90.ぼっち少女のミニマムアント迷宮攻略
アニタさんとハティさんに再会した翌日。
私はハティさんとカージアの街の外に来ていた。
今日は、ギルマスからの依頼の調査をする予定だ。
戦闘ができる私とハティさんが街の外の森や迷宮の調査、ギルマスとアニタさんが街の中での情報収集をすることになり、今日、こうしてハティさんと森を歩いているのだ。
歩きながら、ハティさんにアニタさんのことを聞いた。
私がフィルリアの街を去った後、アニタさんの担当冒険者のひとりが亡くなり、アニタさんはそのことで精神的に不安定になっていたそうだ。
そこに、私がオーク迷宮の第6層という高難易度の階層に行ったという話を聞いて、無茶をして亡くなった冒険者と私を重ねてしまったんだろうと、ハティさんは話してくれた。
「アニタほどじゃないけど、私もトモリちゃんのこと心配してるのよ。トモリちゃんが強いのは知っているけれど、無敵ってわけじゃないんだから、無茶はダメよ」
ハティさんの忠告に頷く。
いくら「蘇生」の異能で蘇生ができるといっても、傷を負えば痛い。それに、蘇生にも条件があるし、その条件を満たさなければ蘇生はできない。
死にたいわけじゃないから、やられないようにこれまで以上に気をつけないとね。
ハティさんとは、ガーゴイル迷宮の入り口で別れた。
ここから、森の中をそれぞれ反対方向にぐるりと周り、だいたい半周したところで合流する。
今日はとりあえず、森の中の調査のみで、迷宮は後日やることになっている。迷宮は広いし、時間もかかるから後回しになったのだ。
ちなみに、合流予定地点は、街を挟んで反対側にあるオーク迷宮だ。迷宮なら良い目印になるということで、合流地点に選ばれた。
ただ迷宮をスタートとゴールにすると、どうしてもきっちり半周ずつということにはならない。私とハティさんとでは、私のほうが少し距離が長くなってしまっている。
でも、私には飛行魔法があるということをハティさんたちは知っているから、私のほうが距離が長くても問題ないだろうと言われてしまった。
まあ、最初から飛んでいくつもりだったからいいんだけど、なんか不公平な気がしてちょっと不満だ。
あとで何か美味しいものでも奢ってもらおうかな。
そんなことを考えながら、私は森の中を器用に飛んでいった。
飛行もだいぶ慣れたもので、森の中のような障害物が多いところでも、問題なく飛べるようになった。
これで、迷宮の通路の狭い階層でも、飛んで進むことができるね。
調査の方は、「探索」を併用して飛ぶことで、広範囲を効率よく調べることができた。
冒険者らしき人がいるのがわかると、「隠形」で姿を隠したまま、冒険者が目視できるところまで近づき、鑑定する。
レベルが異様に高かったり、テイム系のスキルを持っていたりしないかを確認して、問題なかったら次に行く。
今回の調査の主な目的は、怪しい人物がいるかどうか。
ついでに、迷宮の第2層以下の魔物がいたら討伐する。第2層以下の魔物は、第1層の魔物より強いし、本来外にいるはずのない魔物だから、他の冒険者とかに見つかる前に、できるだけ討伐したほうがいいということになったのだ。
ただ、これはあくまでもついで。見つけたら討伐する程度で、積極的に探す必要はないそうだ。
まあ、私にとっては瞬殺できる雑魚だし、移動も飛行魔法で簡単なので、見つけたら討伐するようにしている。
素材もゲットできて一石二鳥だしね。
しばらく森を調査した私は、予め「地図」につけていた目印の場所に辿り着くと、飛行魔法を解除して森に降り立った。
ここは、残りの迷宮の予想地点のうちの1つだ。
現在わかっているカージアの街の迷宮は、ガーゴイル迷宮、マンドラゴラ迷宮、オーク迷宮の3つ。
リリスからもらった「全世界迷宮辞典」によると、迷宮は各街5つずつで、そのうちの1つは「街迷宮」という、その街の迷宮の総合版みたいな迷宮らしい。
となると、カージアの街には、まだ見つかっていない迷宮があと1つあることになる。
そして、フィルリアの街での経験から、残りの迷宮は、簡単には見つからない場所にあると思う。
ホーンラビット迷宮の入り口は岩に紛れていて、見つけるのに苦労したからね。
どこにあるかも、どんな入り口なのかもわからない迷宮を探して、森の中を歩き回る。
合流予定時刻は夕方で、今はまだ午前中。時間はたっぷりある。
私は、茂みや岩の陰、洞窟、崖など、普段人が行かないような場所を徹底的に探した。
でも、なかなか迷宮らしきものは見つからず、そろそろお昼時になろうとしていた。
……ここはハズレかなあ。
予想地点は2つあった。今探している迷宮と、街迷宮の分だ。
街迷宮は、他の4つの迷宮をすべて攻略しないと出現しないため、今の私には見つけられない。
ここにあるのが街迷宮だとしたら、見つからなくても仕方がない。
午前中いっぱい探しても見つからないし、ここは諦めて、もう1つの方を探そう。
諦める決心をすると、気が緩んだのかお腹が鳴った。
ちょうどいいので、私は森の木々の向こうにチラッと見える切株を椅子代わりにして、お昼を食べることにした。
大した距離でもないので、歩いて切株に向かっていると、突然、足元の地面が崩れた。
落とし穴のように、踏んだところの土が下に落ち、予想外の出来事に反応が遅れた私は、土と一緒に落ちていった。
……痛い。
落とし穴は真っ直ぐではなく、滑り台のように緩くカーブしていたため、転落死は免れた。
でも、代わりに、デコボコの滑り台を滑った足とお尻が傷だらけになってしまった。
しかも、土がついて汚れている。
私は先に「清潔」で汚れを落としてから、「治癒」で傷を治療した。
一瞬で汚れが落ち、傷が治る。魔法って便利だなぁ、と改めて思った。
落ち着いたところで、私は辺りを見回した。
暗かったけど、「夜目」のおかげで視界は確保できている。
ここはどうやら天然の洞窟のようで、高さも私がやっと立てるくらいしかない。
落ちてきた滑り台のような穴は狭くて、登れそうにない。
こうなったら、先に進むしかないか。
でも、この高さじゃ飛んでいくのは無理そうだ。
……仕方ないから歩いていこう。
私は、足元と頭上の両方に気をつけながら、ゆっくりと洞窟を進み始めた。
……結論から言うと、私が落ちた洞窟は、迷宮だった。
ミニマムアント迷宮という、おまけ迷宮だ。
入り口からしてそうじゃないかと思っていたから、迷宮であることに驚きはしなかった。
でも、まさかあんな魔物が出るとは思ってもいなかった。
何の魔物が出たかって?そんなの、名前からわかるじゃない。
アリよ、アリ!
しかも、超ミニサイズ!
体長がほんの数ミリのアリが、洞窟内の地面にギッシリいた。
ああ!思い出しただけで鳥肌が立つ!
虫が嫌いな私は、とにかくアリを焼き尽くした。
結界で自分を守りながら、手当たり次第に「火球」を打ち込み、地面に群がるアリを焼き殺した。
一匹たりとも逃したくなかった。
経験値とか、素材とか、そんなことはどうだって良かった。
ただ、大っ嫌いなアリを駆逐し尽くしたい。
その思いだけで、アリ型魔物のミニマムアントを鏖殺し、迷宮を攻略した。
ちなみに、攻略報酬は下級魔力回復薬が3本で、称号の効果は、回避+10だった。