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閑話14 とある冒険者パーティーの出会い

今回は、ミラ視点でお送りします。


 私はミラ。カージアの街を拠点に冒険者をやっている。

 パーティーメンバーは、私を入れて4人。

 実力も人柄も良い、頼れるリーダーで騎士ナイトのダニー。

 無口で無愛想だけど、細やかな気遣いができる剣聖ソードマスターのザック。

 プライドが高くて文句が多いけど、誰よりも私たちのことを考えてくれている聖者クレリックのグレイス。

 そして私はパーティーの火力役で魔術師ソーサラー


 私たちは、かれこれ10年以上もカージアの街を拠点に冒険者をやってきた。

 たまに王都に行くことはあったけど、何年もカージアの街から離れたことはなかった。

 でも、今、私たちはカージアの街を離れる決意をし、王都を拠点に活動している。


 なぜ、カージアの街を離れることにしたのかって?

 始まりは、ある少女との出会いから。



◇◆◇◆◇◆◇



 それは、5月半ばのこと。

 王都でひと稼ぎして、装備とかを新しくした私たちは、王都からカージアの街への道中にある街、スウィルシアの街にいた。

 せっかくだし、少し迷宮を攻略してから帰ろうという話になり、半月ほど滞在していたのだ。


 いつものように迷宮に潜り、素材を集めて、夕方にギルドに売りに行くと、ギルド職員に一通の手紙を渡された。

 差出人は、カージアの街のギルマス。

 内容は、「緊急の指名依頼があるから、可及的速やかに帰還願う」というもの。

 急なことだったけど、ギルマスからの指名依頼。しかも、わざわざ他の街にいる私たちを呼び戻さなければならないほど、難易度が高い。

 私たちは、すぐに準備をし、スウィルシアの街を発った。



◇◆◇◆◇◆◇



 スウィルシアの街からカージアの街までは、馬車で3日。

 乗り合い馬車の他に商人も同行するため、それなりの人数になる。全部で20人弱くらい。

 その中で、まともな冒険者は私たちだけだ。

 もともとこのあたりは初心者向けの迷宮が多く、高レベルの冒険者はあまりいない。

 特に、オーク迷宮以外は迷宮の難易度が低いカージアの街へ行く冒険者は、ほとんどいないのだ。


 そういうわけで、私たちが護衛の役割をするのは当然の流れだった。

 移動する人たちと、私たちの間で暗黙の了解が為され、有事の際は私たちが戦い、他の人たちは私たちに従うということになった。




 1日目は、特に問題なく過ぎた。


 問題は、2日目の午後に起こった。

 街道横の森から、オークの群れが襲ってきた。

 通常のノーマルオークの他に、本来森にいるはずがないオークソードマンやオークウォーリアーがいた。

 明らかに異常事態だ。


 ダニーとザックが前に出てオークを倒し、グレイスが二人の援護をする。

 火属性魔法しか使えない私は森の中での戦闘に向いていないため、他の人たちの避難誘導をする。

 オークの数が多くダニーたちだけでは守りきれないため、馬車と荷を捨てて森に逃げるよう指示をした。


 多くの人は素直に従ってくれたけど、商人の一人がなかなか納得してくれなかった。

 説得を試みても応じてくれなかったので、私は諦めて、先に森に避難した人たちを追った。私たちはあの商人に雇われて護衛をしているわけじゃない。あの商人の言うことを聞く必要も、命を護らなければならない理由もない。

 置いていかれた商人は、しばらくその場で文句を言っていたけど、オークが迫ってくると必至の形相で私を追って走り出した。

 なんだかんだ言っても、命は大事らしい。


 オークの相手を3人に任せ、私は避難者と一緒に森の中の洞窟に向かった。

 前に見つけた洞窟だ。

 街道から少し離れているけど、雨風を凌げる構造をしているから、避難場所としては問題ないはず。

 ダニーたちが倒したオークの間を縫って、森の奥へ走る。

 街道が見えなくなる前に一度振り返ると、ちょうどオークウォーリアーに馬車が破壊されるところだった。

 さらに少しすると、馬の断末魔の悲鳴が聞こえた。


 避難者と洞窟で待っていると、ダニーたちがやってきた。

 私たちが逃げた方向から、この洞窟だとわかったらしい。

 戦闘の顛末を聞くと、オークは全て倒したけど馬車と馬は全滅らしい。

 となると、歩いてカージアの街に向かうしかないか。幸い歩くのに支障があるような人はいない。

 今日はこのままここで一泊して、明日の朝早くに出発すれば、街の近くまで行くことができるだろう。

 街の近くまで行ったら、足の早い人に頼んで、街に助けを求めに行ってもらえばいい。

 全員に方針を話し、同意を得ると、私はグレイスと一緒に、ダニーたちが積荷から回収してきた携帯食料を配って回った。

 ダニーとザックは、外に罠を仕掛けに行った。



◇◆◇◆◇◆◇



 スウィルシアの街を出発してから3日目。

 朝早くに出発する予定だったけど、昨日襲ってきた魔物が、異常だったと知った人たちからの猛抗議により、もう一泊していくことになった。

 食料はまだあるから、もう一泊くらいならいいだろう。

 そう思って、私もダニーたちも、提案を受け入れた。


 その日の夕方。

 仕掛けた罠が作動し、カラカラと音が鳴った。鳴ったのが1回だけだったから、侵入したのは1体もしくは1人。

 私はザックと一緒に洞窟の外に出た。

 警戒を最大にして周囲を探る。幸い、侵入者はすぐに見つかった。

 侵入者は、この辺りでは珍しい、黒髪黒瞳の10代半ばの少女だった。

 見たところ、敵のようには見えない。でも、この場所と少女があまりにも似つかわしくない。

 私とザックは、警戒を強めて武器を構えた。


「誰だ!?」


 ザックの誰何に、少女はギルドカードを見せた。

 カードの色は緑。つまり、Cランクということ。少女の年齢では珍しい高ランクだけど、全くいないわけじゃない。

 それに、このタイミング。もしかして……


「冒険者か。俺たちを探しに来てくれたのか?」


 ザックも同じことを考えたらしかった。

 ザックの問いに、少女は頷いた。

 私は素早くザックと視線を交わし、武器を降ろした。といっても、すぐに構えられるように完全に力を抜くことはしない。

 味方である可能性の方が高いけど、まだそうと決まったわけじゃない。

 もう少し近づいて様子を見ようと、ザックと一緒に少女に向けて一歩を踏み出した。


 その時、突然、地面が揺れた。


「な、なんだ?」

「何があったの?」


 突然の揺れに、転びそうになるのをぐっと堪える。

 慌てて洞窟から離れて見回すと、ゴブリンキングとオークキングの姿が見えた。


「ゴブリンキングとオークキングだと?迷宮の最下層にいるような魔物がなぜこんなところに……」

「こんなの、ありえないわ!」


 余程驚いているのか、珍しくザックが驚きを露わにした。

 さっきまでは、舐められないようにとザックなりに頑張って話をしていたけど、今回のは思わず漏れてしまったという感じだ。

 ザックの珍しい姿を見て、私は少し落ち着きを取り戻した。

 

「おい!何があった!」

「キングが2体!?」


 異変に気づいたダニーとグレイスが洞窟から出て来た。

 二人はゴブリンキングとオークキングを見ると、素早く対応した。

 連携するのに、言葉を交わす必要はない。

 私たちはお互いの役目を全うすることにした。



 冒険者の少女の助太刀もあり、私たちは無事ゴブリンキングとオークキングを倒すことができた。

 ただ、オークキングを茹で豚にしようと思ったら火加減を間違えて焼豚になってしまった。焼豚より茹で豚の方が柔らかくて美味しそうだったのに、残念だなぁ。



◇◆◇◆◇◆◇



 ――これが、私たちとトモリちゃんの出会い。


 トモリちゃんは、すごい子だった。

 飛行魔法が使えて、魔力が多くて、上級魔法に下級魔法で対抗しちゃうくらい魔法が強い。しかも、オークキングを一撃で倒していた。

 私もやろうと思えばオークキングを一撃で倒せるけど、それはダニーたちが詠唱の時間を稼いでくれるからできること。私ひとりじゃできない。

 でも、トモリちゃんならひとりでできる。

 無詠唱なのは話せないから当然なのかもしれないけど、私にはできないから憧れる。

 私もいつか、無詠唱で魔法をぶっ放せるようになりたいと思う。



◇◆◇◆◇◆◇



 トモリちゃんと出会った洞窟で、トモリちゃんと別れの挨拶を交わした私たちがカージアの街に着いたとき、街は物々しい雰囲気に包まれていた。

 私たちは近くの人に話を聞いた。


 曰く、領主の娘を拐った誘拐犯が逃亡中らしく、領主が血眼になって探している、と。


 トモリちゃんの名前は出てなかったけど、冒険者であることと女性であることは出回っていた。

 容姿も黒髪黒瞳だという情報はあったけど、年齢までは明かされてなかった。

 領主としても、まさか16歳の少女に娘を拐われたとは言えなかったんだろうな。


 結局、領主は街中の兵士を総動員してトモリちゃんとアレナリアさんを探したけど見つからず、大規模な捜索は3日でお開きになった。

 一番大きな理由は、もう街にいないという結論に至ったからだ。

 その結論に至るのに3日もかかったのは、トモリちゃんが門を封鎖されていた街からこっそり抜け出たから。

 どうやってかは知らないけど、厳しい検問を敷いていたのに、外に出たはずはないと思っていたみたい。

 領主が住民の家も一件一件隅々まで捜索させたせいで、住民の怒りが募り、破裂寸前になったため、仕方なくトモリちゃんたちが街にいないことを認め捜索を打ち切った、ということらしい。


 ギルマス――イーサンから事の経緯を聞いていた私たちは、領主に完全に見切りをつけた。

 そして、イーサンがギルマスをクビになると、私たちはカージアの街から去った。

 4人で借りていた借り屋を引き払い、引っ越しの準備をして、王都に向けて出発した。



◇◆◇◆◇◆◇



 そして今、私たちは王都アズィシアを拠点に活動している。

 王都の迷宮は正直経験値の入りは悪い。人が多くて迷宮が混雑することもしばしば。だから今までは王都を拠点にしたいとは思わなかった。


 でも、今は違う。

 王都の冒険者は、街迷宮のことを知らない。

 だから、街迷宮は空いている。

 しかも、一つの迷宮に、この街のすべての迷宮の魔物が出るのだ。

 周回効率も今までよりも良くなる。


 まだミニマムアント迷宮みたいな小さな迷宮を見つけられてないから街迷宮には行けない。

 王都に来てから早半月。時間の許す限り探しているけどまだ見つからない。

 本当にあるのか不安になってくるけど、この間イーサンから、フィルリアの街迷宮を見つけたと手紙があったから、王都にもきっとあると信じて探している。


 早く街迷宮に行って、経験値を稼いでレベルを上げて、たくさんお金を稼いで豪遊するために!

 頑張るゾー!

 おー!



 

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