99.ぼっち少女のお迎え3
ダニーさんを主導に、四人は話を進めていく。
私は、オークキングを適当に足止めしながら、四人の話を聞いていた。
「基本はいつも通りだが、今回は地面があんなだから、ザックは離れた位置からの斬撃だけだな。攻撃はミラとそこの冒険者さんの魔法だな」
「でも、私の火属性魔法は、水属性魔法とは相性が悪いわよ」
「あー、そこはまあ、何とかしてくれ。オークキングさえ倒せればいいから」
「わかったわ」
「それじゃ、そういうことで」
どうやら、もう終わったらしい。
え?あれで終わり?肝心の魔法攻撃は何とかしろで終わったけど、ミラさんはどうするつもりなんだろう?
気になってミラさんを見ると目が合った。
「あ、足止めありがとうね。おかげで助かったわ。それで、ちょっと聞きたいんだけど、あなたの魔法でオークキングをずぶ濡れにできる?」
何の意味があるか知らないけど、聞くのが面倒だったので、できるという意味を込めて頷いた。
「できるの?そうよね。雨を降らせることができるんだもの。それくらいできるよね。それじゃ、あとで合図するから、魔法お願いね」
ミラさんはそう言うと、少し後ろに下がってグレイスさんの方を見た。
「我が主、テムド様。どうか彼の者に魔法の力をお貸しください。インテリジェンスアップ」
目が合ったグレイスさんは、ミラさんに知力アップのバフを掛けた。
バフを受けたミラさんは、目を閉じて詠唱を始める。
それと同時に、ダニーさんがタゲを取り、ザックさんが攻撃をする。
私は「氷槍」で適度に攻撃に加わりつつ、合図を待つ。
数分後、ようやく合図が来た。ただし、グレイスさんから。
「今よ!」
てっきりミラさんから来るものだと思っていたから少し驚いたけど、やることはちゃんとやる。
『水球』
オークキングを覆うくらい大きな水の球を作り、オークキングの頭上から落とした。
そして、ずぶ濡れになったオークキングに、ミラさんの魔法が放たれる。
「……、フレイムストーム!」
巨大の炎の嵐が、オークキングを襲う。
あまりにも巨大なので、周りの木に燃え移らないか心配になったけど、ちゃんとコントロールしているようで、オークキング以外を燃やすことはなかった。
しばらくすると、ドスンと音がして、オークキングが倒れた。どうやら倒せたようだ。
「ふー。疲れたー!」
ミラさんは倒せたのがわかると、その場に座り込んだ。
「お疲れ。今日はミラが大活躍だったな」
「ちょっと。私も頑張ったんだけど」
「あー、はいはい。グレイスもお疲れさん」
「みんなお疲れ」
ダニーさんがミラさんを労うと、すかさずグレイスが自分もと言う。ダニーさんは面倒くさそうにしながらもグレイスさんを労い、ザックさんも続いた。
そういえば、さっきもそうだったけど、ミラさんとグレイスさんって仲悪いのかな?
というか、シスターってもっと優しくて穏やかな人ってイメージがあったけど、人によるのかな?
私がじっとグレイスさんを見ていると、視線に気付いたのか、グレイスさんが私に近寄ってきた。
「あなた、誰?」
敵対心丸出しで尋ねるグレイスさん。
さっきまで一緒に戦ってたのに、今更そんな態度を取られると困るんだけど。
私が困っていると、ザックさんがフォローしてくれた。
「その子は俺たちを探しに来てくれた冒険者だ。おそらく、カージアの街に到着しない俺たちを心配したギルマスが、この子に捜索を依頼したんだろう」
「捜索を依頼って、到着予定は今日だったでしょ?夕方に到着してないってわかって、依頼を出して、それから捜索に来たとしたら、早すぎるんじゃない?ここから街までは馬でも数刻はかかるわよ」
「確かに」
ザックさんとグレイスさんが私を胡乱げに見つめる。
ついでに、話を聞いていたダニーさんとミラさんも集まってきた。
これは、ちゃんと説明しないとダメなやつだな。でも、どうしよう。飛行魔法と転移魔法、どっちで説明しようかな?
こんなときアニタさんがいれば、どっちがメジャーか聞けたんだけど……あ、ディーネなら何か知ってるかも。
『ねぇ、ディーネ』
『んー?どうしたの?』
『ちょっと聞きたいんだけど、飛行魔法と転移魔法って、どっちの方が使える人多いの?』
『そんなの、飛行魔法に決まってるよ!転移魔法はすっっごく、難しいんだから!』
『そうなんだ。ありがとう、教えてくれて』
『ううん。何かあったらいつでも聞いてね!』
転移魔法が難しい理由を聞きたかったけど、そんなことをしたら四人を待たせすぎてしまうので諦めた。また今度聞こう。
それから私は、「飛翔」で少し浮き上がってみせた。
「えっ!浮いてる!?もしかして、飛行魔法?」
ミラさんが聞く。私は頷くと、地面に降りた。
「飛行魔法が使えるのか。確かに、空を飛べば短時間で来ることは可能だな。さっきも手伝ってくれたし、悪い人じゃないだろう。疑って悪かった。俺はダニーだ」
「ザックだ。疑ってすまない」
「……グレイスよ。その、ごめんなさい」
「私はミラ。さっきは本当に助かったわ。あなたがいてくれなかったら、どうなっていたか……。それなのに疑ったりしてごめんなさい。協力してくれてありがとう」
ダニーさんに続いて、他の人たちも謝罪と自己紹介をしてくれた。そういえば、まだ自己紹介もしてないんだった。
私は、ここに着いたときに用意した紙を取り出して見せた。
「ん?紙?えーと、何なに……。『私はカージアの街のホウキンシャギルドマスターから依頼を受けて、ひなさんを探しに来ました。』書き間違えてるところがあるけど、事情はわかったわ。えーと、あなた名前は?」
急いで書いたので、間違えてしまったようだ。しかも、名前を書き忘れている。
私は急いでペンを取り出して、名前を書いた。
「トモリちゃんね。……単刀直入に聞くけど、あなた、喋れないの?」
ミラさんが聞いてきた。単に気になったから聞いただけという感じで、特に不快には感じなかったし、誤魔化しても意味がないので、素直に頷いた。
「そう……」
「……そういえばミラ。さっき、何でオークキングに水を掛けさせたんだ?丸焼きにするなら、水がない方が良かっただろう?」
ミラさんが言葉に詰まったのを見かねたダニーさんが、話題を変えてくれた。
ミラさんもダニーさんの意図に気付いたのか、すぐに話題に乗ってきた。
「茹で豚にしようと思ったのよ」
「茹で豚?あれはどう見たって豚の丸焼きでしょ?」
「う……ちょっと失敗しちゃったけど、茹で豚にするつもりだったのよ。もう、倒せたんだからいいでしょ?」
「えー、どうしようかしらー」
「グレイス!」
ミラさんとグレイスさんが言い争いをしている。ただ、険悪というよりはじゃれ合っているような感じだ。
それにしても、茹で豚にするつもりだったんだね。
茹で豚より、豚の丸焼きの方が美味しそうな気がするけどなぁ……。