101.ぼっち少女のオーク迷宮攻略・パーティー編
ギルマスの部屋に移動すると、ギルマスが4人に説明をし、依頼をした。
魔物の異常については、身を持って実感しているためか、4人はすんなり依頼を引き受けた。
それから、ギルマスはこの1週間ちょっとの調査報告書をダニーさんに渡し、あとで目を通すように言った。
私、その報告書、見てないんだけど。しかも、辞書くらい分厚いし、一体何が書いてあるんだろう。
気になって報告書を凝視していると、視線に気づいたダニーさんが、あとで見せてくれると言ってくれた。
そこでようやく、ギルマスは私が報告書を知らなかったことに気がついたようだったけど、今更言うのはためらわれたのか、見て見ぬフリ、もとい、気づかなかったフリをした。私も、わざわざ文句を言うほどのことではないので、特に何もしなかった。
そして、話し合いの最後に、ギルマスが4人にこう言った。
「あ、そうだ。オーク迷宮に行くなら、トモリさんも連れて行ってくれ」
「ああ、わかった」
ダニーさんは即答。私には事前に何の話もなかったし、意思表示する余裕もなかった。
普通、こういうのって、当事者の私には事前に話しておくものじゃないの?しかもダニーさん即答だし。オーク迷宮って結構難しいし危険なのに、ほぼ初対面の私を連れて行って大丈夫なの?
困惑する私をよそに話は進み、ザックさん、ミラさん、グレイスさんも賛成し、私の同行が決定した。
「じゃあ、明後日の朝3刻に、オーク迷宮の前に集合でいいか?」
集合日時と場所まで決まってしまった。
私は転移で行けるから、現地集合なのはありがたい。朝3刻は確か8時くらいだったはず。少し早いけど、起きられないことはない。
特に否定する理由もなかったので、私は了承の意を込めて頷いた。
そうして、今日は解散となった。
その後、報告書を読むためにギルマスの部屋に残ったダニーさんたちと一緒に、私も報告書を読んだ。
なぜ辞書のような分厚さになったのかが気になっていたのだ。あ、もちろん内容そのものも気になっていたよ。
中身を見て、その理由は一発でわかった。図が多いのだ。文章そのものは、最初の10ページくらいで終わっていて、それから魔物の出現状況が書かれた地図などがあった。それも、各場所のそれなりに細かい地図のため、かなりの枚数になっていた。
そりゃあ、この分厚さも納得だよね。
◇◆◇◆◇◆◇
オーク迷宮に行く日が来た。
迷宮の近くに転移し、迷宮の前に4人しかいないことを確認すると、飛行魔法で飛んでいった。
「おはよう、トモリちゃん!」
「おはよう」
「おはよう。やっぱり飛んできたか」
朝から元気なミラさんを筆頭に、グレイスさんとダニーさんが挨拶をする。ザックさんは軽く会釈するだけで、何も言わなかった。
どうやら、ザックさんは寡黙な人のようだ。何も言わなくても私は構わない。だって私も喋らないから。
みんなの挨拶に、私も軽く頭を下げて返す。ダニーさんの発言から、集合場所をここにしたのは、私が飛んでくると思っていたからのようだ。実際は、ほとんど転移で来たんだけど、特に訂正はしないでおく。
挨拶が終わると、早速迷宮に入った。
第1層は、私の実力がみたいという要望に応えて、私が先頭で敵を倒しながら、最短経路を歩いた。
第2層は、途中まではダニーさんたち4人だけで敵を倒した。これは、私に4人の戦い方を見てもらうためと、ウォーミングアップのためだ。
そして、第2層の途中から第5層までは、私が4人を連れて飛行しながら進んだ。時々降りて、5人での連携の練習をしたりしたけど、ほとんど飛んで進んだため、2時間ほどで第6層に辿り着いた。
ダニーさんが盾、ザックさんが前衛、ミラさんと私が後衛兼火力、グレイスさんが支援。そんな役割分担で第6層を進んだ。
ひとりのときは、ゴリ押しで進んだ第6層だけど、連携のおかげか、4人のレベルが高いのかわからないけど、予想以上にすんなりと進めた。
歩いて進んだため、移動そのものの時間はかかったけど、敵は1体5分もかからずに倒せた。しかも、消耗も少ない。
これがパーティー戦の良さなのかな。
ひとりじゃ無理でも、みんなで力を合わせればできるし、ラクになる。
……まあ、私が誰かと恒常的にパーティーを組むことはないだろうけどね。
その後、1階層進んでは、階段で30分ほど休憩を取る、ということを繰り返した。お昼休憩は1時間で、食事のあとは交代で15分ほどの仮眠を取った。
そして、第8層を抜け、第9層のボス部屋でオークキングを倒すと、報酬を受け取って帰還した。
拍子抜けするくらい、簡単に攻略できた。
私の苦労はなんだったんだろうと落ち込むくらい、簡単だった。
◇◆◇◆◇◆◇
迷宮を出て、森を抜けるまでは、4人を連れて飛んでいった。
攻略で疲れているから歩きたくないというミラさんの主張に、全員が賛成したからだ。
もちろん私も、長時間歩いて帰るのはお断りなので、賛成した。
森を抜けて、街道に出てからは歩いた。
街の門周辺には人がいる。飛行魔法が使えることを多くの人に知られて目立つのは避けたかった。
街道から街までは、せいぜい30分くらいだから、のんびり話しながら行くことになった。
私は、水魔法で文字を作って会話する。
歩きながらだと文字を書けないし、かと言ってそのためにわざわざ止まるのもどうかと思って、昨日一日考えたのだ。
その結果、魔法で色水を文字の形に出す、というものだった。
色水を出すのは、比較的簡単だった。魔法はイメージ。様々な画像が溢れていた世界から来た私には、いろいろな色水の記憶があった。
でも、文字の形にするのは苦労した。私自身が、まだこの世界の文字に慣れていないからだ。
頑張って練習して、何とか文字の形にはなったけど、かなり不格好だし、間違いも多い。
まあ、通じないわけじゃないみたいだから、今後の練習次第かな。
私は、話をしていて、気になったことを質問した。
4人のレベルはいくつなのか、どうやって強くなったのか、攻略した迷宮はどれくらいあるのかなどだ。
質問には、主にダニーさんとミラさんが答えてくれた。
レベルは、具体的には教えてもらえなかったけど、上級職になれるくらいだそうだ。そもそも上級職になれるレベルを知らないから、あとでアニタさんに聞いてみよう。
攻略した迷宮は、全部で10個くらいだそうだ。この街と、近隣の街の迷宮を攻略したくらいなんだとか。
同じ迷宮を何度も何度も攻略して、レベルやステータスを上げ、素材を売って、お金を得て、いい装備を揃えて、今の強さになったそうだ。
やっぱり、地道にやっていくしかないのかな。
さっさと強くなりたいと思っている私には、縁遠い話だ。
レベル上げの話のついでに、ミラさんが興味深いことを教えてくれた。
「そういえば、知ってる?王都には、レベル上げを助けるポーションが売ってるのよ。レベルアップポーション、経験値獲得ポーション、各種ステータスアップポーションとかね。しかも効果は永久的なの。このポーションを使えば、簡単にレベルやステータスが上げられるのよ」
確か、ゲームにもそういうアイテムがあったな。レベルを上げられたり、経験値がもらえたりするアイテムが。ミラさんの言うポーションも、似たようなものなのかな。
もし本当なら、すごく便利だ。何しろ、ラクに強くなれる。これはいい。
私が目を輝かせていると、ダニーさんが言った。
「ああ、期待しているところ悪いが、ミラが今言ったポーションは、ものすごく高いぞ。一番安いステータスアップポーションだが、1本金貨1枚はする。経験値獲得ポーションやレベルアップポーションは、一番安いのでも1本金貨10枚。高いのだと、白金貨数枚はするらしい。ホイホイ使えるような代物じゃないぞ」
は、白金貨!確か、金貨1枚=100万円、白金貨1枚=金貨100枚=1億円……1、億、円……
流石に、そんな大金は持っていない。金貨数枚程度なら何とかできるけど、それ以上は無理だ。
衝撃を受けて落胆する私を、ミラさんが慰めてくれた。
「大丈夫よ!オーク迷宮を100回くらい攻略したら、白金貨くらい貯まるから!」
……今日やっと、手伝ってもらって1回攻略できたのに、あと99回なんて無理だよ!
余計に落ち込む私だった。
◇◆◇◆◇◆◇
宿に帰り着く頃には、すっかり夕方になっていた。
お風呂に入って、夕食を食べ、部屋に戻った私は、キューブを開けて報酬を確認した。
称号は次の通り。
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オーク迷宮制覇(5)
【称号取得条件】5人でオーク迷宮を攻略する(※ボスはオークキング)
【効果】体力+200、魔力+100、筋力+20、知力+20
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攻略特典は、上級魔力回復薬2本だった。
今回は5人の攻略だったからか、報酬がしょぼい。オーク迷宮は難易度高いって聞いていたから、報酬はもっと良いものだと思ってたんだけどなあ。
…………あ!もしかして、ボスがオークキングだったからかな?ゴブリン迷宮のときも、キングよりエンペラーの方が報酬が良いって話だったし。
いつか、最下層までひとりで難なく行けるようになったら、エンペラーを倒しに行ってみよう。