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閑話13 ギルマスたちの再出発

今回はイーサン視点でお送りします。


 私はカージアの街の冒険者ギルドのギルドマスター、イーサンだ。

 なぜ「元」というのか。それは、つい先日ギルドマスターをクビになったからだ。

 理由は、領主の命令に従わなかったこと。

 まあ、領主への命令違反でクビになったが、それ以外の罰はなかったからマシなのだろう。財産を没収されたり、体罰を受けることはなかったからな。

 領主も、命令の内容はあまりおおっぴらにしたくないのだろう。アレナリアお嬢様とトモリさんのことは、今や領主一家の地雷、触れてはならないことになっている。


 新しいギルドマスターは、領主の息が掛かった者がなった。領主の手の者だが、実務能力は充分にある。私がどうにもできなかったマンドラゴラ迷宮の収支改善もしてくれるだろう。

 ギルドマスターをクビになったのは悲しいが、長らく頭を抱えていた問題から解放されたのは嬉しい。


 新しいギルマスは、きっと財政報告書を見て悲鳴を上げるに違いない。

 元々マンドラゴラ迷宮のせいで赤字になっていたのに、最近はトモリさんの持ち込んだ魔石や素材の支払いで、さらに赤字が膨らんでいたからな。

 どうせクビになるだろうと思って、別れ際に一気に精算したから、今頃は通常運営にも支障を来すほど資金がカツカツになっているはずだ。


 さらに、今回の一件で、カージアの街唯一の高ランクパーティーのダニーたちが街を去った。4人はしばらく旅に出るらしい。

 これも領主の行いの結果だ。自業自得というやつだな。

 高ランクパーティーが去ったせいで、高値で売れる魔石や素材が当分手に入らなくなった。

 しばらくはトモリさんが売ってくれた在庫があるからなんとかなるだろうが、在庫がなくなってからは大変だろうな。

 まあ、私はもう関係ないし、頑張ってくれとしか言いようが無い。


 ちなみに、ギルドの運営が厳しくなったら一番最初に金を出さなければならないのは領主だ。

 ギルドは公営。領主の直轄となっている。

 今の財政状況なら、領主も相当身を切らなければならないだろうな。

 私に責任が全くないわけではないが、私はすでにクビになっていて責任を負う立場にないし、これは領主への一種の仕返しでもある。

 せいぜい足掻いてみるがいいさ。



◇◆◇◆◇◆◇



 今私は、ハティとアニタの3人で、フィルリアの街の迷宮をコンプリートするべく励んでいる。


 ちなみに、ハティもギルマスをクビになった。

 フィルリアの街には領主がいない。そのため、街長が街の統治を行っているのだが、この街長の任命権はカージアの街の領主にある。つまり、街長は領主の手先なのだ。

 ハティは、私が領主と戦っていたあのとき、トモリさんと一緒にいるところを見られていた。領主の部下が確認した際、否定しなかったらクビになったと笑って言っていた。

 ちょうど辞めようと考え始めていたからちょうどいいきっかけになった、と。


 ギルマスを辞めてどうするのかと聞いたら、冒険者に戻るつもりだとハティは言った。

 ギルマスをクビになっても、冒険者登録まで消されたわけじゃない。

 だから、冒険者としてやっていくことは可能だ。

 私も、先日の迷宮攻略で、冒険者に戻りたいと思ってしまった。

 最盛期より衰えてはいるが、オークキングくらいまでなら問題なく倒せる。仲間がいれば、もう少し強い相手とも戦えるだろう。

 私はハティに一緒に冒険者をしたいと申し出て、ちょうど仲間を探していたハティは、二つ返事で承諾した。

 こうして、私たちはサポート役にアニタを加えた3人で、パーティーを組むことになった。




 パーティーを組んだ私たちは、まずフィルリアの街に行き、未発見の迷宮を探した。

 カージアの街の5つの迷宮が、五角形の頂点にあたる場所に存在していたのを参考に、それっぽい場所を探す。

 だが、捜索開始から一週間が経っても、それらしい迷宮は見つけられなかった。

 アニタも受付嬢ネットワークで情報を集めてくれているが(アニタはギルドをクビになっていない)、何の手がかりもない状態が続いている。


「うーん。手詰まりって感じね。どうしようかしら?」


 森の中で昼食を取りながら、ハティが言う。

 それにしても、我ながら「ハティ」と呼ぶのに随分と慣れたものだ。愛称で呼び始めたのはパーティーを組んでから、本人の強い要望によるもので、初めは抵抗があったのだが慣れればどうということもない。


「ホーンラビット迷宮であることはわかっているのだから、ホーンラビットが多い場所を重点的に探していくしかないだろう」

「そうね。はあ……。こんなことなら、トモリちゃんに場所も聞いておくんだったわ」


 ハティが大きく溜息をついた。

 確かに、トモリさんに場所を聞かなかったのは失敗だった。迷宮名がわかっているからなんとかなるだろうと浅はかな考えをしていたのだ。

 ミニマムアント迷宮が落とし穴だったことから、ホーンラビット迷宮も非常にわかりにくい入口をしている可能性は充分に考えられたというのに。

 私もハティの隣で大きく溜息をついた。



◇◆◇◆◇◆◇



 さらに3日、森を歩き回ってようやく、私たちはホーンラビット迷宮を発見した。

 街から3時間近く歩いた森の奥。崖下の岩の密集地帯に、入口はあった。大人がひとり、屈んで入れるくらいの大きさだ。

 ホーンラビット迷宮という看板があったからわかったが、看板がなかったら岩の隙間にしか見えなかっただろう。


 ホーンラビット迷宮は、ホーンラビットしか出ないと聞いていたので、そのまま攻略することにした。

 私とハティの実力なら、問題ないはずだ。

 そして実際に、何の問題もなく攻略は終了した。



◇◆◇◆◇◆◇



 ホーンラビット迷宮を攻略した私たちは、フィルリアの街迷宮を探した。

 街迷宮は、捜索1日目で見つかった。ホーンラビット迷宮とはえらい違いだ。

 こんなに早く見つかったのは、やはり街迷宮の外観のおかげだな。華やかな装飾が太陽の光を反射して煌めいている。森の中からでもすぐにわかった。

 私はハティとよく相談し、私とハティ、それからハティの元パーティーメンバーのハンスの3人で、街迷宮を攻略することにした。

 全員前衛職だが、タフだし大丈夫だろう。



◇◆◇◆◇◆◇



 ハンスにホーンラビット迷宮を攻略させ、街迷宮の攻略に取り掛かり、無事攻略できたのは、街迷宮の発見から半月が過ぎた頃だった。

 全員重症を負うことなく攻略できたのは良かったが、やはり後衛職は必要だと実感した。

 それはハティも同じだったようで、パーティーメンバーを増やそうということになった。

 だが、メンバーを増やそうにも、ここは「始まりの街」。冒険者のレベルは低い。


「メンバーを集めるなら、やっぱり王都かしら」

「そうだな。王都ならレベルの高い冒険者も多いだろう」

「じゃあ、王都に行くということでいいかしら?」

「私は構わないが……」


 メンバー集めのために王都に行くという話になり、私とハティは行くことに決めたが、アニタはどうするのだろう。

 仕事があるから、長期間この街を離れるわけにもいかない。

 そう思って、アニタに目を向けると、彼女はきっぱりと言い切った。


「私も行きます」

「受付嬢の仕事はどうするのだ?」

「辞めます。元々、辞めようかなって思っていたところだったんです。ちょうど良い機会ですし、受付嬢は辞めて、王都で違う仕事を見つけるのも良いかと」


 アニタは苦笑いを浮かべてそう言った。

 いろいろと事情がありそうだが、詮索するつもりはなかったので、一言「そうか」と言うに留めた。

 ハティもアニタの同行に反対しなかった。

 代わりに、ハンスが手を挙げた。


「俺も行く」

「えっ?ハンスも来るの?」


 アニタのときとは違うハティの反応に、ハンスは拗ねるように言う。


「なんだよ。俺が一緒じゃ悪いか?」

「い、いえ、悪いなんてことはないわよ。ただ、ハンスは別に今の仕事に不満があるとか言うわけじゃなさそうだったから、意外に思ったのよ」


 ハティは慌てて否定する。その様子を見て、ハンスはクスリと笑った。


「そんなに慌てなくても、お前を嫌いになったりしねぇから安心しろよ。俺が行くっつったのは、俺も新しい迷宮に行ってみたくなったからだよ。冒険者の血が騒ぐっつうか、まあ、そんなもんだ」

「そう?あなたが来てくれると私は嬉しいけど……」

「私は構わない」

「私も構いません」

「決まりだな」


 ハティに続いて、私とアニタもハンスの同行に同意し、私たちは4人で王都に行くことになった。

 王都までは馬車で半月以上はかかる。途中の街でも迷宮攻略をしたり、メンバーを探してみたりするから、実際に着くのは何ヶ月も後になるだろう。

 私たちは、新たな冒険の始まりに胸を踊らせながら、旅支度に取りかかった。



 スウィルシアの街には、どんな迷宮があるのだろう。今から楽しみだ。



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