 だから、リアを迷宮に連れて行くのは、私が守り切れると判断した迷宮に行くときだけにしているのだ。

 リアもその辺は理解していて、寂しそうにすることはあるけど、駄々を捏ねることはない。リアってホントいい子だよね。




 王都付近に転移し、姿を隠して空から迷宮を探す。

 人が多い迷宮は、夜中とか、人が少ない時間を狙って行く。

 人が少ない迷宮は、そのまま攻略する。

 今回はどうなんだろう?


 攻略できる迷宮であることを願いながら探すと、人が集まっている迷宮を見つけた。

 行列はできていないけど、ギルドの職員らしき人がいて、入場制限をしている。

 あの迷宮は、夜に来るしかないかな。


 ひとつ迷宮が見つかると、あとは地図と照らし合わせて迷宮の場所に検討をつけて探せる。

 2つ目の迷宮は、すぐに見つかった。

 ただ、ここも入場制限をしている。昼間は無理そうだ。


 3つ目の迷宮もすぐに見つかったけど、ここも入場制限をしていた。

 結局、王都の迷宮はどこもギルド職員がいて昼間は入れそうにない。

 まあ、迷宮の前に冒険者もそれなりにいたからなぁ。王都は人口が多い分、冒険者も多いんだろう。

 仕方ない。夜に出直そう。


 念のため、街迷宮があるはずの場所と、おまけ迷宮があるはずの場所に向かってみたけど、何もなかったし、誰もいなかった。

 おまけ迷宮はいつもわかりにくい場所にあるからなぁ。今回も見つけるのに苦労しそうだ。


 それにしても、他の迷宮はすべて入場制限してるなんて、聞いてないよ!

 あとでリアに聞いてみよう。……というか、最初からリアに聞いておけばよかったのか。王都にいたことがあるなら知ってるはずだし。

 あー、失敗した。

 私は溜息をひとつつくと、洞窟に転移した。

 おまけ迷宮を探す前に、情報収集だ。効率的に行かないとね。



◇◆◇◆◇◆◇



 ……なぜこうなった?

 私は、目の前の光景を見て、首を傾げた。


 拠点にしている洞窟の周りには、人を寄せ付けない結界が張ってある。

 この結界がある限り、普通なら洞窟は見えないし、辿り着けない。さらに、見えないことにも辿り着けないことにも気付かないようになっているから、来客なんてあるはずがないのだ。


 それなのに、なぜ?

 なぜ、あの4人がここにいるの?


 洞窟には、リアの他に、ギルマス、ハティさん、アニタさん、ハンスさんの4人がいた。


『これは、どういうこと?』

「ハティさんの能力で、結界を抜けていらしたそうです」


 ハティさん、そんな能力を持ってたんだ。知らなかった。

 でも、結界が破られることもあるなら、拠点を移した方がいいかな。もっと見つからない場所に。

 ……まあ、それは追々考えるか。

 私はとりあえず、4人に挨拶をした。


"お久しぶりです"


 魔法で、文字の形に色水を出す。

 4人にはまだ、念話が使えることは黙っておきたい。


『リア。念話のこと、話した?』

『いえ。トモリさんに確認してからにしようかと思いましたので』

『ありがとう。じゃあ、私が自分から言うまで、黙っててくれる?』

『わかりました』


 リアは気が利くいい子だと改めて思った。



◇◆◇◆◇◆◇



 その後、お互いの近況を話した。

 ギルマスは、ギルマスじゃなくなったそうだ。それじゃあ、名前で呼んだほうがいいよね?

 えっと、イーサン、さん?なんか変な感じがするけど、仕方ない。慣れれば気にならなくなるだろう。

 イーサンさんの解雇は、まあ、予想できてたからあまり驚かなかったけど、ハティさんがクビになったのには驚いた。

 さらに、アニタさんもハンスさんもギルドを辞めてついてきたというのには、かなり驚いた。そんな風には見えなかったのに。

 でも、また会えて嬉しいことは確かだ。

 話している間、みんな笑顔だった。

 


 お昼近くになると、ハティさんが王都に行きたいと言い出した。

 他の3人も、ハティさんに同意する。

 私は仕方なく、リアとハティさんたちを連れて王都に向かった。


 


 昼食後、また観光する羽目になった。

 夜に洞窟に戻ったときには、クタクタだった。

 …………しばらく観光はいいや。

 

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