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115.ぼっち少女と領主一家7


隠形ハイドフォーム


 部屋から出る前に、アレナリアにも姿を消す魔法をかける。

 見つかる心配がなくなったところで、私たちは邸の外に転移した。

 転移先は、ここ数日陣取っていた屋根の上。


「わっ!」

『危ない!』


 いきなり屋根の上に出たせいで驚いたアレナリアが、バランスを崩して落ちそうになる。

 慌てて手を掴んだおかげでなんとかなったけど、アレナリアの声に反応して、近くにいた何人かがこっちを見ている。

 姿は見えてないはずだけど、アレナリアの例がある。

 ここは用心して場所を変えたほうがいいな。

 私は再度転移魔法を使った。



◇◆◇◆◇◆◇



「ここは……?」

『オーク迷宮のボス部屋の前。ここなら滅多に人は来ないから、隠れるにはちょうどいい』

「オーク迷宮のボス部屋……」


 アレナリアは珍しがってキョロキョロと周りを見回している。

 とりあえず転移で連れ出したはいいけど、このあとどうしよう。

 一旦ギルマスのところに行く予定だけど、それは午後の話。今はまだお昼前だ。どうやって時間を潰そうかな。

 アレナリアとの念話にだいぶ慣れてきたし、話でもしてようかな。

 これからのこととか、話さないといけないことはたくさんあるし。

 私が暇潰し計画を立てたところで、アレナリアが不安げに聞いてきた。


「あの、これからどうするんでしょうか?何か考えがあるなら、聞かせていただきたいんですが……」

『ちょうど良かった。今からそれを話し合おうと思ってたところ。あ、座って』


 ここは迷宮の中だけど、ボス部屋の前。敵は来ない。

 私は椅子と机を創って並べた。ついでに、少し早いけどお昼用にサンドイッチやジュースを出した。

 アレナリアはいきなり出てきた椅子と机に戸惑いながらも腰掛け、私も続いて腰掛けた。


「……これ、どこから出したんですか?」

『魔法』

「……そうですか」


 私は机の上のサンドイッチに手を伸ばした。本当は話しながらゆっくり食べるつもりだったんだけど、美味しそうなサンドイッチを見ていたら食べたくなってしまった。

 念話なら、食べながらでも話せるし、いいよね。

 サンドイッチを食べる私を、アレナリアはじっと見ている。


『アレナリアも食べて』

「あ、はい。お言葉に甘えて、いただきます」


 私が勧めると、アレナリアもサンドイッチを食べ始めた。

 私は念話で話を続ける。


『話を戻すけど、アレナリアは、これからどうしたい?』

『どう、とは?』


 食事中だからか、アレナリアも念話で答えた。


『家に戻って、家族に待遇改善を訴えかけるか、私と一緒に旅に出るか、どこかの場所に移住するか。アレナリアは自由に暮らしたいって言ってたけど、具体的にどうしたいのかなって』

『私は…………』


 アレナリアはそのまましばらく黙ってしまった。

 辺りには、二人がサンドイッチを食べる音しか聞こえない。

 すぐに答えが出るものでもないので、私は待つことにした。






 アレナリアが口を開いたのは、サンドイッチを食べ終わって、デザートに出したフルーツも食べ終わったあとだった。


「どうするか決める前に、さっき仰ってた本当のことを教えてください」


 あ。そういえば、まだ話してなかったっけ。

 うーん。言葉で説明するのは難しいんだけど、やるだけやってみるかな。

 私は頭の中で説明事項を整理してから、話し始めた。


『最初に言っておくけど、これはあくまでも私の考え。根拠はあるけど、100%真実だとは限らない。それでもいい?』


 いろいろ確認はしてるけど、本人たちに直接聞いたわけじゃないからね。

 私はアレナリアが頷いたのを確認してから、話を続けた。


『アレナリア、落ち着いて聞いてね。結論からいうと、アレナリアはずっと騙されていたんだ』

「騙されていた?誰に?」

『一番は、アドリアナ。あと、ご両親も』


 アレナリアの顔が驚愕に染まる。

 驚きながらも目は私をじっと見つめている。私が嘘をついてないか見てるんだろう。

 アレナリアが口を開く様子がないので、私は話を先に進めることにした。


『私が最初におかしいと思ったきっかけは、アドリアナだった。何回か会っているうちに、アドリアナの態度が嘘っぽく感じられるようになっていった』


 最初は普通に良い子だと思ってたんだけど、いつからか何か変だと思うようになったんだよね。

 本人はうまく誤魔化せてると思っていて油断したのか、それとも取り繕う気がなくなったのか。

 どちらにしても、一度芽生えた不信感は強まっていくばかりだった。


『決定的だったのは、この間、私が領主邸に行った時。アレナリアが夕食に同席しない理由が、アレルギーがあるからだって言われて、おかしいなって思った。だって、一緒に市場を見て回ったとき、アレナリアは普通に食事してたでしょう?だからアレルギーなんて嘘だなって思ったの』


 もしアレナリアと食事をしたことがなくても、気づいていたかな?

 ふと疑問に思ったけど、もしものことを気にしてもしょうがない。

 気を取り直して、話の続きをすることにした。


『その後、アレナリアを探し回って、地下室で見つけて、話を聞いて、疑いは確信に変わった。念の為アドリアナのスキルも確認したから間違いないと思う』

「アナのスキル?」

『そう。「強奪」のスキル。スキル効果は、自分より格下の相手のステータス及びスキルを奪い、自分のものとすること。格上の相手のステータスやスキルは奪えないから、アドリアナはずっとアレナリアが自分より低レベルでいるように仕向けてたんだと思う。経験値も奪えるみたいだから、アレナリアのステータスやレベルが低いのはそのせいだと思う』


 いくらスキルの特性とはいえ、実の妹相手にそんなことをするなんて、ひどい姉だと思う。

 でも、アドリアナがしたのはそれだけじゃない。


『それから、病弱だったのは、病気になりやすい魔法を掛けられていたからで、学園での成績が悪かったのも、アドリアナが間違ったことを教えていたからだと思う』

「そんな……!だって、アナはいつも親身になって教えてくれてたんですよ!」

『それは、アレナリアに怪しまれないようにするためにしてたことだよ。自分で困らせて、救いの手を差し伸べ、信頼を得る。自作自演ってやつだね』


 私の説明を聞いて、アレナリアが絶句する。

 これ以上言うのは酷な気もしたけど、アレナリアには知る権利があるし、知っておいたほうがいいと思うから、続けることにした。


『領主さんたちも、アドリアナがやってることを知ってて、手を貸していたみたいだね。でなきゃ、こんなに長い間、続けることなんてできないもの。本人に確認しないと本当のことはわからないけど、私の言ったこと、あんまり間違ってはいないと思うよ。これで私の話は終わり』


 アレナリアを見ると、青い顔をして俯いていた。

 私はできるだけ優しい口調で問い掛けた。


『アレナリアは、どうしたい?』



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