112.ぼっち少女と領主一家4
『私は、呪われているのです』
『呪い?』
『はい』
どんな身の上話が始まるのかと思っていたら、いきなり呪われていると言われ、私は面食らった。予想外の内容だ。
でも、アレナリアが嘘をついているようには見えない。
私はアレナリアのステータスを鑑定してみた。
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アレナリア・トゥ・オネインザ
【種族】人族
【性別】女性
【年齢】15
【職業】魔法使い
【レベル】3
【体力】98/98
【魔力】121/121
【筋力】11
【防御】11
【命中】12
【回避】13
【知力】15
【精神力】21
【速度】11
【運】10
【経験値】62/308
【魔法属性】水
【スキル】水属性魔法Ⅰ
【異能】神眼
神眼
【発動】任意
【説明】使用者の望んだあらゆるものを知覚することができる。
【使用方法】スキル名を唱える。
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アレナリアのステータスを隈なく調べてみたけど、呪いの状態異常はなかった。
ちなみに、ステータスの数値が魔力以外軒並み2桁で、私と比べるとかなり低い。でも、私は標準的なステータスを知らないから、それが普通なのかおかしいのか判断できないので特に気にしないことにした。
『トモリさん、鑑定系の能力も持っていらっしゃるんですね。今私のステータスを見ていたでしょう?』
『ごめん』
『いえ、いいんです。見られて困るようなものはありませんから』
勝手にステータスを覗いたことを言い当てられた。さっきからいろいろと見破られているのは、アレナリアの異能の力なのかな。
あらゆるものを知覚できる異能。たぶん、何かしらの制限とかはあるんだと思うけど、アレナリアの様子を見る限り、便利な能力であることは確かだ。
『呪いって、どんな?』
ステータスを見てもわからなかったので、直接聞くことにした。
アレナリアは少し悩む素振りをしたあと、一気に話し始めた。
『それが、私にも正確にはわからないんです。でも、私は確かに呪われているんです。私、子供の頃から何をやってもうまくいかないんです。ステータスも同年代に比べて全然伸びなくて。アナは……アドリアナは、学園での成績も良かったし、ステータスの伸びも早くて、レベルだってもう10を超えてて、数値だって私の何倍も高いんです。周りから天才だって言われてるんです。同じ双子なのにこんなに違うってことは、私が呪われているとしか考えられないんです!』
なるほど。つまり、アレナリアは、他の子より出来が悪くて成長が遅いと。
でも、成長が遅いのはともかく、出来が悪いというのは違うかな?前に魔法を教えてほしいって頼んできてたし、向上心はあるよね。物覚えも悪くないように感じたし。
私が何か言う前に、アレナリアは言葉を続けた。
『あ、その、別に努力してないわけじゃないんです。課題も、テスト勉強も、ちゃんとやってたんです。でも、いざそのときになってみると、課題の内容が違ってたり、テスト範囲が違ってたり、覚えたことが間違ってたりしたんです。努力が空回りして、結局成績はいつも最下位で、学園を卒業できたのだって、アナがなんとかしてくれたからで……』
アレナリアの念話の声は、だんだん小さくなっていく。よく見ると、目にうっすらと涙が浮かんているのが見えた。
泣かせるつもりはなかったんだけど、どうしよう?
こういうとき、上手い言葉をかけて慰めるなんて高等技術、私にはできない。
かと言って、このまま何もしないで見ていることはできない。
とりあえず、話題を変えれば泣き止んでくれるかな?
『えっと……二人は、仲良し、なの?』
…………。
我ながら、微妙な話を選んでしまったと思う。アレナリアとアドリアナは双子だし、仲良しなのか聞くことに意味があるかな?
アレナリアの答えがなかなか返って来ないことも合わさって、私はどんどん不安になっていった。
それでも、他に話題が思い浮かばなかったので、アレナリアの答えを黙って待った。
『……仲が良い、んでしょうか?』
5分以上は待ったけど、アレナリアから答えが返ってきた。涙も止まっている。
泣き止んでもらう、という目的は達成できたみたいだ。
でも、なんで疑問系?
『仲、良くないの?』
『どうなんでしょう?悪くないとは思うんですが、その、私はいつもアナに頼りっぱなしなんです。同い年の双子の姉妹というよりは、年の離れた姉妹、といった感じなんです』
『そんなに頼ってるの?』
『はい。私、実は昔から病弱で、すぐに体調を崩すんです。アナは、そんな私を看病してくれて、学園を休んだら課題や勉強を教えてくれたりしたんです。魔術の実習のときだって、私のことを気遣ってくれて、すぐに休ませてくれたりとかしたんですよ。妹思いのいい姉だと思いませんか?』
アレナリアが心から感謝しているというふうに話をする。その話を聞いて、私はふと気になったことがあった。
『アレナリア。その、課題の内容とか、テスト範囲を、アレナリアに教えたのって、アドリアナ?』
『ええ、そうですよ。私、テスト前はテストが近いからって変に気合が入ってしまって、範囲の発表の前に体調を崩してしまうんです。だから、アナが範囲を教えてくれてました。勉強も、私が教えてって言ったら教えてくれて。アナだって自分の勉強があるのに、私のために教えてくれたんですよ』
やっぱり、アレナリアに教えてたのはアドリアナか。
じゃあ次。
『体調は、よく崩してた?』
『うーん、そうですね……。普段からそれなりに崩してはいましたけど、特にひどかったのは、テストや試験の前とか、修学旅行や泊りがけの実習みたいな大きな行事の前とかですね。何日も寝込んで、楽しみにしてた修学旅行も、宿泊実習も、少ししか参加できなかったんです。テストや試験も、アナが追試を受けられるように先生に掛け合ってくれなければ、早々に退学になってましたよ』
ふむふむ。大事な予定の前には決まって体調を崩していた、と。
それじゃあ、あとは……
『体調を崩す前に、何か決まった行動とか、食べたりとか、した?』
『えー、決まった行動とか、飲食とか、ですか?思い当たることはありませんけど、あの、なぜそんなことを?』
『え?あ、ううん。ちょっと、気になって。それだけ』
『そうですか』
アレナリアに理由を聞かれ、私は慌てて誤魔化した。確証がない今の段階で、私の予想をアレナリアに言うことはできない。
幸い、アレナリアはすぐに引き下がってくれた。
私は、このまま深く突っ込まれないうちに退散することにした。
『もう遅いし、私、戻る』
『えっ!もう戻られるんですか?』
アレナリアが名残惜しそうに私を引き留める。
私も、本当はアレナリアをこのままにしておくのは心配だ。でも、今ここからアレナリアを連れ出したとしても面倒なことになるだけ。
連れ出すのは、いろいろと準備を整えてからじゃないと。
『うん。誰かに見つかる前に、戻らないと。また、来るから』
『そうですか。そうですよね。見つかったら大変ですよね。わかりました。ここでトモリさんとお会いしたことは、二人だけの秘密ってことですね』
『うん。黙ってて、くれる?』
『もちろんです。またこうしてお話ししたいですから』
『ありがとう。それじゃあまたね』
『はい。おやすみなさい』
『……おやすみ、なさい』
挨拶を交わすと、念話を切り、転移で領主邸の宿泊部屋に戻った。
部屋に戻ると、ほっとしたのかあくびが出た。
…………寝よう。
本当は、このあともう少し調べる予定だったけど、眠気であまり頭が働かない状態で、こっそり行動するのは危険だ。うっかり見つかるおそれがある。
今日のところは諦めて、ベッドに入った。
疲れていたのか、横になったらすぐに眠ってしまった私だった。