92.ぼっち少女と宝石
合流予定時間にオーク迷宮の入口に転移する。
転移前に確認したら、ハティさんしかいなかったので、そのまま転移した。ハティさんは、私が転移を使えることを知ってるからね。
「わっ!びっくりした!何かと思ったら、トモリちゃんかぁ。もう、驚かさないでよね!」
いきなり目の前に現れた私に、ハティさんが驚いて文句を言う。
こんなに驚かれるとは思っていなかったし、そもそも驚かせるつもりはなかったので、素直に謝っておいた。
「そっちはどうだった?」
調査の結果を聞かれたので、特に何もなかったと首を横に振った。
「そう。こっちも何もなかったわ。やっぱり、迷宮の中に潜んでいる可能性が高いわね。オーク迷宮の下層なら、隠れるのにはうってつけだもの」
ハティさんはオーク迷宮の入口を見ながら悔しそうに言う。
「ああ、でも、オーク迷宮の下層なんて、簡単に行けるような場所じゃないわ。前に攻略した時も、かなり苦労したし、今の私たちでは無理ね。戻って方法を考えましょう」
そう言うと、ハティさんは街の方へ向かって歩き出したので、私は慌てて後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇
森の中を歩きながら、私はさっきの話で気になっていたことを質問した。
さっき、ハティさんが、オーク迷宮を攻略したことがあるようなことを言っていたのが気になったのだ。
「ん?オーク迷宮を攻略したこと?あるわよ。もう随分と昔のことだけどね。その時は確か、2パーティー合同で攻略したのよね。人数は、10人くらいだったかしら。それでも、オークキングにやっと勝てたって感じだったわ。もしオークエンペラーだったら、全員やられてたかもしれないわね」
当時のことを思い出して、苦笑いするハティさん。
あのオーク迷宮を攻略するなんて、ハティさんは意外と強いのかもしれない。
ついでに、職業やレベルも聞いてみた。
「あれ?言ってなかったっけ?」
聞いたら、ハティさんに不思議そうな顔をされた。ハティさんの中では、話してあることになっていたらしい。
いや、聞いてませんから。
私は心の中でそう否定すると、首を横に振った。
「そう?一緒に迷宮に行ったときに話してたつもりだったのだけれど……。まあいいわ。えっと、私の職業は、真・剣術士よ。レベルはちょうど150。あ、レベル150と言っても、私はちょっと特殊で、同じレベルの人よりもステータスが低いのよね」
真・剣術士って、確か上級職だったよね?ついこの間、アニタさんに教えてもらったから覚えてる。
しかも、レベル150!私が今レベル18だから、約8倍!すごいなぁ。
でも、前に戦ったときは、そんなにレベルが高そうに見えなかったな。ステータスが低いって言ってたけど、そのせいかな?
というか、そもそも何でステータスが低いんだろう?
気になったので聞いてみた。
「ステータスが低いのは、エルフの特性のせいよ。エルフは、レベルアップやステータスアップに必要な経験値が、人族の倍必要なの。これはハーフエルフも同じ。でも、私は精霊の加護で、レベルアップの経験値だけ人族と同じになっているから、レベルとステータスに差が出ているのよ」
へぇ。経験値とか、そのあたりはいろいろと複雑なんだね。みんな同じ比率だと思ってたけど、そうじゃなかったんだ。
ん?ということは、人族で、しかも称号の効果で経験値2倍の私は、エルフの4分の1の経験値で強くなれるってこと?
つまり、ハティさんの4倍の早さでステータスが上がる……。
私はチラッと隣を歩くハティさんを見た。
ハティさんは、自分のステータスのことを気にしているようだし、このことはハティさんには黙っていよう。
またひとつ、他人に言えない秘密が増えた。
◇◆◇◆◇◆◇
街に着くまで、私はハティさんから冒険者時代の昔話を少しだけ聞いた。
少しというのは、途中で歩くのが嫌になった私が、飛行魔法で街の近くまで行くことを提案し、ハティさんが了承したので、歩いている時間は30分もなかったからだ。
街に着いてからは、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かい、私たちを待っていたギルマスとアニタさんと情報交換や今後の作戦会議をした。
今日のところはどちらも成果なしで、私とハティさんは、明日から迷宮の調査になった。
最初はガーゴイル迷宮だから、二人だけでも問題ないということになった。
私ひとりの方が早い気がしたけど、3人に押し切られてしまったので、仕方なくハティさんと行くことになった。
はぁ……。面倒だなぁ……。
解散して宿に戻った私は、入浴と食事を済ませると、部屋で本を読んでいた。
読んでいる本は、黒魔術について書かれている本だ。
前に市場で買った本の中に、偶然混ざっていたので、ちょうどいいから読んでみたのだ。
内容はかなり専門的かつ具体的で、それなりに信憑性はありそうだった。
評価が微妙なのは、私が黒魔術についてよく知らないのと、本に書かれていた呪文のスペルや翻訳の間違いが多かったからだ。
多少違っていても発動はできるみたいだけど、本として出版しているのだから、こんな間違いはないようにするべきだと思う。
でも、ある程度の裏付けは取れたし、ウンディーネとの契約をどうするか決める手助けにはなったから、まあ良しとしよう。
読み終わって本を閉じると、夜の10時を回っていた。
今日は一日外にいて疲れたし、明日も迷宮に行くから、早めに寝よう。
私は遅刻しないように、集合時間より早めに目覚ましをかけると眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇
翌日の朝。
冒険者ギルドのギルマスの部屋でハティさんと合流すると、そのまま転移魔法でガーゴイル迷宮に行った。
午前中一杯かけて、ハティさんとガーゴイル迷宮の隅々まで調査し、ついでにもう一度攻略した。
攻略報酬は、ターコイズという、直径3センチくらいの青色の斑模様の宝石がひとつだけだった。
前にもアクアマリンという、青色の宝石が出たことがあったけど、アクアマリンと比べるとターコイズは緑がかっているし、大きさも2回りくらい小さい。
でも、綺麗な色だし、模様もお洒落だ。
ハティさんに使い道を聞くと、やっぱりアクセサリーが多いという答えが返ってきた。
ただ、アクセサリーと言っても、お洒落のためだけのアクセサリーの他にも、石に何らかの効果を付与して装備につけるタイプのアクセサリーもあるそうだ。
一日かかるはずだったガーゴイル迷宮の調査が半日で終わった(終わらせた)ので、余った時間でハティさんにおすすめの加工屋さんを教えてもらった。
カージアの街には何度か来たことがあるそうで、加工屋さんの店主も、ハティさんと親しげに話していた。
私はハティさんの紹介ということで、お得意様価格で加工をしてもらえることになった。
加工の相場はわからないけど、初めに頼んだターコイズの加工の値段が銀貨1枚と安かったので、ついでにアクアマリンの加工も頼んだ。
ちなみに、オプションなしのノーマル加工だと、宝石はペンダントになるそうだ。
そこらへんは特にこだわりがなかったので、おまかせした。
小さめの宝石だったからか、加工はすぐに終わった。
加工の様子は見れなかったけど、隣にある加工済の宝石を売っている店を見ていたら、終わったと呼びに来てくれた。
もともと綺麗だったけど、加工された宝石は、元のよりずっと綺麗だった。
ネックレスの紐の色とも合っていて、思わずうっとりと見つめてしまった。
いっそう綺麗になった宝石を大切に仕舞うと、ハティさんと一緒に加工屋さんを離れた。
もし次に宝石の原石を手に入れたときは、ここに加工をお願いしよう。
……次のことを考えている私は、自分でもわかるくらい頬が緩んでいた。
やっぱり女の子なら、宝石のついたアクセサリーって嬉しいものだよね!