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10.ぼっち少女の初宿泊1


 親方への挨拶が終わると、私とアニタさんは外に出た。

 居るうちに多少慣れたとはいえ、解体部屋の空気はまずかったので、外の空気がとてもおいしく感じた。


「トモリさんは、これからどうするおつもりですか?」


 深呼吸しておいしい空気を胸いっぱいに取り込んでいると、アニタさんが聞いてきた。私は、さっきもらった文字の表を取り出して、「や」と「ど」の文字を指さす。


「ああ、宿に泊まるんですね。どこかアテはあるんですか?」


 首を横に振ると、アニタさんは、


「では、私がおすすめの宿を案内しますね。あ、差し障りなければで良いのですが、今、所持金はどれくらいですか?」


 ここまでのやり取りでアニタさんは信用できる人だと思ったので、さっきもらった布袋を見せる。

 少し間をおいて、アニタさんが言った。


「……もしかして、さっきの売却額が全財産ですか!?」


 頷くと、アニタさんは呆れたように言った。


「よくその所持金額で、登録料を払う気になりましたね。もしウルフが高値で売れなかったらどうするつもりだったんですか?」


 どうやら、私を心配してくれたらしい。私は、アニタさんを安心させるために、もしウルフが売れなかったときの代替案を伝えることにした。

 伝え方はもちろん、文字の表を使って、一文字ずつ指さしていく方法だ。机とペンがないので文字が書けないので仕方ない。できるだけ短くした方がラクなので、「またさがす」と示した。

 それを見たアニタさんは、また呆れた口調で言った。


「つまり、売れそうなものが見つかるまで探す予定だったと?」


 頷く。

 アニタさんは、まだ何か言いたそうな顔をしていたけど、溜息をつくと話題を変えた。


「はあ。まあ、いいでしょう。信頼できる宿にご案内致しますので、ついてきていただけますか?」


 宿まで案内してくれるらしい。アニタさんは本当に優しい人だなぁ。

 私は、アニタさんに気付かれないように小さく笑みを浮かべると、アニタさんの隣を歩いて宿に向かった。






 その宿屋は、冒険者ギルドから歩いて5分ほどのところにあった。

 看板は、この世界の文字で「ほっこり亭」と書いてあるらしい。らしいというのは、まだこの世界の文字を読み慣れていなくてわからず、アニタさんに教えてもらったからだ。ちなみに、ローマ字で表すと「oh"k'ir-eti」のようになる。小さい「っ」は「"」で表すらしい。相変わらずややこしいなぁ。



「ここは、女性冒険者専用の宿で、防犯面もしっかりしていますので、安心して泊まれると思います」


 宿の入り口で、アニタさんはそう説明してくれた。


「では、大変申し訳ありませんが、私はそろそろ仕事に戻らないといけないので、ここで失礼させていただきます。もし何かありましたら、冒険者ギルドにいらしてください」


 てっきり、部屋を取るまで付き合ってくれるのかと思ったけど、さすがにそこまでは時間的に無理らしい。でも、ここまで付き合ってくれただけでもありがたいので、特に引き留めるようなことはせず、感謝の意を込めて頭を下げて見送った。


 私は、アニタさんが人混みに紛れて見えなくなるまで見送ってから、ほっこり亭に入った。

 入り口のドアを開けると、カラン、と鈴の音が鳴った。


「いらっしゃいませー」


 中に入ると、カウンターには私と同じ年頃の女の子がいた。茶色いショートヘアの活発そうな女の子だ。

 私は、軽く会釈をしてカウンターまで歩く。

 私がカウンターに着くと、女の子は帳簿を取り出して言った。


「ほっこり停へようこそ!私はここの娘のカリーナです。本日はご宿泊ですか?」


 見た目を裏切らない元気な接客だ。

 私が頷くと、カリーナは帳簿を差し出した。


「では、ここにお名前をお願いします」


 差し出された帳簿に、名前を書く。人名は一文字ずつ書くと教わったので、私でも書けた。それに、いつの間にか表の文字はすべて頭に入っていたので、スムーズに書くことができた。

 この記憶力の良さは、異能の「記憶保存セイヴィング・メモリー」のおかげなんだろうな。記憶力が良いって、便利だよね。

 名前を書き終わると、帳簿をカリーナに返す。


「ありがとうございます。えっと、トモリさんですね。宿泊料金は、1泊銅貨10枚になります。食事は、夕食が銅貨7枚、朝食が銅貨4枚です。最初に夕食と朝食を両方頼んでおくと、合わせて銅貨10枚になります。それから、入浴は1回銅貨10枚いただいています。何泊なさいますか?」


 カリーナの説明を聞いて、何泊するか計算する。

 食事付きにして、1泊銅貨20枚。お風呂は入りたいけど、所持金が少ないし今日はあまり汚れてないからなしでいいかな。

 今、銅貨100枚持ってて、お昼ごはんとか、生活に必要なものとかを買うことを考えると、それなりに残しておきたいから、とりあえず2泊かな?

 私は手で2を示す。


「2泊ですね。食事はいかがなさいますか?」


 伝え方に困ったけど、とりあえず頷いておけば向こうが詳しく聞いてくるだろうと思い、頷いた。

 すると、カリーナは困った顔をして聞いてきた。


「えっと、セットの方でよろしいですか?」


 一発で正解を聞いてきたので、頷く。


「入浴は」


 首を横に振る。

 私の答えを帳簿に書くと、カリーナは確認してきた。


「えー、確認ですが、トモリさんは、セットの食事付きで2泊、入浴はなしでよろしいですか?」


 合っているので頷いた。料金は先払いだったので、銅貨40枚を出して支払った。

 カリーナは銅貨を数えて過不足がないかを確認すると、部屋の鍵をくれた。


「ご宿泊ありがとうございます。お部屋は、2階の3号室になります。夕食は、夜1刻からとなっておりますので、それまでおくつろぎください」


 ……夜1刻って何時だろう?

 疑問に思ったけど、わざわざ聞くのも面倒だし、時間になれば匂いとかでわかると思ったので、そのまま部屋に行くことにした。

 




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