91.ぼっち少女の悪魔召喚・再
ミニマムアント迷宮を攻略した後、昼休憩を取り、私は再び調査に戻った。
特に問題もなく調査は進み、予定よりだいぶ早く合流予定地点のオーク迷宮に辿り着いた。
辺りを確認したけど、ハティさんはまだ来ていないようだ。
時間を確認すると、予定より1時間以上早かった。
うーん……。どうしよう?
ハティさんの方に向かう?
でも、入れ違いになったりしたら嫌だな。調査しながらだから、真っ直ぐ進んでるわけでもないだろうし。
かと言って、ここでずっと待ってるのもなぁ。
暇だし、人が来たら嫌だ。
…………。
私はオーク迷宮をじっと見つめながら考えた。
そして、結局、少しだけでも迷宮攻略を進めようと、迷宮に入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇
第6層に向かおうと思ったけど、やっぱりやめて、第2層に向かった。
今の私では、第6層のオークには勝てない。勝てるように対策を錬る必要がある。
私は、攻略を進めるよりも、対策を練る方を優先することにした。
上級者パーティーに寄生するのも、他の大陸に行くのもしたくないし、強くなってからまた戻ってくるのも面倒だ。
どうせ来たのだから、この街にいるうちに攻略したい!
でも、今のままでは攻略できない。だから、攻略するために、いくつか方法を考えた。
1.レベルやステータスを上げる。
2.強力な魔法を開発する。
3.他力本願!
以上3つだ。
そして、この3つの中で、一番手っ取り早いのは3だと思う。
なぜそう思ったのか。
まず、1だけど、レベルが上がるにつれて、必要経験値が多くなってきたから、レベル上げは今後難航していくと思われる。
ステータスはレベルが上がらなくても、特定の行動で上がるみたいだけど、劇的に上がるわけじゃない。
つまり、1の方法は時間がかかる。
次に、2だけど、そもそも、どんなに強力な魔法を開発しても、使う私のステータスが低かったら大きな効果は得られない。
ないよりはマシだと思うけど、開発には時間がかかりそうだ。
そういうわけで、自分を強くするのは時間がかかるため、他のヒトの力を借りる……というか、助けてもらうことにした。
私は、「黒魔術の書 ~第一章 召喚〜」と、リリスからもらった辞書と文法書をもとに、呪文を解析したノートを取り出した。
そう。悪魔に助けてもらうのだ!
人に頼むのが難しくても、召喚で喚び出せる悪魔なら、私でも頼める。
しかも、どうやら召喚した悪魔が倒せた魔物の分の経験値は、すべて召喚者のものになるらしいから、経験値も稼げる。
敵も倒せて、経験値も稼げ、しかも今すぐできるなんて、一石二鳥!いや、一石三鳥かな。
こんなにオイシイ方法があるんだもの。やらない手はないよね。
私は黒魔術の書を右手に、ノートを左手に持ち、心の中で悪魔召喚の呪文を唱える。
前回は意味もよくわからずやっていたから、なかなか成功しなかったけど、今回はもう大丈夫。
"Teliar to Millkis Undine-nwu, Jackdelis nua Le ne Tegole sa des'ei, Le or Weth Deacher ce Dan'kaim'ei-tamaw'e."
(水の精霊ウンディーネよ、魔界より我が元へ現れ、我にその力を示し給え)
唱え終わると、前回同様紫色の魔法陣からウンディーネが姿を現した。
それと同時に、クラっと目眩がして、思わず膝をついてしまった。
悪魔召喚で血を使ったせいで、貧血になったのだろう。
前回の経験を活かして、すぐに「限定蘇生」で貧血を治す。
『ダイジョブ?トモリ』
どうやら召喚されたウンディーネは、前回と同じ個体のようだ。
私の名前を呼びながら、パタパタと羽を動かして近寄ってくる。
『う、うん。大丈夫。ちょっと、貧血になっただけ、だから』
会話が久しぶりなのと、ウンディーネの接近で、かなりぎこちない回答になってしまった。
いくらウンディーネが友好的とはいえ、悪魔であることに変わりはない。怖いものは怖いのだ。
まあ、最初よりはだいぶマシになって、会話くらいはできそうではあるから、少し頑張ろう。
貧血が治った私は、立ち上がった。
『ダイジョブ、良かった』
私が立ち上がったのを見て、ウンディーネは柔らかく微笑んだ。
『アリガトウ。また、喚んでくれタ。ウレシイ。契約、してくれるの?』
今度は無邪気な笑顔で、ウンディーネが尋ねてきた。
そういえば、前にも契約って言ってたけど、契約ってなんだろう?
知らないなら知ってる人に聞けばいいよね。
『契約って何?』
私が尋ねると、ウンディーネが説明してくれた。
『契約ハ、ニンゲンと悪魔でするモノ。契約すると、ニンゲン、契約した悪魔のチカラ、使える。喚ぶよりイッパイ使える。それに、血、少しにナル。エッと……ウマい?便利?何かチガウ……。ステキ?ジャナクテ、オトク?って言うノ?そんなカンジ』
なるほど。契約すると、いろいろなメリットがあるわけか。
でも、うまい話には裏がある。
デメリットがないかも聞いておかないと。
『えっと、良いところだけじゃなくて、悪いところも教えてほしいな』
『悪いトコロ?ウーン…………無い?』
『本当に、無いの?』
あんなにメリットがあるのに、デメリットがひとつもないはずがない。
きっと何かあるはずだ。
私が再度尋ねると、ウンディーネはしばらく悩んだ後、思い出したように言った。
『アッ!契約したらニンゲン、困るコト、あった!』
『あるの?』
『ウン。まず、血を使い過ぎるト、死ヌ』
……かなり大きなデメリットだ。でも、これは黒魔術を使うことでも同じことが言える。契約しなくても、血を失えば死ぬのだ。
だから、とりあえずこれは置いといていい。
『次に、ニンゲン、キライになる』
『えっと、それは、どういう意味?他の人を嫌いになるってこと?』
『チガウ。ニンゲン、悪魔キライ。だから、悪魔の契約者、ニンゲンキライになる』
ああ、悪魔と契約すると、他の人から嫌われるのね。
元の世界でも、悪魔憑きというのがあったし、悪魔を忌み嫌うのはどの世界でも同じなんだね。
でも、私は知り合いも少ないし、そもそもあまり人と関わるつもりなんてないから、大きな問題ではないかな?
『契約してるかどうかって、他の人はわかるの?』
『悪魔のチカラ使う、話しスル、ソレ以外、ワカラナイ』
ふむ。自分からバラさない限りはバレる心配はなさそうだね。
『他は?』
『他ハ……………無い?』
そう答えるのとほぼ同じタイミングで、ウンディーネがキラキラと光り始めた。
『ア……もう時間……』
どうやら、これ以上召喚しておくことはできないようだ。
だいぶ話はできたけど、まだ足りない。
もう少し情報が欲しかった。
『ま、待って!もう少しだけ!』
慌てて呼び止めたけど、それだけじゃ何の意味もなかった。
ウンディーネはどんどん光の粒子になって消えていく。
『また喚んで!ゼッタイ来るカラ!』
『すぐに喚ぶから』
『ダメ!』
すぐに喚ぶと言うと、ウンディーネは強く否定した。
『24時間空ける。コレ大事。ゼッタイ守る。守らないト――』
そこで、ウンディーネは消えた。時間切れだ。
すぐに喚ぼうかとも思ったけど、ウンディーネの警告が気になったのでやめておくことにした。
再召喚まで時間を開ける理由って何だろう?黒魔術の書を見ればわかるかな?
それに、契約についても調べてみよう。
ウンディーネの話が本当なのか確かめないと。
その後、私は、滅多に人が来なくて安全な第6層への階段に転移して、時間になるまで黒魔術の書を読み続けたのだった。