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102.ぼっち少女と緊急招集1


 オーク迷宮を攻略した翌朝、宿で朝食を摂っていると、アニタさんがやってきた。

 話があるから冒険者ギルドに来てほしいと言われたので、食べ終わるとアニタさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。

 もちろん、通された部屋はギルマスの部屋だった。



 部屋には、ギルマス、ハティさんの他に、ダニーさんたち4人がいた。

 こんな朝から、みんな揃ってどうしたんだろう?

 調査の依頼は、ダニーさんたちに引き継いだし、私はもうお役御免になったはずだけど。

 私は疑問に思いながらも、勧められた席に座った。

 私が座ると、ギルマスが話し始めた。


「全員揃ったな。まずは、急な呼び出しに応じてくれて感謝する。時間がないので、早速本題に入らせてもらう。実は、昨夜早馬が来て、当分の間、カージアの街とスウィルシアの街との交易が中止されることとなった」

「えっ!」


 ギルマスの言葉に、私以外の全員が驚く。私は、そもそもスウィルシアの街のことを知らないので、話についていけていない。

 さすがに、今の雰囲気では聞けそうにないので、黙って話の続きを聞くことにした。


「知っての通り、カージアの街とスウィルシアの街との交易の中止は、商人はもちろん、住民にとっても大問題だ。早急に再開させねばならない。あなたたちには、事態解決のために協力してもらいたい」

「それは構わないが、なぜ俺たちなんだ?交易のことは、商業ギルドの方が詳しいだろう」


 ダニーさんの質問に、ギルマスは溜息をついた。


「ああ、それは、交易が中止になった原因が、魔物の異常発生にあるからだ。先日、あなたたちがスウィルシアの街からの移動中、魔物に襲われ立ち往生したという話がスウィルシアの街に伝わり、事態を重く見たスウィルシアの街の領主が、安全が確認されるまで、交易を中止することに決めたそうだ。安全が確認されるまで、という話だが、スウィルシアの街の領主の性格を考えると、確実に安全とわかるまでは無理だろう」

「つまり、魔物の異常発生の原因を突き止め、解決しない限り、交易は再開されないということか」

「その通りだ。そういうわけで、あなたたちには、引き続き調査を頼みたい。トモリさんも、もう少し力を貸してくれないだろうか」


 ギルマスに真剣な顔で頼まれた私は、コクリと頷いた。イマイチ状況が飲み込めていないけど、みんなの深刻な表情を見て、自分だけ無関係ではいられないと思った。

 私が頷くと、ギルマスはほっとした顔をした。




 全員が協力すると決まったところで、ハティさんが質問をした。


「それで、調査はどうするの?もうめぼしいところはすべて調べたわよ」

「そうだな……。まさか、これだけ探しても何の手掛かりもないとは思わなかった。オーク迷宮にも何もなかったのだろう?」

「ああ。俺たちが攻略したときは、異常や不審人物は見当たらなかった」


 ダニーさんが言って見回すと、ザックさん、ミラさん、グレイスさんが同意するように頷いた。

 それを見たギルマスは、またひとつ溜息をついた。


「はあ…………。オーク迷宮なら、隠れ場所には最適だと思っていたのだが、違うのか……」

「隠れ場所?やはりこれは人為的なものなのですか?」


 ギルマスの発言が気になったのか、グレイスさんが聞く。

 ギルマスは、少し迷うような素振りをしてから、口を開いた。


「……まだ断定はできないが、人為的なものである可能性が高い。自然に起きたにしては、出来過ぎている点がいくつかあるからな。そして、首謀者の潜伏場所として最適なのが、人が滅多に来ず、迷宮にしか存在しない魔物を手に入れられる場所であるオーク迷宮だと考えたのだ。これまでの報告では、ノーマルオークやオークキングといったオーク系の魔物の異常発生が一番多いから、間違いないと思ったのだが……」

「確かに、私もそう思ったわ。でも、オーク迷宮にいないなら、もう一度洗い直す必要がありそうね……」


 ハティさんがギルマスに同意して、溜息をついた。

 それに釣られたのか、他の面々も暗い顔をして俯いている。

 私はそれを眺めながら、犯人の潜伏場所について考えた。


 ギルマスの予想では、犯人は、人が滅多に来ない迷宮にいるということだ。

 人が滅多に来ない迷宮。つまり、オーク迷宮のように難易度が高くて攻略できる者が限られている迷宮か、ミニマムアント迷宮のように、存在自体があまり知られていない迷宮、ということになる。

 でも、どちらにもいなかった。

 この街にある他の迷宮、ガーゴイル迷宮とマンドラゴラ迷宮にもいなかった。


 となると、残る迷宮は、街迷宮だけということになる。

 カージアの街迷宮。存在自体が知られておらず、フィルリアの街迷宮と同じ構造であれば、オークがいるはずの迷宮。

 うん。可能性は充分にある。

 ただ問題なのは、今街迷宮のことを知っているのは私だけということだ。

 オーク迷宮でも、下層のオークはひとりでは倒せなかった。街迷宮のオークも、同レベルだとしたら、私だけじゃ突破は無理だ。助けがいる。

 でも、街迷宮のことを教えてもいいのかな?他の街にもあることを知ったら、どうなるんだろう。みんな躍起になって探し回ったりするのかな?

 それはいいこと?悪いこと?うーん。私には判断がつかない!どうしよう……。


 私が悩んでいると、それに気付いたアニタさんが、声をかけてきた。


「どうしたのですか、トモリさん?何か心当たりでもあるのですか?」


 私が、犯人の居場所が考えつかなくて悩んでいるのではないことを的確に見抜いて聞いてくるアニタさん。もうさすがとしか言いようがない。

 ふと視線を感じて見回すと、全員が期待を込めた目で私を見ていた。


「トモリさん。首謀者の居場所に心当たりがあるのなら、ぜひ!教えてほしい!一刻も早く解決しなければならないのだ。頼む!」


 ギルマスが必死で頼み込んでくる。その様子から、よっぽど深刻な事態なのだということが伝わってきた。

 私はこんなに必死な頼みを断れるほど図太くはない。

 それに、ギルマスやハティさんたちにはいろいろとお世話になっているし、ダニーさんたちとなら、街迷宮を攻略できるかもしれない。

 フィルリアの街迷宮の称号効果は、全ステータス+500だった。それよりも難しいカージアの街迷宮なら、たとえ5人で攻略したとしても、それなりの効果があるはずだ。ステータスが上がれば、オーク迷宮もひとりでクリアできるようになり、さらにステータスが上がる。

 うん。ここは教えた方が得だね。街迷宮のことを公表するかどうかは、ギルマスやハティさんたちに任せよう。


 面倒そうな問題は人任せにすることにした私は、魔法で出した色水で文字を作る。

 ただ、まだうまくできなくてできるだけ短くしようとしたら、片言になってしまった。でも、書くよりは早いし、いいよね?


"心当たり ある けど 無理"

「無理?どうして?」


 色水で文字を作るのを見るのは初めてのはずなのに、ハティさんは動じずに聞いてきた。

 まあ、聞かれても今は答えるつもりなかったからいいんだけど、綺麗にスルーされるとそれはそれで寂しいな。

 私は気持ちを切り替えて話を続ける。


"オーク 強い 助け いる"

「助けって、私たちのこと?」


 ミラさんが自分を指して言う。私は頷いた。


「確かに私たちならオークを倒すことはできるけど、オーク迷宮なら昨日行って、何もなかったじゃない?また行くの?」


 ミラさんの疑問に首を横に振って答える。


「オーク迷宮じゃないの?」


 頷くと、私はまた色水で文字を作った。


"アリ平気?"

「え?ありへいき?有りへ行き?在り兵器?あ、昆虫の蟻平気かってこと?冒険者だし、蟻くらいなら平気だけど、何で蟻?」


 この世界の文字は、元の世界での平仮名とアルファベット、その他いくつかの記号のみで構成されている。

 つまり、同音異義語を正しく表せないのだ。なんて不便な文字……それでも、この世界では成り立っているのだ。この世界の人たちは大変じゃないのかな?と思うけど、今は置いておくことにする。

 ミラさんは突然の話題転換に困惑したようだったけど、すぐに持ち直して、質問に答えてくれた。


 蟻が平気だとわかったところで、私は今度は紙とペンを取り出し、ミニマムアント迷宮の場所を書く。入り口はわかりにくいので、詳細に書いた。

 書き終わると、紙をダニーさんに渡す。

 受け取ったダニーさんは、地図を見て首を傾げた。


「これは、何の地図だ?」


 何の説明もなく渡したのだから、当然の反応だ。

 もちろん、ちゃんと説明する。


"迷宮 ラク すぐ 行く"


 …………。

 短い言葉を選んだ結果、すごい文になった。さすがに端折り過ぎたかな。みんな固まっている。

 私がもう一度、今度はまともな文で説明しようとしたとき、今まで黙っていたアニタさんが口を開いた。


「つまり、その地図の場所に蟻の迷宮があり、簡単なのですぐに行って攻略してきてほしい、ということですか?」


 そう!その通り!さすがだよ、アニタさん!

 私はうんうんと頷いた。


「行くのは別に構わないんだが、本当にこんな場所に迷宮があるのか?俺たちは長くこの街にいるが、蟻の迷宮があるなんて聞いたことがないぞ」

「私もよ。それに、この迷宮が今回の件にどう関わってくるかもまだ聞いてないわ」


 ダニーさんとグレイスさんが、迷宮の存在を疑う。でも、あるかどうかは行けばわかるし、ミニマムアント迷宮をクリアすれば、4人も街迷宮に行けるはずだ。

 ……行けるよね?

 不安になったので、聞いてみることにした。


"この街の迷宮 すべて攻略した?"


 さっきの反省を踏まえて、単語の羅列ではなく、文になるよう心がけた。そのおかげか、すぐに答えが返ってきた。


「ああ。オーク迷宮、ガーゴイル迷宮、マンドラゴラ迷宮、どれも攻略済だ。それで、これはどう繫がるんだ?」


 ダニーさんが再度聞いてくる。

 私は言葉を選びながら答えた。


"しられてない迷宮 ある。さっきの迷宮 攻略すると もうひとつの迷宮 行ける。そこ あやしい"


 無くても伝わるてにをはは省略したけど、意味は伝わったはずだ。

 私は全員の顔を見回した。



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