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89.ぼっち少女と常識4


 他の大陸に行けないなら、他の方法を探すしかない。

 そういえば、アニタさんは2つあるって言ってたっけ。もう1つは何だろう?

 そう思って聞いてみた。


「もう1つの方法は、上級職の高レベル冒険者に手伝ってもらうことです。パーティーを組んでさえいれば、自分が攻撃に参加しなくても討伐したことになりますから、初級職でも転職に必要な討伐数を満たすことができます。現在はこれが一般的な方法ですね」


 なるほど。強いパーティーに寄生させてもらうわけか。

 確かに、この方法なら弱くても強い敵の討伐数を稼げる。

 でも、協力してくれる人を見つけるのって大変そう。強い人から見れば、足手まといが増えるわけだし、嫌がる人も多そうだな。

 アニタさんならそこのところも知っているかな?


「手伝ってくれるパーティーの探し方ですか?一番簡単で確実なのは、冒険者ギルドで依頼を出すことですね。討伐したい魔物とその数、募集パーティーの条件や報酬金額を書いた依頼書をギルドに提出すると、ギルドが内容を審査し、問題がなければ依頼ボードに張り出します。依頼を受けてくれるパーティーが現れれば、ギルドを通じて連絡が来るようになっています」


 依頼という形で、パーティーを募集するのか。

 ギルドを通じた依頼なら、変なパーティーが来ることはなさそうだから安心ではあるけど、やっぱり他人の手を借りるのはなぁ。

 ハティさんたちとウルフ迷宮に行ったときも思ったけど、他の人がいると気を使わないといけないから面倒なんだよね。

 少し会って話をするくらいならまだマシなんだけど、迷宮はね……。

 でも、ひとりじゃ攻略できそうもないし、どうするかはこれから考えるとして、一応話だけは聞いておこう。

 私は、アニタさんに詳しい説明をしてもらった。


 アニタさんの説明によると、目的が討伐数稼ぎだけなら、依頼を受けてくれる人はそれなりにいるそうだ。

 もちろん、対象の魔物や報酬によってどれくらいいるかは違うけど、募集をかけたら最低でも1パーティーは受けてくれる人がいるとか。

 ただ、それなりにお金はかかる。

 例えば、オーク迷宮の第6層で1種類100体分討伐するとなると、最低でも金貨1枚はするそうだ。金貨1枚は約100万円……。簡単に出せる金額じゃない。

 当然だけど、もっと下の階層になれば金額も増える。危険度が増すたびに、高くなるというわけだ。

 それを全部の種類でやるとなると、とんでもない金額がかかる。

 そのため、多くの人は転職を諦めるか、お金を貯めるためにひたすら稼げる迷宮に潜り続けるそうだ。

 この前行ったマンドラゴラ迷宮に人がたくさんいたのは、そういう理由もあるそうだ。

 あの行列はすごかったからなぁ。お金が欲しいって人はたくさんいるんだね。


 とりあえず、説明を聞いて思ったのは、この方法はいろいろと面倒そうだということだ。

 まず、募集を出す必要があるのが面倒。

 それから、必要な分のお金を貯めるのが面倒。

 そして何よりも、他人と関わるのが面倒。

 というわけで、せっかく説明してくれたアニタさんには悪いけど、寄生はやめることにした。

 地道にレベルを上げるか、強力な魔法を取得して攻略することにしよう。

 ここには転移でいつでも来れるし、一度他の街に行って強くなってから攻略しに戻ってくるのもいいかもしれない。

 うん。そうしようかな。

 私がそんなことを考えていると、見透かしたようにアニタさんが言った。


「……やはり、トモリさんはこの方法は好まれないようですね。ああ、別に構いませんよ。どうするかは本人が決めることです。周りが何を言っても、最終的な決定は、その人自身がすることですから。例えそれで何かあったとしても、それは自己責任ということです」


 言っているうちにどんどんトーンが低くなっていく。またさっきの怖いアニタさんになってきた。

 ハティさんが、フィルリアの街で何かあったみたいなことを言ってたけど、本当に何があったんだろう?

 これはあとで絶対に聞いておかないとね!

 ちなみに、アニタさんはハティさんに窘められて元に戻った。

 それを見たハティさんが、あからさまに話題を変える。


「そ、それでね、私たちがここにいる理由なんだけどね、実は、イーサンに呼ばれたからなの」


 イーサンって誰だっけ?

 ………………ああ、カージアのギルマスのことか。ずっとギルマスとしか呼んでいなかったから、名前を忘れてたよ。

 それにしても、ギルマスが他の街のギルドのギルマスを呼ぶなんて、何かあったのかな?

 首を傾げると、今度はギルマスが説明してくれた。


「そのことなら、私から話そう。その二人にも詳しい説明はまだだったからな」

「説明を始めようとしたときに、トモリちゃんが来たのよね……」


 ハティさんが私を見て苦笑いする。

 どうやら、私が来たタイミングは悪かったらしい。

 でも、別に狙ったわけじゃない。そもそも、ギルマスの部屋に来る予定なんてなかったんだから、不可抗力だと思う。

 私は悪くない!

 そう思ったけど、わざわざ伝えるのもどうかと思ったので黙っていた。


「では、説明を始めさせてもらおう。本当は、ハヴィティメルネたちに意見を聞いてから、トモリさんに話そうと思っていたのだが、先程の話を聞いて問題ないと判断した」


 ギルマスはそこで一旦言葉を切ると、机に置いてあった紙を一枚持ってきて、私の前に置いた。

 そこには、指名依頼書という文字が書いてあった。


「トモリさん、あなたに指名依頼を頼みたい。内容は、先日あなたに調査していただいたことの原因の究明だ」


 そういえば、前に魔物の異常発生について調査をしたことがあったっけ。フィルリアの街まで行って調べたやつ。

 あれの原因究明って、私が?

 というか、何で私なんだろう?

 書いて尋ねると、ギルマスはさも当然というふうに答えた。


「あなたが適任だからだ。能力、為人ともに、今動員できる者の中で最適だ。フィルリアの街から来たばかりで、ハヴィティメルネのお気に入りだから、向こうでも顔が聞く。カージアの街の方は領主のお嬢様方と頻繁に会っているという話を聞いたから問題ないだろう」


 頻繁って、そんなに会ってないと思うんだけど。どこからそんな話を聞いたんだろう?

 でも、火のないところに煙は立たないって言うし、今後はもう少し気をつけないとね。

 私の疑問をよそに、ギルマスは続ける。


「あなたならこの依頼を達成できる。いや、あなたしかいないのだ。お願いだ、トモリさん。街の人々のために、どうか依頼を受けていただけないだろうか!」


 深々と頭を下げ、必死に頼み込んでいるギルマスの勢いに押され、私は思わず頷いてしまった。

 それを見たハティさんが、すかさずギルマスに教える。


「受けてくれるそうよ」

「本当かっ!?」


 バッと勢いよく顔を上げたギルマスが、もう一度尋ねる。

 私はもう一度首を縦に振った。

 引き受けたら絶対に面倒なことになるとわかっていたけど、断ることはできなかった。

 私はいつも押しに弱い。強く頼まれたら断れないのだ。

 そんなに自分に嫌気がさすけど、答えてしまったものはもうしょうがない。

 なんとかするしかないのだ。

 一方、ギルマスはというと。


「そうか、ありがとう!これで何とかなりそうだ!」


 笑顔で大喜びしていた。

 普段の落ち着いた無骨なおじさんという印象からは掛け離れたその喜び様に、若干引いた。

 ちなみに、アニタさんとハティさんも、引き攣った笑いを浮かべていた。






 まあ、そんなこんなで、私はギルマスからの指名依頼を受けることになった。

 依頼内容は、魔物の異常発生の原因を突き止めること。そして、可能であれば、それを止めること。

 場所はカージアの街及びフィルリアの街とその周辺。

 期限は一週間。成果があってもなくても、そこで一旦終わりになる。

 ただし、これといった成果がなくても、依頼失敗にはならないそうだ。

 ギルマスも、一週間で解決できるとは思っていないらしい。

 ただ、一週間あれば、他の街から高ランク冒険者が来る手筈になっているから、それまでやってくれればいいとのことだ。


 一週間後に強い人が来るのなら、私に頼まなくてもいいんじゃないかと思って聞いてみたら、領主に早く調査をするように言われているから、一週間後まで待てないのだとか。

 本当は、フィルリアの街からも何人かの冒険者に依頼を出す予定で、ハティさんたちに来てもらったみたいなんだけど、問題が起きてそれができなくなってしまったそうだ。

 それで仕方なく、転移魔法が使えて、戦闘もできる私にお呼びがかかったそうだ。


 転移魔法のことは、ハティさんが話したらしい。

 勝手に人の情報をバラさないでほしいと思って文句を述べたら、ギルマスはすでに気付いていたと言われてしまった。

 前回の調査で、半日でフィルリアの街まで往復したから、転移魔法が使えることはわかっていたのだとか。

 ということは、自分でバラしたようなものか。

 はあ……。きっと、こういうのを自業自得って言うんだよね……。


 まあ、仕方ない。

 どうせ、迷宮攻略に行き詰まっていたところだし、気分転換も兼ねて依頼をこなすとしよう。

 あ、その前に、アニタさんの異変についてもハティさんに聞いておかないとね。



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