プロローグ ぼっち少女の異世界召喚
私は、雪原燈里。16歳の高校生。
父親を幼いころに亡くし、ずっと母と二人で暮らしていた。
でも、私が中学に入った頃から、だんだん折り合いが悪くなってきたので、高校入学に合わせて一人暮らしをすることにした。
幸い、母が卒業までは学費も生活費も出してくれるというので、バイトもせず、のんびりと暮らしていた。
今日も、学校の図書室で閉館時間まで本を読んでから帰路についたため、住んでいるアパートに着いたのはすっかり暗くなってからだった。
時刻は夜の8時過ぎ。外は暗いが、まだそれなりに人通りのある時間。
アパートの外階段を上り、二階にある私の部屋の前にたどり着く。
いつものように鍵を開け、中に入ったところで、気が付いた。
「!!」
私しか住んでいないはずのアパートの部屋に、全身黒ずくめの見知らぬ男が立っていた。
男が手に持つリュックに、私の銀行のカードや、もしもの時のために隠しておいた現金が入っているのが見える。
窃盗犯だ。
私は大急ぎで踵を返し、玄関のドアを開けて外に出ようとしたけれど、男の方が早かったらしい。
脇腹に激痛が走った。
驚いて振り返ると、男がいた。右手には血に染まった包丁。
痛みと恐怖で体が硬直する。
その直後。
再び激痛が走った。今度は、首。
体から力が抜けていく。それと同時に、意識も薄れていく。
「ねぇ、あなた、私たちの世界で暮らさない?」
薄れゆく意識の中、そんな声が聞こえた。
「もしあなたが私たちの世界に来てくれるなら、向こうでの暮らしに役立つモノをサービスするわ」
優しい女性の声。彼女は、しきりに私を勧誘する。
私は彼女の言葉の意味を考えようとするけれど、頭がぼうっとしてうまく働かない。
それに、すごく寒くて、眠い。勧誘なんていいから、さっさと寝かせてほしい。
「……そのまま眠ったら、あなた死ぬわよ」
また声が聞こえたけれど、私にはもう、その意味を理解することはできなかった。
意識が闇に飲まれて、消えていく。
「はあ……仕方ないわね。本人の明確な同意は得られてないけど、喚んでしまいましょう。ああ、文句ならあとであの子に言ってちょうだいね」
その声を最後に、私は意識を手放した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目を開けると、知らない景色が広がっていた。
青い空、白い雲、そして、見渡す限りに生い茂る無数の樹木。
私は、森の中にいた。
ここは、どこだろう?
辺りを見回してみても、木があるだけで、目印となりそうなものは何もなかった。
なぜ私はここにいるのだろう?
どうやってここに来たんだろう?
それを知るために、一つ一つ出来事を思い出していくことにした。
刺されて意識がなくなっていくところまで思い出して、女性の声が聞こえたのを思い出した。
声の主は、私を何かに勧誘していた。
内容はよく覚えてないけれど、この状況を見れば、なんとなく答えは出る。
死んだはずなのに生きている自分。消えている傷に、誰かの呼び声。見知らぬ景色。
これは、そう。
異世界召喚
というヤツだ。