94.ぼっち少女の悪魔契約2
『ねぇ、ディーネ』
「何?」
『さっきまで片言だったのに、いつの間にスラスラ話せるようになったの?』
「さっきだよ。契約すると、契約者の使っている言語を習得できるんだ。せっかく契約したのに、意思疎通に問題があったら困るでしょ?」
『そうだね』
確かに、いつまでも片言で話されるとツライものがある。普通に会話ができるに越したことはないよね。
……まあ、私は念話でしか会話するつもりはないけど。
「あ、もう念話じゃなくてもいいんだよ?私だって念話で話してないでしょ?念話は一応繋げてるけど、ずっと繋ぎっぱなしっていうのも疲れるし、もう解除していいよね?」
まるで私の心を読んだようなタイミングで、ディーネが言う。
念話を解除されるとものすごく困るので、急いで止めた。
『待って!念話を解除するのはやめて!』
「え?何で?」
『そ、それは……』
今まで、いろんな人に話せないことを伝えてきたのに、ディーネにそのことを言うのは躊躇われた。
なぜだろう?
最初から、念話で普通に話してたからかな?
……そういえば、念話でなら普通に話せるんだなぁ。不思議だ。
会話をするのは、念話でも念話じゃなくても変わらないのに。
まあ、それは置いといて。
契約した以上、いつまでも隠しておくことはできないので、素直に言うことにした。
『実は…………私、口が利けないの』
「そうなの?身体的欠損なら、願ってくれれば治せるよ?代償はもらうけど」
私の渾身の告白に、サラッと返すディーネ。しかも、内容がちょっと怖い。
代償を求めるところは、やっぱり悪魔なのだと改めて実感した。
『いいよ。私はこのままでもいいって思ってるから』
「えーっ!それは困るよ!トモリが話せなかったら、これからずっと、話をするときは念話使わないといけないじゃん!』
声音からでも、ディーネがプンプン怒っている様子が伝わってきた。
意外と子供っぽくて、かわいいかも。
『筆談すればいいじゃない』
「私ニンゲンの字は読めないよ?」
『えっ?そうなの?』
「そうだよ」
話すのはできても、読むのは無理なのか。この世界に来たばかりの頃の私みたいだ。
あ、ディーネも文字を覚えればいいよね。
私だって覚えられたんだから、ディーネだってできるはず。
『文字覚えたら?』
「え、ヤダ。それより、良い方法思いついたんだけど、聞いてくれる?」
『う、うん』
私の提案は、超キッパリ断られてしまった。あまりにもキッパリだったので、ちょっとショックだ。
でも、とりあえずディーネの提案は聞いてみる。
「あのね、私があの方に頼んで、トモリが念話のギフトをゲットできるようにしてもらうの!そうすれば、トモリが必要なときに好きなだけ念話を使えるようになるでしょ?ね?どうかな?」
ディーネが言う「あの方」って、リリスのことだよね?
そういえば、前にリリスに、好きな報酬を選んでいいって言われたことがあったっけ。
つまり、リリスは自由に報酬を与えることができ、それを利用して、私に念話のギフトを取得させようということか。
まあ、一理あるかな。結局、私が念話を使えるようになれば、ディーネに負担をかけなくて済むんだし。
『いいと思う。それでいこうか』
「ホント?しゃあ、早速迷宮を攻略しに行こう!すぐ攻略できそうなところで、スキルやギフトをゲットしたことがない迷宮ってどこかある?できればラクなおまけ迷宮がいいんだけど」
『え?今から行くの?』
「うん。まだ昼間だし、いいでしょ?」
ディーネはさも当然という感じで返事をした。
今から行くのか……と思ったけど、断る理由もなかったので、迷宮攻略に行くことにした。
◇◆◇◆◇◆◇
その後、私は渋々ミニマムアント迷宮を攻略し、無事「念話」のギフトを手に入れた。
もう二度とミニマムアント迷宮には行きたくなかったけど、手頃な迷宮がそこしかなかったので仕方なく行くことになった。というか、ディーネに押し切られた。
契約して、一応私が主人で、ディーネが使い魔的な関係になったのに、なんだかディーネに主導権を握られている気がする。
まあ、うまくやっていければそれでいいんだけどね。
落ち着いたところで、ディーネから名前をもらった。
契約悪魔が、契約者につける名前だ。
悪魔の力を最大限引き出したいときは、この名前を用いて術を使うらしい。
ちなみに、この名前は、契約悪魔に関係する名前にするのが普通で、多くの場合、悪魔の名前から取られる。
私は、ナディアという名前をもらった。
由来を聞いたら、ディーネを後ろから読んで、名前っぽくしてみたものらしい。
正直、どうかと思ったけど、ウンディーネの契約者には、代々同じ名前がつけられるそうだし、なにより、ディーネが気に入っているらしいので、素直に受け取っておいた。
それから、契約したことで得た力について、詳しく説明してもらった。
契約したことで、いくつかのスキルやギフト、称号が増えていた。
◆◇◇◇◇◇◆◇◇◇◇◇◆
【スキル】
契約悪魔術(ウンディーネ)
【発動】任意
【説明】ウンディーネと契約することで行使可能になった術。S〜Eランクまで各1つずつ、計6種類の術があり、内容は契約者と契約悪魔の性質や相性によって決まる。詳しくは契約悪魔に聞いてみてネ。
【使用方法】各術の名称を唱える。
魔術武装 ※習得条件未達成のため、使用不可
【発動】任意
【説明】魔術を用いて、魔力によって構成される鎧を纏う。鎧の形状は、任意に変更できる。
【使用方法】スキル名を唱える。
〔習得条件〕スキルに頼らず魔術武装を発動させる。
【ギフト】
生命増加
【発動】自動
【説明】「蘇生」で蘇生できる回数が増える。
【称号】
ウンディーネの契約者
【称号獲得条件】ウンディーネと契約する。
【効果】契約悪魔術(ウンディーネ)及び魔術武装のスキル、生命増加のギフトを獲得する。また、黒魔術のうち、「防御」及び「治癒」の書を使用できるようになる。
◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆
一部説明におかしなところがあるので、ウンディーネに詳しく説明してもらう必要があったのだ。
それで、納得が行くまで聞いた結果、一つの結論が出た。
悪魔と契約しても、強くなるには時間がかかる。ということだ。
流石に、契約してすぐに強くなれるとは思ってなかったけど、ディーネの話を聞くと、だいぶ時間がかかりそうなことかわかった。
まず、「契約悪魔術」は、「魔術武装」が使えるようにならないと、まともに使えないらしい。
魔術武装を発動していなくても使えるけど、威力や制御がかなり低くなるらしい。
契約悪魔術は失敗すると、最低ランクの術でも大惨事になるそうだ。過去の大惨事の例を聞いたところ、自分だけじゃなく、周りも巻き込むタイプが多かったので、危険な賭けには出ず、正規の手順を踏んで使うようにしようと思った。
次に魔術武装だけど、説明にあるように今はまだ使えない。
鍛錬して、自力で発動できるようにならないと使えないって、そんなスキルアリ!?って、思わずツッコんじゃったよ。
ディーネ曰く、魔術武装はスキルがなくても使えるものらしい。
じゃあ、何でスキルがあるのかというと、スキルを持っていると無詠唱で発動できるらしい。スキルがないと、必ず詠唱しないといけないため、スキルの有無で使い勝手がかなり変わるそうだ。
魔術武装を発動すると、ステータスが大幅にアップするらしいので、頑張って習得しよう!
さて、ギフトと称号の内容は、読んだ通りなのでいいとして、問題は、称号の効果で使えるようになった黒魔術の書だ。
黒魔術は、全部で4つの系統がある。
魔界からあらゆるものを喚ぶことができる「召喚」。
攻撃に特化した「攻撃」。
防御に特化した「防御」。
回復・支援に特化した「治癒」。
黒魔術は、基本的に魔術書を持っていないと使えない。
でも、魔術書を持っていても、訓練なしには使えない。
そして、その訓練は、決して一朝一夕で終わるようなものではない。
それに、悪魔語の勉強だってしないと、魔術書が読めない。
つまり、ものすごーく時間が掛かりそうだということだ。
まあ、時間が掛かっても強くなれればそれで良かった。
でも、今回新しく使えるようになった系統は、防御と支援系。ひとりで戦う私には、あまり役に立ちそうにない。
あ、どこで何があるかわからないから使えるようにはするよ?けど、どうせなら攻撃系が良かったなぁ。
強力な術で敵を一掃!ってやりたかったなぁ。
はぁ…………。
私は深い溜息をついた。