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110.ぼっち少女と領主一家2


 幸か不幸か、領主と二人きりの時間は長くは続かなかった。

 コンコン、と小さなノックの音が響く。領主が入室を促すと、さっきとは別の使用人が、領主と同年代の女性と、アドリアナを連れてやってきた。

 状況からみて、女性はアドリアナの母親だろう。

 アレナリアがいないけど、どうしたのかな?

 気になったけど、今は聞く手段がない。私は黙って立っていた。


「……トモリさん、だったか?私はこの街の領主をしているアントニー・トゥ・オネインザだ。こっちは妻のベティ。アドリアナのことはすでに知っているな?」


 二人が席に着くと、領主から自己紹介があった。

 本当なら、ここで私も自己紹介をするべきなんだろうけど、お互いの距離が遠すぎていつもの方法は使えない。

 とりあえず一礼して、助けを求めてアドリアナを見た。

 目があったアドリアナは、軽く頷くと領主に言った。


「お父様、トモリさんは口がきけないようなのです。普段は筆談をしております」

「そうなのか。イーサンは無口だと言っていたが、なるほど。そういうことなら、筆談で構わん。耳は聞こえるんだよな?」

「ええ、そちらは問題ありません」

「ふむ。筆談をするとなると、席は近いほうが良いな。アドリアナの隣に座ってくれ」


 アドリアナの説明のおかげで、筆談の許可が出て一安心だ。

 私は大人しくアドリアナの隣に座った。



◇◆◇◆◇◆◇



 その後、この間の魔物の異常発生事件についてあれこれ聞かれた。

 主に、街迷宮についての質問が多かった。他にも、魔法のこととか聞かれたけど、私が拙い字と単語を並べただけのような文章で答えていると、向こうも詳しいことを聞くのは諦めたようで、30分ほどで質問は終わった。

 嘘にならない程度に誤魔化したり、誤魔化しきれそうにないところは、わざと意味がわかりにくいように単語を短くしたり、助詞を省いたりして答えたので、一番知りたかったであろう私の正体、というか出自については、ほとんど何もわからなかっただろう。


 ちなみに、この世界での私は、人里離れた場所で育った口のきけない人、という設定にすることにした。

 文字を知らないのは、話をする相手がいなくて必要なかったため。常識が欠けているのは、ほとんど人と関わったことがないため。強いのは、街から離れた場所で暮らしていたため、ということにした。


 この世界では、迷宮から採れる資源によって、生活は成り立っている。もちろん、農作物など迷宮では採れないものもあるけど、それもほとんどが街の近くで生産している。

 街から離れるとそこは大自然の真っ只中。人はおらず、碌な資源もない。何より、迷宮には生息していない未知の動植物で溢れていて、とても人が住めるような場所ではないそうだ。


 迷宮の魔物より、自然に生息している動物のほうが脅威だということが不思議だけど、この世界の人たちにとって、街から離れて生活できないというのは常識らしい。たまに開拓をしようと頑張る人もいたみたいだけど、全員が失敗しているらしい。

 だから、そういう場所で暮らしていた私が強いのは、何もおかしなことではない、という設定だ。


 アニタさんやハティさんとの話や、本で読んだ知識から、この設定にすることにした。

 残念ながら、他の人にこの設定の是非を聞くことができないから、不審な点があるかもしれないけど、とりあえず、問題が見つかるまではこの設定で行くことにした。




 話が終わったあとは、そのまま流れで夕食を一緒に食べた。

 アレナリアがいないので気になって聞いてみたら、アレナリアはアレルギーで食べられないものが多いから、別のメニューの食事を別室で食べているそうだ。客がいるときはいつもそうなんだとか。

 一緒に市場を回っていたときにいろいろ買って食べたりしたけど、そんな話は聞いたことがなかったので、本当かどうか怪しい。


 今日のメニューだって、アレナリアと市場で食べたものとそんなに変わらないように見える。もちろん、あの時よりずっと高い食材を使っているとは思うんだけど、種類の差はないように見える。野菜も、肉も、スープも、アレナリアが食べられないもののようには見えなかった。

 まあ、私が知らないだけという可能性だってある。アレナリアと食事をしたのはほんの数回。その時たまたま大丈夫だっただけということだって十分にある。


 ただ、本当にアレルギーが多いなら、外で食事をするときはもっと気を使うんじゃないかな?小学校のときのクラスメートにアレルギーが多い子がいたけど、その子はすっごく食事に気を使っているという話を聞いたのを覚えている。

 そのことを踏まえると、アレナリアはアレルギーが多いようには見えなかった。

 アレルギーでないなら、食事を別にする理由ってなんだろう?もしかして、具合でも悪いのかな?

 私は黙って食事をしながら、そんなことを考えていた。



◇◆◇◆◇◆◇



 食事が終わると、もう遅いからという理由で泊まっていくよう勧められた。

 確かに外はもう真っ暗だし、女の子が出歩く時間じゃないよね。

 転移で戻れば一瞬なんだけど、面倒なことになりそうなので、この人たちにそのことを話すつもりはない。

 今日は好意?に甘えて、泊まることにした。




 そして今、私はこっそり邸内を移動している。

 時間は真夜中。そろそろ日付が変わろうかという時間。

 電気のないこの世界の人たちなら、眠りについている時間だ。


 しんと静まり返った廊下を、「隠形ハイドフォーム」で姿を隠し、「飛翔フライ」で低空飛行することによって足音を消して移動する。

 最初は防音結界を張ろうと思っていたけど、そうすると周りの音まで聞こえなくなってしまうのでやめた。


 今回の目的は、領主一家の秘密を暴くことだ。

 秘密といっても、確証があるわけじゃない。今までのアドリアナの言動や、さっきの領主たちとのやり取りで、なんとなく、本当にただなんとなく、何かあるんじゃないかって思っただけ。

 なんとなく、何か隠していると思ったのだ。

 それも、アレナリアに関することで。


 だから私はまず、アレナリアを探すことにした。

 最初は「索敵サーチ」で探そうと思ったんだけど、邸内にはそういう魔法を妨害する結界でも張ってあるのか、「索敵サーチ」は不発に終わった。

 魔法で探せない以上、直接探し回るしかない。

 私は仕方なく、邸内を片っ端から捜索することにした。




 一時間後。

 2階建ての領主邸内を隈なく探したけど、アレナリアは見つからなかった。

 ちなみに、部屋の中はディーネに見てもらった。

 霊体モードでペンダントから出てきてもらったディーネは、幽霊のような状態で、物をすり抜けることができたし、他人の目には映らなかったので、ちょうどよかったのだ。

 本人はいいように使われて少し拗ねていたけど、好物だという甘いお菓子をあげたら、機嫌を直してくれた。チョロイな。


 さて、ここまで探していないとなると、残るは地下、かな?


『ディーネ。地下に下りる階段がどこにあるかわかる?』

『うーんとね、こっち、かな?』


 ディーネの案内で階段があるという部屋の前まで来る。

 そこは物置として利用されている部屋で、中に誰もいないことは確認済みだ。

 私はそっと扉を開ける。

 物置だからか鍵はかかっていなかった。

 中に入り、扉を閉め、隠し扉の前に来る。

 隠し扉は大きな棚で塞がっていたので、ディーネの指示に従って転移で扉の向こう側に移動した。



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