11.ぼっち少女の初宿泊2
2階には、全部で6部屋あった。
部屋のドアには、それぞれ文字?が書かれている。たぶん、何号室か書いてあるんだと思うんだけど、私には読めない。
アニタさんが教えてくれた表には載っていない文字だけど、状況からみて数字だと思う。
今度アニタさんに会ったら、数字も教えてもらおう。
私は、鍵に書かれている文字と同じものが書いてある部屋を探した。
読めなくても、同じものを探すだけならできると思ったのだ。
そして、階段を上がって3つ目の部屋が同じであるとわかると、鍵を開けて部屋に入った。
3号室は一人部屋なのか、ベッドと机とイスがひとつずつ置いてあった。
部屋はそんなに広くなくて、置いてある家具だけでほとんど埋まってしまっている。でも、汚いという感じはなかった。床や壁も綺麗に掃除してあって、埃もない。
ベッドは元の世界と似たようなもので、適度にふわふわしていて寝るのに問題はなさそうだ。
私は、靴とローブを脱いで、ベッドに寝転ぶ。
今日はいろいろあって疲れたので、そのまま夕食までひと眠りすることにした。
……その前に、夕食の時間に寝坊しないよう、「時計」にアラーム機能を追加しておこう。
『創造・時計』
アラーム機能を追加して創り直した。
うまくできたか確認するために開くと、目の前に現在時刻が表示されたプレートが出てきた。
私は、アラームをセットするために、時計をタップする。
すると、アラームの他に、表示切替という項目が出てきた。
疑問に思ってタップしてみると、さっきまで「15:32」と表示されていた時計が、「夕4刻」に変わった。
どうやら、こっちの時間に表示を切り替えられるようになったらしい。
……また、勝手に新しい機能が増えている。
助かるんだけど、誰かに介入されているようで少し怖くなった。
私は、深く考えるのはやめて、アラームを夜1刻=18時にセットして、眠りについた。
思ったより疲れていたのか、横になるとすぐに眠れた。
その後、アラームの音で目を覚ました私は、夕食を食べに1階に向かった。
食堂は、受付横のドアから入れるようになっていて、私が行ったときはまだ誰もいなかった。
他の客と鉢合わせて絡まれると面倒なので、私は手早く夕食を済ませることにした。
今日のメニューは、肉たっぷりのシチューと、ミルクロールパン、オレンジジュースで、意外とおいしかった。
シチューの肉は、何の肉かは精神衛生上聞かなかった。ゴブリンの肉とか言われたら食べれないし。
他のメニューは、元の世界のものと見た目も味も同じだった。この世界の食事は、元の世界と変わらないようだ。
私は、他の客が来る前に食事を終えると、さっさと部屋に戻った。
食堂を出るときに、カリーナから朝食は朝1刻(=6時)から朝3刻(=9時)の間に摂るように言われた。
部屋に戻ると、「想像創造」で寝間着を創った。パジャマではなく、部屋着に近いものにした。最悪、そのまま外に出ても恥ずかしくない服装だ。
ここは異世界だし、夜に何があるかわからないからね。
私は、着替える前に、ふと思いついて魔法を創った。
『創造・清潔』
創り終えると、早速発動させ、着ている服ごと体の汚れを落とす。
発動すると、体を淡い紫色の光が覆い、汚れらしきものを取っていくのが見えた。
光が消えると、シャワーを浴びたようなスッキリ感が得られた。
……やっぱり魔法って便利だなぁ。
綺麗になると、私は、寝間着に着替え、さっさとベッドに入った。
そして、朝7時半にアラームをセットし、眠りについた。
夕食前に仮眠を取ったけど、まだ疲れているようで、すぐに眠れた。
よく考えたら、元の世界では夜8時くらいだったのに、こっちに来た時は昼過ぎくらいだった。そこからずっと活動していたわけだけど、それを元の世界の時間にあてはめたら、夜中まで活動していたことになる。
そう考えると、疲れていて当たり前だった。
私は、翌朝アラームに起こされるまで、一度も起きることなくぐっすり眠った。
翌朝。この世界の暦では「オルヴァセン13日 メトフェンダン」というらしい。これも時計みたいに元の世界のものに表示を切り替えられないか試してみたけど、無理だった。まあ、日付がわからなくても今のところ問題はないからいいかな。
私は、寝間着から普段着に着替えて、魔法で創った桶と水で顔を洗って身支度をすると、食堂に向かった。
食堂には、全部で7人の女性冒険者らしい客がいたけど、仲間との話に夢中で私のことに気付いた様子はない。
私は、女性客たちから一番遠い隅の席を選んで座った。
5分ほど待つと、カリーナが朝食を運んできた。
今日のメニューは、ふわふわの食パンと、謎肉のステーキ、具のないコンソメスープだった。
……朝食からステーキってどうなの?確かにおいしそうではあるけど、朝からこんなに重い食事だとは思わなかった。
でも、周りの客は普通の顔をして食べていたので、こちらでは普通らしい。
食べ切れるか心配だったけど、昨日の夕食から半日以上何も食べておらず、おなかがすいていたせいか、元の世界では1.5人前はありそうな量をペロリと平らげてしまった。
何の肉かはわからないけど、とってもおいしいステーキだった。
ごちそうさま。
食事中、女性客の一人が私に話しかけてきた。
その人は駆け出しの冒険者で、私をパーティーに勧誘しに来たようだった。
でも、私が無言で話を聞いていると、何も言わないことを誤解して受け取ったらしく、悪態をついて席に戻っていった。
そのまま、同席している仲間と私の悪口を言い始める。
……私、何も言ってないんだけどな。
少し嫌な気分になったけど、幸い?こういうことは学校でもよくあったので慣れている。
私は、彼女たちを完全に無視して食事を続けた。
朝食を終えた私は、そのまま部屋の鍵をカリーナに預けて冒険者ギルドに向かった。
今日は何か依頼を受けて、稼ごうと思う。