104.ぼっち少女のカージアの街迷宮攻略1
『 』 は心の中での発言、
" " は文字での発言です。
ギルドを出てから一時間後。
乗り合い馬車と徒歩で、私たちはようやくカージアの街迷宮に辿り着いた。
カージアの街迷宮の場所は、事前に確認してあったから、転移で来ても良かったんだけど、ダニーさんたちには転移のことは秘密にしているので、仕方なく普通の移動手段で来た。
途中で、ミニマムアント迷宮の時みたいに地図を渡しておけば、現地集合でも良かったんじゃないかと思って少し後悔した。今まで転移か飛行魔法での移動が圧倒的に多かったので、のんびり馬車と歩きで行くのはつらかった。
それでも、なんとか到着したけど、次に同じようなことがあった時は、絶対現地集合にしようと心に決めた。
「うわあ!これが街迷宮なのね!すごい、すごいわ!なんて綺麗な迷宮なの!」
フィルリアの街迷宮のように、豪華な造りをしているカージアの街迷宮を見たミラさんが、感動して叫ぶ。街迷宮が見えているギルマス、ダニーさん、ザックさん、グレイスさんも、言葉には出していないけど、似たような反応をしている。
一方、街迷宮が見えていないハティさんとアニタさんは、首を傾げたり、辺りをキョロキョロと見回したりしている。
「ねぇ、トモリちゃん。本当にここに迷宮があるの?私にはただの開けた場所にしか見えないのだけれど」
「私にもそう見えますが、皆さんの様子ですと、街迷宮があるのは確かなようですね」
「うーん。どの辺にあるのかしら。ここ?それともこっち?」
そう言ってハティさんは街迷宮の入り口の方へ歩いていく。ハティさんにはただの広場にしか見えていないから、普通に歩いていくのは仕方ないのかもしれないけど、迷宮が見えている私としては、このままだと迷宮にぶつかってしまいそうで怖い。
「あ、危ない!止まれ、ハヴィティメルネ!」
案の定、ハティさんは迷宮の壁のすぐ近くまで行った。あと一歩でぶつかるというところで、ギルマスがハティさんを止めた。
「え?何?どうしたの?」
「そこに壁があるのだ。そのまま行くとぶつかってしまう」
「壁?どこだろう?ここかしら?」
ハティさんが探るように手を出す。その手は迷宮の壁に触れ……たように見えて、そのまま壁を突き抜けた。
「え?」
「え?」
誰かが驚いて声を漏らした。
迷宮が見えている人は、全員が同じような顔をしている。
ハティさんは、そんな私たちを見て、不思議そうな顔をした。
「どうしたの?何かあったの?」
そして、振り返ってこちらに戻ってくるときに、また壁をすり抜けた。でも、本人は何ともないようだ。
戻ってきたハティさんにギルマスが説明したけど、ハティさんは首を傾げるだけで、壁をすり抜けたことに全く気づいていないみたいだった。
その後、見える組と見えない組でいろいろと検証した結果、迷宮が見えない人は、単に迷宮が見えないだけでなく、その存在そのものを知覚することができないのだということがわかった。しかも、物理的に存在するものすら、存在しないものとして認識してしまう。
どういう仕組みかよくわからないけど、これまで街迷宮の存在が幻扱いされていた理由の一端がわかった気がした。ここまで徹底的に「ないもの」とされていたら、見えない人がその存在を信じることは難しいだろう。
結局、ハティさんとアニタさんは、自分たちは迷宮を見ることができないと再認識できたところで街に戻って行った。
このままここにいても何もすることがないから、街に戻って情報収集でもしているそうだ。
特に反対する理由もなかったので、二人を見送ると私たちは街迷宮に入った。
◇◆◇◆◇◆◇
迷宮の第1層は、石の壁に土の床をしていた。
階段を降り切る前に、その造りが意味することに気がついたギルマスが注意を促してくれなかったら、危ないところだった。
「確か、街迷宮にはこの街のすべての迷宮の魔物が出るのだったな?だとすれば、マンドラゴラも出るのではないか?」
「あ!耳栓!」
マンドラゴラの奇声にやられないように、全員が急いで耳栓をつけた。
全員がつけたのを確認すると、アイコンタクトを交わして階段を降りた。
……第1層の攻略は、酷いものだった。
別に、ケガをしたわけじゃない。ただ、滅茶苦茶だったというだけだ。
連携も何もなく、各々が自分勝手に動く。全員無事に階段まで辿り着けたのが不思議なくらいだった。
なぜそんなことになったのかって?
私もあまり思い出したくないから簡潔に言うと、ミニマムアントが現れて、拒絶反応を起こした一部の人が暴走を始めたけど危なくて近寄れず、さらにマンドラゴラ対策で耳栓をしていて声も届かないため止められず、他の人は暴走に巻き込まれたくないと逃げ回るハメになったのだ。
私もミニマムアントを殲滅したい衝動に駆られまくったけど、誰かさんが鬼のような形相で暴れて燃やしまくっていたので、なんとか踏みとどまることができた。他の人が冷静じゃないのを見ると、自分は逆に冷静になるというやつだ。
ただ、どうやって階段まで無事に辿り着いたのかはよく思い出せない。でも、まあ、着いたんだからそれでいいよね!
◇◆◇◆◇◆◇
第2層への階段で小休止を取ったあと、出発した。
階段から出て最初に目に写ったのは、遠くまで続く草原と、煙が出ている火山、そして火山の後ろに見える黒い雲だった。
今までの経験から、草原には土属性の魔物、火山には火属性、火山の反対側は極寒になっていて水属性の魔物が出ることがわかっている。
歩き始める前に、私はみんなに提案した。
"飛んでいかない?"
「この人数を飛行魔法で運べるのか?」
ギルマスに聞かれて、私は返答に詰まった。
広そうな第2層を歩いて行くのが嫌だったので、飛んでいこうと思ったんだけど、ギルマスの言うように飛行魔法でこんなに大人数を運んだことはない。
ひとりかふたりくらいなら抱えたり手を繋いだりすれば飛行魔法の効果が届いてなんとかなったけど、この人数で手を繋いで移動するのは現実的じゃない。
でも、今ある方法で無理なら、新しい方法でやればいい。私は全員運べる飛行魔法を創ることにした。
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
飛翔空間
【属性】風
【タイプ】その他
【発動対象】指定
【効果】空間内の対象に飛行効果を発生させる。空間内は風の影響を受けない。
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
空間型にしたのは、「防御結界」を使いたいからだ。2つの魔法の効果範囲を重ねてしまえば、防御結界の効果を、飛行魔法のものだと誤認させることができると思ったのだ。
計画通りにするためにも、私は2つの魔法を同時に使った。
『防御結界』『飛翔空間』
魔法が発動すると、全員の身体がふわりと浮き上がった。
急なことだったので驚いていたけど、すぐに私の魔法だとわかったようで、私の方を見てくる。
私は先頭に移動し、振り返った。
"行くよ"
面倒だったので返事を待たずに高度を上げる。後ろから声が聞こえてきたけど、緊急性を感じられなかったので無視して進むことにした。
あ、聞いてないわけじゃなくて、本当に必要があればちゃんと止まるから、大丈夫。ただ、必要がない話にいちいち付き合っていたらキリが無いから無視しただけだよ。
さて、飛ばせるところはどんどん飛ばして行こう!
大変なのは下層のオークだからね。それまで楽できるところは楽して行かないと!