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113.ぼっち少女と領主一家5


 翌朝。

 私は朝食の時間の10分前に起きた。

 昨日は寝るのが遅かったから、本当はもう少し寝ていたかったけど、領主との約束だ。無視はできない。

 私は二度寝をしたい気持ちを堪えて、ベッドから出て支度をした。


 食堂に行くと、すでに領主と奥さん、それからアドリアナが席に座っていた。席順は昨日と同じ。

 それぞれの席の前にはスプーンやフォーク、飲み物が置かれている。

 アドリアナの横の席も、同じように準備されていた。昨日と同じなら、多分あそこが私の席。


 ……アレナリアの姿と席が見当たらないのも昨日と同じだ。

 この人たちにとって、アレナリアは何なんだろう?少なくとも、普通の家族の在り方とは違っている。

 そういえば、アレナリアから両親の話は聞かなかったな。私もアドリアナの話が気になって、眼中になかった。

 でもまあ、三人とも、アレナリアの部屋のことくらい知ってるだろう。あんなことをして、心は傷まないのかな?

聞いてみたいけど、今は無理だ。今聞いても警戒されるだけで、何も解決できない。もう少し調べて、アレナリアを助ける準備が整ったらにしよう。




 私が席に着くと、すぐに朝食が運ばれてきた。

 食事をしながら、アドリアナたち3人が、はいかいいえで答えられる質問をしてくる。

 食事中に筆談をするのもどうかと思うので、仕方なく首を縦に横に振って質問に答えていたけど、中には答えづらい質問や、答えを誘導されているようなものもあった。

 誘導に引っかからないように頑張ったけど、すべてうまく行ったわけじゃない。自分でもこれはまずいと思うことが何度かあった。


 これは、昨日アレナリアの部屋に忍び込んだことに気付かれているか、疑われているな。

 どうやってかはわからないけど、昨夜の私の行動は知られてしまっているようだ。

 それでも私は、何も知らないふうを装って、際どい内容の質問攻めを耐えた。

 まるで綱渡りをしているかのような気分で、食事が終わって領主邸を出るまで、生きた心地がしなかった。


 もともとこういう腹芸は苦手なので、誤魔化しきれたとは思っていない。でも、私が何も言わなかったから、向こうも決定打に欠ける状況だと思う。

 捜索中はずっと「隠形ハイドフォーム」を使っていたから、姿を見られているということはないと思う。

 まあ、アレナリアみたいに特殊な能力があると見えるみたいだけど、そんな人がそうそういるとは思えないから大丈夫だと思う。

 でもまあ、しばらくは用心に越したことはないかな。

 そんなことを考えながら、私は街の外に向かって歩き出した。



◇◆◇◆◇◆◇



 領主邸を出てから30分後。

 私は森の中をカージアの街迷宮に向かって走っていた。

 走るといっても、普通に走っているわけじゃない。練習を兼ねて、「身体強化フィジカルブースト」を使っている。

 倍率は1.2倍。いつもより少し早く走れて、少し息が切れにくい程度のものだから、長時間使っていてもそんなにつらくない。


 走り疲れて歩いているときは、「探索サーチ」を使って周囲を確認する。

 木々に隠れて私からは見えないけど、数人がずっとつけてきていた。

 つけられているのに気づいたのは、街を出る前。

 念の為にと調べてみたら、物陰からこちらを窺っている怪しい人たちがいた。

 街中だと勘違いという可能性もあるから、今日は普通に街に出て、街道を歩いた。歩きながら調べると、同じ人たちがついてきていた。

 これはもう、尾行されているとみて間違いないね。

 しばらくはこういうことがあるだろうなぁとは思っていたけど、まさか本当になるとは。


 下手に撒くと尾行を増やされたり、街中でもずっと尾行されたりするかもしれないから、気づいていないフリをすることにした。

 それでも、ずっとついて来られると魔法とか黒魔術があまり使えなくて不便なので、自然に撒くことにした。

 その方法として考えたのが、特定の人しか入れないカージアの街迷宮に行くことだった。

 領主なら街迷宮のことを知っているから、尾行の人から報告されても迷宮を攻略しているとすぐにわかるはずだ。

 昨日も攻略してたし、今日も攻略に行ってもおかしくはない。

 そして、迷宮に入れば姿が消えても不審がられない。

 我ながら完璧な計画!


『…………』


 ディーネから呆れた気配が伝わってきたような気がしたけど、気のせいだと思って、私はカージアの街迷宮に向かって走っていった。



◇◆◇◆◇◆◇



 迷宮に入ると、すぐに「隠形ハイドフォーム」を発動し、街に転移した。

 転移しても「隠形ハイドフォーム」は維持したままにする。どこに見張りの人がいるかわからないから、迂闊な真似は控えないとね。


 街に転移した私は、冒険者ギルドに向かった。

 人にぶつからないよう、飛行魔法を使って空からギルドに向かい、ちょうどギルドに入ろうとしている人と一緒にギルドに入った。

 そして、「探索サーチ」でギルマスか中にいることを確認すると、受付を通さず、直接ギルマスの部屋まで行った。


 ドアをノックしようとしたところで、ふと気づいた。

 ノックするのはいいけど、どうやって私だってことを伝えよう?

 さすがにギルマスにまで念話が使えることを明かすつもりはない。そんなことをしたら今よりもっと面倒なことになる。

 ただでさえ、街迷宮の件で目をつけられているのに、これ以上は御免だ。

 そうなると、やっぱり、出てきてくれるまでひたすらノックを続けるしかないよね。

 私は心を決めてノックした。ギルマスが騒ぐことを考えて、念の為防音結界も張っておいた。


 コンコン。


「誰だ?」


 ギルマスの誰何の声がする。答えられないのでもう一度ノックする。


 コンコン。


「誰だ?」


 コンコン。


「誰だ?名を名乗れ」


 コンコン。


「だから、名乗れと言っているだろう」


 だんだん怒り口調になってきたけど、辛抱強くノックを続ける。


 コンコン。コンコン。コンコンコン。


「いたずらか?なら早々に立ち去れ。今ならまだ見逃そう」


 いたずらだと思われてしまったようだ。でも、ここで立ち去るわけにもいかないので、ノックを続ける。

 ……まあ、もうノックといっていいのかわからないけどね。


 コンコンコンコンコンコンコンコン…………


「ああ!もう!一体誰だ!?」


 ギルマスが出るまでノックを続けた結果、かなり怒らせてしまったけど、扉は無事に開いた。

 私は出てきたギルマスに、用意していた紙を渡した。私の手から離れた紙は「隠形ハイドフォーム」の効果をなくし、ギルマスの手に現れた。


「な、なんだ?いきなり紙が…………ん?『トモリです。入れてください』?って、トモリさんなのか!?」


 紙に書かれた文字を読んだギルマスは、驚いて周囲を見回す。でも、「隠形ハイドフォーム」を維持したままの私の姿を見つけられず、不審そうな目をした。

 これ、私がいるって信じてないな。

 仕方なく新しい紙に、事情があって姿を見えなくしていることと、内密で話があることを書いて渡した。


「……わかった。入ってくれ」


 ギルマスはまだ半信半疑といった様子だったけど、私を中に入れてくれた。



◇◆◇◆◇◆◇



 最初に一悶着あったけど、ギルマスとの話は満足の行くものだった。

 私がギルマスに聞いたのは、領主一家のこと。

 領主や奥さんの人となりはもちろん、アレナリアたちが通っていた学園や、そこでの二人の評判など、ギルマスが知っていて教えられる範囲で教えてもらった。


 予想通りの話もあったし、意外な話もあった。

 参考になる話も多かったけど、どうでもいい話もあった。

 私がこの世界のことを知らなさ過ぎて、話が脱線を繰り返し、もとの話題に戻るのに一時間以上かかったこともあった。

 それでもギルマスは、私の疑問にほとんど答えてくれた。

 おかげで多くのことを知ることができた。




 私が聞き役に徹していたので、ギルマスはずっと話を続けることになった。

 お昼ごはんを食べてもしばらく話が続き、終わったときにはもう夕暮れになっていた。


 私はギルマスにお礼を言うと、再び「隠形ハイドフォーム」を発動し、カージアの街迷宮に転移で戻った。

 そして、迷宮の外で私が出てくるのを待っていた尾行人たちに気づかないフリをしたまま、「身体強化フィジカルブースト」を使って走って帰った。

 こうやって少しずつ身体を慣らして行けば、「身体強化フィジカルブースト」を使っても筋肉痛になることはないだろう。


 街に戻った私は、まっすぐ宿に帰り、食事と入浴を済ませ、部屋に戻った。

 そして、ディーネと明日のことを話し合い、充分計画を煮詰めたところで、布団に入った。


 ……明日はうまく行きますように。


 そう願って、眠りについた。



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