12.ぼっち少女の初依頼1
私がよく読んでいた異世界の物語では、冒険者ギルドは早朝に混むことが多かったので、ゆっくり朝食を摂ってから来た。
時刻は朝の8時43分。
予想通り、冒険者ギルドにはほとんど人がおらず、閑散としていた。
私は、カウンターにアニタさんを見つけると向かっていった。
アニタさんも私に気付いたのか、軽く手を上げて挨拶する。
「おはようございます。今日は何のご用でしょうか?」
カウンターにつくと、アニタさんが紙とペンを出しながら聞いてきた。
私は、紙とペンを受け取ると、「依頼を受ける」と書いた。
するとアニタさんは、一度紙を自分の方に向けると、私が書いた文字の下に何かを書きながら話し始めた。
「依頼ですか。この時間ですと、割の良い依頼はすべて受注されてしまっています。Eランクで残っているのは、不人気依頼である薬草の採取くらいですが、どういたしますか?」
遅く来たことによる弊害があったようだ。Eランクだし、それなりに残っていると甘く見ていたのがいけなかった。
でも、所持金が少ない今、少しでも稼いでおきたい。
とりあえず、薬草採取の内容だけでも聞くことにした。
私は、アニタさんから紙を返してもらい、「薬草採取 内容」と書いた。
すると、アニタさんは、また紙を自分の方に向けて、何かを書きながら話す。
「今残っている中で一番良いのは、ポー草の採取ですね。10束で基本料銅貨2枚。品質によって報酬が加算されます。いかがですか?」
ポー草ってなんだろう?疑問に思って首を傾げる。紙はアニタさんが持っているので、文字で伝えられない。
アニタさんは、そんな私を見て、紙を返してくれた。
紙を見ると、私が書いた文字の横に、同じ内容の文字が私のとは違う書き方で書いてあった。もしかして、正しい書き方を教えてくれてる?
それから、紙の下の方には、植物の絵が描いてあった。
「その絵がポー草になります。色は緑色で、1本約30センチくらいの大きさです。10本で1束ですので、全部で100本集めてきてくださいね」
私がポー草のことを聞くことを見越して、絵を描いてくれたらしい。しかも上手だ。
アニタさんは本当にいい人だなぁ。
私が絵を見て感動していると、アニタさんは言った。
「では、受注処理をいたしますので、カードをお願いします」
私は、ギルドカードをアニタさんに渡す。
アニタさんは、私がカードを出している間に、カウンターの下から依頼書を取り出して、カウンターの横に置いてあるコピー機のような機械にセットした。
そして、カードを受け取ると、コピー機の側面についているクレジットカードの読み取り機のような機械に差し込み、コピー機のボタンを押した。
すると、機械の作動音が聞こえた。音が聞こえなくなると、カードが勝手に読み取り機から出てきた。
アニタさんはカードを取って私に返すと、依頼書もコピー機から取り出し、カウンターの下に置いてあるファイルに挟んだ。よく見ると、昨日登録用紙を入れていたのとは違うファイルだった。
「これで受注処理は完了です。ギルドカードは、ステータスと連携していますので、依頼の達成状況は、ステータスの『冒険者』の称号欄から見ることができます。また、常時依頼は対象となる魔物の討伐や素材の入手によって自動的に受注処理されますので、定期的に確認することをおすすめします」
カードがステータスと連携って、予想以上に高性能なカードだと驚いた。
アニタさんは、さらに続ける。
「また、カードには収納魔法が付与されていますので、入手した素材にギルドカードをかざして『収納』と唱えると、素材を収納することができます。収納した素材は、依頼受注と同じ欄から、名称や品質を確認できますので、ご活用ください」
カードに収納魔法。しかも鑑定までしてくれる。本当にすごい高性能なカードだと思った。
そこで、ふと、昨日アニタさんも親方も私が空中からウルフを出したのに驚かなったのは、これのせいじゃないかと思い至った。
冒険者はカードを介して収納魔法を使えるのが一般的な世界なのだ。親方に会った時点ですでに冒険者だった私が収納魔法を使っていても、不思議には思われない。
そこまで考えて、この収納魔法の性能が気になった。
私は、紙に、「収納 制限」と書いてアニタさんに見せた。
「収納の制限ですか?ありますよ。ギルドカードに付与されている収納魔法は、最大容量約10トンです。あ、たくさん入るからといって、何でも入れっぱなしにしてはいけませんよ。幻といわれている『無限収納』と違って、時間経過がありますから」
付与されているのは、アイテムボックスの方の収納魔法のようだ。というか、「無限収納」って幻と言われているのか……。私が持っていることは知られないように気を付けよう。
依頼とギルドカードについて理解した私は、アニタさんにお礼を示して、冒険者ギルドを後にした。
「くれぐれも無理は禁物ですよ!」
ギルドを出るとき、アニタさんが心配してそう言ってきたので、私は、大きく頷いて返した。
アニタさんは本当に良い人だなぁ、ともう何度目かわからないくらい思った。