嫌われ者
桜が満開になり風は暖かく、ポカポカ陽気になり眠気を誘われ寝ても寝ても寝ていられる過ごしやすい季節になり、心踊る自分がいる。
新しい教室に新しいクラスメイト、数週間使われていなかった教室の埃っぽい匂い、何人か知っている連中もいるが友達というわけじゃない。
「ぉはよー」と軽く挨拶をし、教室に入り一番後ろの俺の席につき弁当を机の中にしまい、机に突っ伏して始業式が始まるまで寝ようと思っていたら物凄い勢いで、俺の後ろに幼なじみの雪子が覆い被さって来た。
「直輝おはよう!!!!」
「だぁー!? 耳元で大声で叫ぶな! うるさいわ!」
シャンプーか石鹸の良い匂いがふわっと俺の鼻をかすめ、さらに背中にふにふにした物を押し付けられている。
「て言って嬉しい癖に~。 女子高生だぞ? 女子高生に抱きつかれて、おっぱいまで背中に押し付けてあげてるサービス付きだぞ?」
雪子とは、幼稚園からの付き合いで今までは同じ学校であっても、同じクラスになる事はなかったのだが、今回の高校3年のクラス替えで同じになってしまった。
雪子はボブカットのちょっとふっくらしたスタイルをしていて愛嬌のある女だ。そして胸もでかい。
だから、結構うちの学校だけに限らず他校の生徒からも人気があった。
その為、この状態は非常にまずい。今クラスの中にいる生徒達の目は一斉にこちらへ向けられ、男子達からは羨望の眼差しが、女子からは冷ややかな視線が送られている。
「おい! 雪子! どけって!」
「え? なんで? お風呂一緒に入ったり、一緒の布団で寝た仲じゃーん!」
クラス中が一気にざわついて、色めきだっている。
いや、当たり前だよね?朝から健全な男女がイチャイチャ始めるわ、誤解招くような発言するわ、興味を示さない方がむしろ普通じゃない。
俺は机に突っ伏して背中に雪子を乗せている体を一気に起こして、雪子をどかした。
その弾みで、雪子がバランスを崩し、よたよたとロッカーにぶつかる。
「ひゃっ!? いったーい!!」
「お前が悪いんだからな! 突然背中に飛び乗ってきて、一緒に風呂やら布団に入っただの誤解招く発言するから! 大体幼稚園の頃の話じゃねーか!」
「イタタタ」と痛みと驚きで顔を歪めている雪子に向かってビシっと言った。
こいつは、昔からすぐに調子に乗る所があるから最初にきちんと言ってあげないとエスカレートしてしまうからな。
「おい」と突然後ろから肩を掴まれ、ぐいっと引き寄せられて、肩を掴んできた奴の顔を拝めた。
誰だこいつ?全く知らない顔である。きっと今回の新しいクラスメイトなんだろう。
それにしても冴えない顔した男だ。特徴が全くない。中太り?いや、予想に反した凄い出っ張ったお腹と眼鏡くらいしか判断要素がない。
おおかた、雪子に良い所を見せて好感度を上げたいだけの下心満載のキモ男子だろう。
「お前、女性に暴力を振るうのをやめろよ!! 謝れよ!」
「あ"? デブキモ眼鏡が、何イキってんだよ? 俺は重たくて邪魔だったこいつをどかしただけで、暴力なんか振るってねーんだけど?」
「だ、誰がデブキモヲタ眼鏡だ!?!? て、訂せ······シブゥベ!」
下心丸見えの男って本当に気持ち悪く、俺は気付いたらデブキモ眼鏡の胸ぐらを掴んでしまっていた。
それにヲタとは言ってない。断じて言ってない。
いつまでも掴んでんのも手が疲れるからドンっと突き飛ばす。
あー。でも、ダメだ。このデブキモ眼鏡に一言だけ言わなきゃ気持ち治まらんわ。
ていうか、軽く突き飛ばされただけでブヒブヒ聞こえそうな泣き声出してるって情けねーな。
涙流しながら口は切れて、脂汗を滲ませてるわ、不快極まりねーな。
「おい? デブキモ眼鏡? お前下心満載なのが丸わかりなんだよ。 雪子と付き合いたいのか? 好意持たれた···」
「やめてよ!!」
突然横から聞き慣れた声······そう、雪子に会話を遮られた。
それに続き、やいのやいのと周囲の野次馬どもか騒ぎだす。
一人じゃ何も出来ない、怖くて動けない、自分一人に責任を押し付けられるのが怖い、そんな情けない連中がいくら野次を飛ばそうとも、屁とも思わないが、問題はこいつだ。雪子。
目を赤く血走らせ、怒りからぷるぷると体を震わせ、拳をこれでもかって位握りしめているのがわかる。
はぁ。面倒。
「直輝は、なんですぐに暴力を振るうの!? 本当は一番暴力が嫌いなはずなのに、どうして嫌われる事ばっかするの!?」
「面倒だからだよ。 そいつみたいに下心満載な男もむかつくし、自分一人じゃ何も出来ないく···」
♪ピンポンパンポーン♪
"始業式が始まるまで15分前になりました。 生徒の皆さんは、会場になっている体育館へ移動を始めてください。 繰り返しお伝えします。 始業式が······"
「みんな、こんなバカ放っておいて、早く体育館に行こ? ほら、えっと······」
雪子は、先ほど俺に殴られ、まだ教室の床にへたり込んでいたデブキモ眼鏡に手を差し出してやり、立ち上げさせてやっている。
「あ、ありがとう。 僕は、大村······大村敏也って言うんだ。」
「そっか、大村君ね。 私は、勝山雪子。 よろしくね。」
クラスの人間は、俺を置いて、ぞろぞろと教室を出ていく。
そういえば、同じクラスのはずの、もう一人の幼なじみ武広が見当たらなかったな。
どうせ始業式だけで、昼前には帰るだけだからサボりだろうな。
とにもかくにも、敵だらけ、もしくは嫌われ者として俺の高校生活最後の一年は、こうして始まったんだ。