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閑話19 領主一家の事情〜アレナリア編〜


 私はアレナリア・トゥ・オネインザ。

 ――いや、違う。今はただのアレナリア。私はもう、オネインザ家の者じゃない。私は領主の娘という立場を捨てたのだから。

 でも、私は今とても満ち足りた気持ちでいる。


 それもこれもすべて、トモリさんのおかげだ。

 トモリさんのおかげで、私は救われた。

 トモリさんがいなければ、私はずっと日陰者として生きていただろう。もしかしたら、殺されていたかもしれない。


 だから、トモリさんは私の恩人。

 出会ってまだ一ヶ月余りで、トモリさんのことは知らないことの方が多いけど、すでに返しきれない恩があるのだ。

 私はどうやってこの恩を返していけばいいんだろう?



◇◆◇◆◇◆◇



 初めてトモリさんと会った時、私はトモリさんを運命の人だって思った。

 あ、誤解の内容に言っておくけど、恋愛的な意味じゃなくて、私の運命を変えてくれる人って意味だよ。

 大量のオークに襲われて、ピンチの時に颯爽と現れて助けてくれたトモリさんは、まさに救世主だった。


 私と同じくらいの歳の女の子なのに、どうしてあんなに強いんだろう?

 どうして喋らないんだろう?

 珍しい黒髪黒目だし、顔立ちもこの国の人とは違う。出身はどこだろう?

 どうしてこの国に来たのだろう?

 疑問は尽きなかったけど、会話の主導権を握っているのはアナだ。私が喋りすぎるとアナが不機嫌になるから、最低限の会話に留めた。


 街に入るとき、門番に呼び止められたけど、領主の娘という立場を利用して少し強引に行かせてもらった。

 こういうとき、話をするのは主に私。アナは面倒な話は私に押し付けるのだ。

 いつものことだから、もう何も思わなかった。



◇◆◇◆◇◆◇



 トモリさんと会った次の日の朝、お母様が朝食を持ってきてくださったとき、鍵を掛け忘れたのに気が付いた。

 いつもなら、例え鍵が空いていてもじっとしているのだけど、その日は無性に外に出たかった。

 トモリさんに会いたかった。

 だから私は、人目を盗んでそっと部屋を出て、領主邸の外に出た。

 使用人用のフード付きの服を借りたら、簡単に出られた。


 お昼頃まで街でトモリさんを探したけど見つからなかったから、ギルドに行った。トモリさんは冒険者だから、ギルドなら何か知ってるかもと思ったのだ。

 受付で名前を言うと、驚いた受付嬢が勝手にギルマスに取り次いでしまった。

 止める間もなく受付嬢はギルマスの許可を得て、私をギルマスの部屋へ連れて行った。

 ギルマスに会ったら私がここにいることが知られてしまう、と危機感を抱いた私は、ギルマスに頼んで黙ってもらうことにした。


 ギルマスがすんなり了承してくれてほっとした私は、ギルマスの部屋を退出し、ギルドを出ようとした。

 そこでふと思い付いて、取り次いでくれた受付嬢に、トモリさんに直接報酬を渡すように頼んだ。

 こうすれば、アナやお父様が報酬を中抜きすることはないだろうと思って。


 そんな話をしていると、後ろから気配を感じた。

 振り返るとトモリさんと目が合った。

 やはり私たちは出会う運命なんだと思って、勢いに任せてトモリさんを2階の応接室に連れて行った。

 途中で受付嬢に目で合図をした。何も言わなかったけれど、わかってくれたようで、彼女はトモリさんへの報酬を持って応接室に来てくれた。

 ざっと中身を確認して、トモリさんに渡す。

 ここのギルドは、お金には厳しいから、金額が間違っていることはないだろう。

 受け取ったトモリさんは中身を一切見なかった。

 これは、多少違っていても気にしないタイプなの?それとも、私を信用してくれているの?

 後者だったらいいな、と思いながら、私はトモリさんに続いて席を立った。




 ギルドを出たところでトモリさんを呼び止めて、話をしたいと切り出した。

 できるだけ端の方で話をしたけれど、トモリさんの容姿が珍しいのかチラチラ見る人が多い。

 ついでに私のことも見ていくので、いつバレるか気が気じゃなかった。

 トモリさんは自分が注目されていることに全く気がついていない。

 言ったほうがいいかな?でも、知らぬが仏って言うし、気づくまで黙ってたほうがいいかな?

 悩んだけど、とりあえず今は言わないでおくことにした。

 トモリさんならそのうち気がつくと思うから。


 話は素材を売ってから、というトモリさんのご要望に従って、素材を売りにギルドに戻った。

 そこでまあ、いろいろあって、トモリさんはすごい人なんだなって改めて思った。


 ギルドを出ると、人の少ない森に向かった。

 歩きながら話をした。本当は、助けてって言おうと思っていたけれど、前日に知り合ったばかりの人からそんなことを言われても困るだろうと思って、魔法の練習を見てもらうことにした。

 こんなふうに自由に出歩ける日は二度と来ないだろうし、もしかしたらもう二度と外には出られないかもしれないと思ったけれど、性急に話を進めて距離を取られても困るから、我慢した。

 もし二度と外に出られなくなっても、トモリさんならもしかしたら助けに来てくれるかもしれないと淡い期待を抱いた。




 夕方、トモリさんと別れて家へ戻った。

 私への扱いを思うと戻りたくなかったけれど、他に行く宛はないから仕方なく戻った。

 予想通り、アナとお父様から、こっぴどく怒られた。お仕置きと称して叩かれたり、殴られたり、蹴られたりした。

 どれも傷が残るようなものじゃなかったけれど、痛いことに変わりはない。

 私は数日、痛みで苦しんだ。



 この2日後に礼拝に外に出たときは、体中痛くてたまらなかった。

 トモリさんの前では平気な顔をしていたけれど、本当はすぐにでも横になって休みたかった。

 痛みで注意力散漫になっていたせいか、いつもより喋り過ぎてしまった。

 そのせいで、夜にまたアナから折檻されて、私は数日寝込むことになった。



◇◆◇◆◇◆◇



 次に外に出たのは、一ヶ月後だった。

 こんなに外に出なかったのは初めてだった。

 真っ暗な部屋の中で、特にすることもなく過ごした。入浴のために部屋から出ることがなかったら、気が狂っていたかもしれなかった。


 その日、領主邸に泊まったトモリさんは、夜中にこっそり私の部屋にやってきた。

 悪魔と契約していたり、転移魔法や隠蔽魔法が使えたり、念話で話せることも驚いたけれど、何よりも驚いたのは、私を心配して来てくれたことだった。

 念話で少し話をすると、トモリさんは行ってしまった。

 もっと話したかったのに、残念に思った。



◇◆◇◆◇◆◇



 それから数日後、私を連れ出しに来てくれたトモリさんに連れられて、私は地下室を出た。

 トモリさんからアナのしたことを聞いたときは、驚いたし、ショックだったけれど、1番はやっぱりそうだったのかという思いだった。


 アナの考えには、随分前から気がついていた。

 でも、それでもいいと思っていた。

 蔑まれ、利用されても、アナが幸せになれるならそれでいい。

 私はお父様の跡を継ぐ気はなかったから、アナが継ぎたいのならそうすればいいと思っていた。

 でも、次第に扱いが酷くなっていって、もう限界だとも思っていた。


 だから、私はトモリさんについていくことにした。

 トモリさんは、危険を冒して私を助けてくれた。

 それに、私の面倒も見てくれるという。

 ここまでしてもらって、断る理由なんてない。


 アナのために生きるのはもうお終い。これからは、自分のために生きよう。

 今は弱い私だけど、これから強くなって、

 そしていつか、トモリさんに恩を返せたらいいな。



閑話は次が最後です。

その次からは、いよいよ新章スタートとなります。



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