105.ぼっち少女のカージアの街迷宮攻略2
ガーゴイルのいる第2層、第3層、そしてボス部屋のある第4層を私ひとりで敵を倒すことで速攻攻略したおかげで、私たちは1時間ほどで第5層まで辿り着くことができた。
第5層への階段で、飛行魔法に酔った人の回復と、私の魔力回復を兼ねた休憩を取りながら、第5層以下のオーク戦の作戦を考えることになった。
とりあえず、飛んでいけるところは私の飛行魔法で飛んでいき、そうでないところは連携して倒していくことになった。役割は前にオーク迷宮を攻略したときと同じ。ギルマスは、近接戦闘が得意ということだったので、ザックさんと一緒に前に出てもらうことになった。
話し合いが終わっても、酔いから回復していない人がいたため、雑談タイムとなった。
「それにしても、飛行魔法って便利ねぇ。まさかこんなに早く進めるなんて思ってなかったわ」
酔いでつらそうにしているミラさんを介抱しながら、グレイスさんが言った。
「戦闘も魔法で一撃でしょう?私の出番が少なくて楽でいいわ。いつもは忙しくて目が回りそうだもの」
「おいおい。それじゃあまるで、俺たちのせいでお前が忙しいみたいじゃないか」
「あら、ダニー。そう言っているのがわからない?ただ耐えていればいいあなたと違って、私は支援も回復もしなきゃいけなくて大変なのよ?」
「なっ!俺だって、作戦を考えたり、お前たちに攻撃がいかないようにしたり、いろいろ考えてやってるんだぞ」
「そんなことわかってるから、そんなに怒らないでよ。私は別に、忙しいのが嫌だなんて言ってないわ」
「あ?そうなのか?」
「ええ。忙しくて大変だけど、あなたたちと迷宮を攻略するのは好きよ。そもそも、嫌だったらとっくにパーティーを抜けてるわよ」
そう言ってグレイスさんはクスクスと笑った。どうやら、ダニーさんをからかってみただけのようだ。
からかわれたことに気付いたダニーさんは、「またかよ……」と呟いて照れくさそうに頭をかいた。グレイスさんがダニーさんをからかうのはよくあることのようだ。
ミラさんとグレイスさんも喧嘩ばかりしてるけどうまくやっているみたいだし、どうしてこんな人間関係でやっていけるんだろう?何か秘訣でもあるのかな?
あまり人と関わらないようにしていた私には、よくわからなかったけど、わざわざ聞く気にもならなかったので、黙っていることにした。
◇◆◇◆◇◆◇
しばらくしてミラさんが回復すると、出発となった。
第5層は、森だった。フィルリアの街迷宮の第8層と同じ深い森。上空に結界があるのも同じで、飛んでいくことはできそうになかったため、歩いて行くことになった。
途中に障害物はなく、次の階段までまっすぐ最短距離を進めそうだったので、とにかく突っ切っていくことにした。戦闘は最小限。進路上にいて避けると時間的にも距離的にもロスが大きい場合だけにした。
カージアの街迷宮が何層まであるのかわからない以上、無駄な戦闘は控えたいというのが、全員の考えだった。
森の中のため、火属性魔法を使うミラさんの出番はなく、敵を倒すのは専ら私だった。
いつものように「凍結」で凍らせて倒す。いつもは解凍してから「無限収納」に仕舞うんだけど、今日は「無限収納」のことを知られたくないこともあり、そのままギルドカードに仕舞った。あとでこっそり解凍して「無限収納」に移しておこう。
最初はザックさんやギルマスもたまに剣で仕留めたりしてたけど、私が倒す方が早いため、次第に何もしなくなった。本当に必要なときは動いてくれたけど、それ以外はただ歩くだけだった。
頼りにしてくれるのは嬉しいけど、もう少し何かしてくれてもいいんじゃないかな?と思った。まあ、敢えて言ったりはしなかったけどね。
とまあ、第5層は普通に進めたんだけど、第6層は困った。
第6層も、フィルリアの街迷宮の第9層と同じ造りで、城があった。例の、10階まで登ってから地下行きのエレベーターに乗らないと次の階層への階段に辿り着けない、面倒な城だ。
飛行魔法の操作もだいぶうまくなって、今なら自分だけなら「飛翔」で城内部を飛んでいけそうだけど、この人数じゃ無理だろう。
ひとりだけなら「爆発」で強行突破できるけど、私は水属性魔法しか使えないことになっているから、火属性魔法の「爆発」を使うのはまずい。
でも、ミラさんなら使えるかな?
そう思って、ミラさんに聞いてみた。城を上まで登るのは面倒だから、壁を壊して最上階に入ろうと思うんだけど、何かいい魔法はありませんか、みたいな内容で聞いてみた。
「壁を壊せる魔法?あるけど、あの魔法で壁を壊したら、中は足の踏み場がなくて大変よ?」
”飛べば いい”
「確かにそうね。それじゃあ、任せてちょうだい!」
私はなるべくエレベーターに被害が少なそうで、かつ、壊しやすそうな場所の前に飛行魔法で移動した。
ミラさんが詠唱を始めると、グレイスさんも詠唱を始めた。何の魔法を使うのかな、と思って見ていると、ダニーさんがこっそり耳打ちしてくれた。
「念のために防御結界を張ろうとしてるんだ。張り切っているときのミラの魔法はヤバイからな。俺たちが巻き込まれないように気を使ってくれてるんだよ」
ああ。私が「爆発」を使うときに防御結界を張るのと同じか。爆発の余波で被害を受けないように、備えておくってことだね。
一応私も飛行魔法と一緒に防御魔法使っているから、多少威力が高くても大丈夫だろう。
グレイスさんの防御結界が出来上がって少しすると、ミラさんの魔法が放たれた。
「――、インフェルノ!」
巨大な炎が城の上部を包み、溶かしていく。みるみるうちに城の外壁は溶け、中が見えるようになっていく。すごい火力だ。
結局、1分もしないうちに壁は跡形もなく溶けた。こうなればもういいだろう。あとは炎が消えるのを待てばいい。
しかし、それから1分経っても、2分経っても、炎が消えることはなかった。
あれだけの勢いで何分も燃え続けるっておかしくない?私がミラさんの方を見ると、ちょうど目があった。私が無言で見つめると、ミラさんは引きつった顔をした。
「ごめん。やりすぎたかも……」
「はあ。やっぱりね。それで、あれはあとどれくらいで消えるの?」
グレイスさんが溜息をつきながら聞くと、ミラさんは目を逸らせながら言った。
「……わかんない」
「はあ?わからないですって?じゃあ、あれはどうするのよ!あのままじゃ先に進めないじゃない!」
「だから、ごめんって」
「謝って済む問題じゃないでしょ!もう!どうするのよ……」
グレイスさんが頭を抱える。他のみんなも、予想外の事態に大きな溜息をついた。
ミラさんは、端の方でごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けている。
はあ……。
私も溜息をついた。まさかこんなことになるとは。
確かに、あのまま炎が消えなければ、先に進むことはできない。いくら防御結界があるとはいえ、灼熱の炎の中を進んで、無事でいられるとは思えない。
それに、このまま燃え、いや溶かし続ければ、城自体が崩壊してしまう危険があった。そうなれば、階段に辿り着けなくなってしまうかもしれない。
このまま放っておくという選択肢はなかった。
『水雨』
いつもより魔力を多く込めて、どしゃ降りの雨を降らせた。バケツの水をひっくり返したような、滝のような雨を降らせる。
それで多少は炎の勢いが弱まったけど、鎮火には遠い。
私はさらに魔法を使う。
『水嵐』『水球』『凍結』
どれも魔力を多く込めて、威力を増したものにした。
そうやって、大量の水をかけてインフェルノの炎を消そうと試みた。
それだけやってもすぐに鎮火とはいかなかったけど、徐々に弱まっていき、5分くらいかけてやっと鎮火できた。
でも、かなりの魔力を使ったせいで、かなり消耗した私は、肩で息をしていた。それに、なんだか頭がクラクラする。
こっそりステータスを見ると、魔力は残り1割を切っていた。少し使いすぎたかもしれない。
でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。せっかく火が消えて中に入れるようになったのだ。先に進もう。
私はクラクラする頭でなんとか道を把握して、飛行魔法でみんなを運ぶ。
中は水浸しになっていて、とても歩けそうになかった。
エレベーターは大丈夫かな?
心配になったけど、実際に着いてみたら、エレベーターは無傷だった。よく見ると結界があり、それがエレベーターを守ったようだ。
エレベーターを開け、乗り込むと、私は飛行魔法を解除した。
地面に足がついたけど、なんだか足に力が入らなくて倒れそうになる。
誰かが私を支えてくれたおかげで、怪我をしなくて済んだけど、私は限界だった。
地下に向かって降下し始めたエレベーターにつられて、私の意識も落ちていった。