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108.ぼっち少女と加護


 6月(ウィカルセン)1日、木曜日メトフェンダン

 魔物異常発生事件の調査とか、謎人物の捜索とかで、気がつけば6月になっていた。

 カージアの街に来てから、1ヶ月以上経っている。月日が経つのは早いものだ。


 今日は、朝からカージアの街迷宮に行った。

 この間、ギルマスやダニーさんたちと行ったとき、ほぼひとりで攻略したようなものだったけど、称号は6人で攻略したものになっていた。

 だから、ひとりで攻略して、効果の高い称号をゲットしておこうと思ったのだ。

 道中は、必要最低限の戦闘だけをして、飛行魔法で飛んで行った。ボスのオークキングは、黒魔術を2、3発使って終了した。

 その結果、攻略はお昼前に終わってしまった。

 そんなに飛ばしたつもりはなかったんだけどなぁ。

 称号はひとり用になり、効果はステータス全項目+1500になったけど、特典は2回とも回復薬で、ギフトはもらってない。

 まだ時間もあるし、もう一回攻略しようかな。

 私は少し悩んだ末、再びカージアの街迷宮に入った。




 途中でお昼休憩を挟んだため、攻略時間は1回目より長くなってしまったけど、2回目の攻略が終わったのはまだ日が高い時間だった。

 だいたい3時くらい。おやつの時間だ。

 今日は1日(ついたち)で月初めの礼拝の日だから、市場も賑わっているはず。

 人混みは好きじゃないけど、この時間だし、朝よりは少し人が減ってマシになっている……はず。まあ、とりあえず行ってみて、人が多かったらやめればいいか。

 私は、おいしい食べ物を求めて、市場に向かうことにした。



◇◆◇◆◇◆◇



 屋台で買食いをしたり、露店でアクセサリーや古着を見たりしていると、ふと、ある店が目に入った。

 その店は、他の露店と同じように、地面に敷物を敷いて、その上に商品を並べただけの簡素な店だ。

 ただ、並んでいる商品は、他の露店とは大きく違っていた。

 その店の商品は、杖だった。

 しかも、いかにも魔法の杖といった感じのものだ。


 そういえば、杖とかを装備すると、ステータスが上がるんだっけ。

 前に特典でもらった杖は、効果がショボかったから死蔵してるけど、何か使えそうなものがあったら買おうかな。

 杖がなくても魔法は使えるけど、やっぱり魔法使いといえば杖!って感じがするんだよね。

 持っていても邪魔にならない、適度な大きさで、効果が良いやつがあったら、ひとつ買ってみよう!

 お金はたくさんあるから、予算の心配はしなくていいしね!



 私は露店に並んでいる杖を端から見ていった。

 今回は効果より形(大きさ)重視だ。

 多少効果が低くても、形が良ければそれでいい。まあ、あまりにも効果が低すぎるのはなしだけど。

 そんなわけで、良さげな形の杖を見つけては、鑑定していった。


 店に並んでいる杖は30本弱しかなかったから、選別はすぐに終わった。

 最終的に残ったのは3本。どれも形は似ているけど、効果が違う。

 私はその中から、一番興味を惹かれた効果の杖に決めた。

 指揮棒のような形の杖で、価格は銀貨10枚。他の2つの候補は、どちらも銀貨30枚以上だったから、破格の安さだ。

 まあ、安いのは多分、効果のせいだと思う。普通の人なら大して意味のない効果だけど、私には大きな意味がある。

 杖のステータスはこんな感じだ。



◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆


【装備可能職業】魔法使い(ウィザード)以上

【総合評価】D

【装備効果】魔力+50、精神力+50、増血(スキル)



増血

【発動】任意。

【説明】毎秒魔力を消費し、装備者の血液量を回復する。ただし、健康な血液量を超えると効果は消える。

【発動条件】スキル名を唱える。


◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆



 スキル「増血」。

 普通の人なら、必要ないようなスキルだ。だって、継続的に血を回復させる必要がある状況が珍しいから。

 怪我をしたら回復魔法や回復薬で一気に治す。病気の治療なら継続的な回復が必要になるかもしれないけど、そもそも魔法使いが治療をすることは基本的にないし、治療される側であったとしても、普通杖を持ったまま治療は受けないだろう。


 でも、私は違う。

 黒魔術を使うのに必要な血玉を作るときに、このスキルを発動させれば、スキルなしのときよりもたくさん血玉が作れる。

 ディーネが痛くない採血方法を考えてくれてるし、これでもっと強くなれるはずだ。



 杖を買うとき、店主に本当にその杖でいいのかと聞かれた。店主は、まさか売れるとは思わなかったみたいだ。

 でも、店としては、買うのを止める理由はないから、それ以上は追及されなかった。

 代わりに、少しだけまけてもらって、銀貨8枚になった。

 金額にはあまり拘ってなかったけど、安くしてもらえるとやっぱり嬉しかった。



◇◆◇◆◇◆◇



 買った杖を適当なところで仕舞うと、私は市場の続きを見て回った。

 特に興味を惹かれるものも、買うものもなかったので、一通り見て回ると、宿に帰ることにした。

 その途中。


「あっ!トモリさん!」


 ちょうど教会の前を通りがかったとき、アドリアナとアレナリアに出会った。


「トモリさんも礼拝ですか?奇遇ですね!私たちもちょうど行くところなんです。ご一緒しませんか?」


 アドリアナが、まるで用意してきたセリフを言うかのような白々しい口調で、同行を求めてきた。

 アドリアナの後ろのアレナリアを見ると、サッと目を逸らされた。

 ああ、私に会いたくて待ってたのか。

 直感的に、そう覚った。


「さあ!もう夕方です!早くしないと教会が閉まってしまいますから、急ぎましょう!」


 かなり前から待っていてしびれを切らしていたのか、アドリアナは答えを待たずに、私の手を引いて歩き出した。

 教会の入り口は、アドリアナたちが来た方角にある。その時点で、ちょうど行くところだったはずがないとわかる。

 アドリアナもそれがわかっているんだろう。私に拒まれる前に、有無を言わさず引っ張っていこうとしているのだ。


 ……まあ、礼拝くらいなら、一緒に行ってもいいかな。それ以外の面倒事はお断りだけど。

 私はとりあえず、アドリアナに引かれるがまま歩き出した。

 すれ違ったときに見たアレナリアは、申し訳なさそうな顔をしていた。




 夕方だからか、教会は空いていた。先月のように長蛇の列ができていたりはせず、私たちは普通に中に入った。

 入るときにシスターに無宗教であることについて驚かれたけど、3回目ともなれば慣れてくるし、今回はアレナリアのフォローもあったので、すぐに開放された。


 外は空いていたけれど、礼拝堂には数人の列ができていた。

 アドリアナとアレナリアはそれぞれ別の列に並ぶ。

 私はまた、一番空いているというか誰もいないフェムテの列に行き、祈りという名の挨拶をした。


『えーと、こんにちは。なんか、流れでまた来てしまいましたが、特に用はないのでこれで帰ります。さようなら』


 ただの挨拶なので、すぐに終わった。

 私は目を開けると、出口に向かって歩き出そうとした。

 ちょうどその時、また、神サマの声が聞こえてきた。


『アハハッ!君は相変わらず面白いね、燈里ともり

『…………別に面白いことをしているつもりはありません』


 前回と同じで、笑いから会話が始まった。

 いつまでもその場で突っ立っているわけには行かないので、私は歩きながら返事をする。


『それで、今日は何のご用でしょうか』

『ん?ああ、君に加護をあげようと思ってね』

『加護、ですか?』


 そんなものいらないんですけど。

 そう言いかけて、飲み込んだ。いくらフレンドリーとはいえ、相手は一応神サマ。あまり失礼なことを言うと、天罰が下るかもしれない。

 まあ、今さらかもしれないけど、少しくらいは取り繕っておかないとね。

 そう思ったけど、神サマには全てお見通しだったみたいだ。


『ふふっ。加護はいらないって顔に書いてあるね』

『……加護をもらったら、信者にならないといけなくなるじゃないですか』


 取り繕っても意味がないようなので、私は正直に言うことにした。


『私、宗教的なことは何も知らないんです。それに、そういう決まりに従うのも好きじゃないですし』

『ああ、大丈夫。僕はあまりそういう堅苦しいのは求めないから。ただ時々こうして話ができればそれでいいんだよ』

『そうなんですか?』

『うん。そもそも、ゼフェラルト教って、信仰する神によって戒律がかなり違うんだ。中にはすごく厳しい神もいるけど、僕はゆるっゆるのゆっるゆるでいいから。君でも受け入れられると思うよ』


 神によって戒律が違う。それって、もう別の宗教と言っても過言ではないような気がする。

 まあ、私はそんな細かいことに口を出す気はないから、どうでもいいけど。


『君が教会に来る前から見てたけど、宗教に入ってないと不便そうだし、手頃な僕の信者にでもなっておかない?他の神よりラクだよ』


 ……一体いつから見てたんだろう。かなり気になったけど、聞いてもはぐらかされそうな気がする。聞くのはまた今度にしよう。

 それよりも、神サマの言い分には一理ある。

 この世界の人と付き合う上で、ゼフェラルト教への入信は必要不可欠のようだとは思っていた。どうせ入らなきゃいけないなら、ラクなのがいい。


『神サマの戒律って、どんなのがあるんですか?』

『ん?僕?僕のは一言で言うと、「自分を信じて、突き進め!」って感じだね。月初めの礼拝みたいな全神共通の恒例行事以外は、年に一度のお祭りくらいで、他は特にやることないよ。礼拝だって、来たくなければ来なくてもいいし、辞めたくなったらいつでも辞めていいから』


 うわー……なんてマイペースな神サマ……。

 まあ、特に断る理由もないし、好きに辞められるって言うなら、とりあえず入っておくのもいいかな。


『じゃあ、入ります』


 私は、スーパーの無料会員に入るときのような気楽さで、フェムト神への入信を決めた。 


『ありがとう!それじゃあ、加護をあげるね。わからないことがあったら、聖職者か僕に聞くといいよ。それじゃあ、またね、燈里!』


 それだけ言うと、神サマはまた一方的に念話を切った。

 本当に自由だな。羨ましい。

 私は礼拝堂の出口の近くで邪魔にならないところに立つと、ステータスを開いて加護を確認した。



◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆


【ギフト】

神託オラクル

【発動】任意

【説明】神と話をすることができる。

【使用方法】神に祈りを捧げる。



【称号】

フェムテの加護

【称号取得条件】フェムテから加護を授かる。

【効果】闇系統の力が強くなる。肉体・精神ともに状態異常を受けなくなる。


◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆



 …………。

 あれ?この加護、もしかしてかなり良いヤツ?

 状態異常無効ってことだよね。これでパラライズやポイズン系の魔物に怯えなくて済む。

 それに、闇系統の力って、黒魔術や契約悪魔の力も含まれるのかな?もしそうなら、私にピッタリの加護だ!

 これはさすがに人に聞くわけにはいかないから、あとで試してみないとね!




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